Disc Review

Wake The World: The Friends Sessions + I Can Hear Music: The 20/20 Sessions / The Beach Boys (Capitol/UMG)

投稿日:2019.02.01 更新日:

Friends2020

ウェイク・ザ・ワールド〜ザ・フレンズ・セッションズ+アイ・キャン・ヒア・ミュージック〜ザ・20/20セッションズ/ザ・ビーチ・ボーイズ

去年の暮れ、駆け込みでリリースされた発掘音源集。今どきCDなんて誰が買ってるの…的な時代性を思いきり反映して、現状フィジカル発売なし、デジタル・ダウンロード/ストリーミングのみ、というアンソロジーです。要するに最近多い、EUにおける著作権保護期間切れに対抗するための初出未発表音源集。今出てるレコード・コレクターズ誌2月号のリイシュー・アルバム年間ベスト10にも物議を醸すこと覚悟で選出させてもらいました。何にせよ、両盤ともレア音源満載で内容最高。

この時期、1968〜69年ごろのビーチ・ボーイズというと、もう、正直すべてがうまくいっていなかったようだ。人気も底。ぼくが彼らの音楽のとりこになったのは奇しくもこの時期、ぼくが中学生だったころだけれど、そのせいもあって学校でビーチ・ボーイズの話ができる友達なんかひとりもいなかった。

ヒットチャート的な視点から振り返ると、66年に大傑作シングル「グッド・ヴァイブレーション」を全米1位に送り込んだのがビーチ・ボーイズのピークで。その後、67年、中心メンバーだったブライアン・ウィルソンが持てる才能と情熱のありったけをつぎ込んで取り組んでいたアルバム『SMiLE』がお蔵入り。その穴を埋めるようにして67年に出た2枚のアルバム『スマイリー・スマイル』と『ワイルド・ハニー』は、それぞれ全米41位と24位。内容のいかんにかかわらず、チャート的に全盛期の勢いは消え失せていった。

所属するキャピトル・レコードとの間には深刻な訴訟問題まで起こっていた。最若年メンバーのカール・ウィルソンは徴兵拒否問題で裁判に巻き込まれていた。オープニング・アクトにバッファロー・スプリングフィールドとストロベリー・アラーム・クロックを据え、新しいロック・ファンにもアピールしようとビーチ・ボーイズ自らがプロモートした南部ツアーも、マーティン・ルーサー・キング牧師の暗殺事件のあおりを食らって中止になった。マイク・ラヴはいかがわしい思想家、マハリシ・ヨギに入れ込み、全米17都市を回るマハリシとのジョイント・ツアーを計画して失敗。50万ドルの赤字を出した。

確かに商業的に見ればこの上ない危機的状況。が、音楽をクリエイトする面においては、もしかしたらこの時期は、ブライアンとビーチ・ボーイズにとってとても幸福な状況だった気がする。

62年にメジャー・デビューを果たして以来、ビーチ・ボーイズは…というか、たったひとりでほぼすべての曲を作り、アレンジし、プロデュースしてきたブライアンは、所属するキャピトル・レコードから年間シングル4枚、アルバム3枚という過酷なリリース・スケジュールを課せられていた。けれども、セールスが明らかにどん底へと向かっていたため、キャピトルも以前のように過酷なリリース・スケジュールを提示してこなくなった。

64年から66年まで、激しいライバル意識を燃やしてビートルズに挑んでいたブライアンも、『SMiLE』の失敗以降、彼らへの挑戦をきっぱり断念していた。ビートルズと並んで、ブライアンが愛憎入り乱れる複雑な思いを抱いてきたフィル・スペクターも、すでにこのころには半隠遁生活を送っていた。ブライアンにはもはや挑みかかるべき“敵”などいなかった。良くも悪くも、62年にキャピトルと契約して以来、この時期が初めてブライアンとビーチ・ボーイズにとって何ひとつ制約のない音楽活動に専念できる自由な状況だった。

そうした時期に制作されたアルバムが『フレンズ』と『20/20』。どちらもある種の“解放感”に貫かれていた。セールス的には惨憺たる結果に終わったものの、流行の最新サウンドを無理に取り入れるわけでもなく、キャッチーなヒット・ソング作りにあくせくするわけでもなく、ブライアンとビーチ・ボーイズたちがのびのびと好きな音楽を作り上げているような、本当に美しいアルバムに仕上がっていた。

その辺のセッションからのデモ、初期ヴァージョン、別テイク、バッキング・トラック、ヴォーカル/コーラス・オンリー・テイク、未発表曲などをどっちゃり詰め込んだのがこの2種のアンソロジーだ。すごすぎて震えた。

真っ向からブートっぽい散漫な断片的レコーディングも少なくないけど、初期ヴァージョンとか、別ヴォーカル・ヴァージョンとか、興味深いテイクも多数。この時期、ブライアンはずいぶんとバート・バカラックにご執心だったようで、「ウォーク・オン・バイ」の未完成版カヴァーをやっていることはマニアにはおなじみだろう。もちろん、それも入っているけれど、今回はそれに加えてロセンゼルスのロック・バンド、ラヴが当時ヒットさせていたバカラック・ナンバー「マイ・リトル・レッド・ブック」まで歌っていたことが判明。いやー、面白い。

未発表に終わった『SMiLE』のための音源も入っているので、油断できない。「オール・マン・リヴァー」とかも今どきの言葉で言えば実にアメリカーナなアプローチで歌っていて、このあたりも『SMiLE』流れの試行錯誤がその後も続いていたことを教えてくれる。

ただ、配信オンリーゆえ、詳細なライナーとかクレジットがないんだよなぁ…。それが残念でならないけど。でも、ブートではない、オフィシャルでのリリースなので、音質もいいし。ありがたく頂戴します。この2種のスタジオ・レコーディングもの以外に、全114曲入りという68年のライヴ音源集も出てます。『ライヴ・イン・ロンドン』につながる素材集。入手はしましたが、まだ聞き通してません。全長5時間超え。それは無理…(笑)。

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