Disc Review

Ballads & Burlesque / Rachael Sage (Mpress)

バラッズ&バーレスク/レイチェル・サージ

それにしても、プロ野球。シーズン終盤、セもパもそれなりに面白い展開になってはいるものの、なんだか落ち着かないというか。胸くそ悪いというか。選手もファンも完全無視で、オーナーさんたちが聞く耳持たず、カネカネカネと啼きながら暴走しているわけですが。

日本って、いつの間に“偉い人”が何も説明しないで暴走してもOKなムードを許容し始めちゃったのだろう。話し合いをしない、あるいは、したとしてもアリバイっぽく顔合わせの場を設けるだけで、他の意見に耳を傾ける気すらない、みたいな。自衛隊派兵にしてもそうだし、多国籍軍参加にしてもそうだし、年金ウンヌンに関してもそうだし、誰も頼んでない郵政民営化にしてもそうだし……。全部密室で、一部の関係者だけが集まって路線を決めて、それを後づけ的に、あってもなくても同じような国会で承認するだけ。

話し合いしろってんだよ。プロ野球界も。ちゃんと。まじに。選手とオーナーあるいは機構側とでちゃんと話せる場を設けろっての。選手会は話したがっているんだから。でもって、ファンに対してちゃんと説明しろ。お願いしろ。近ごろスポーツ新聞とかの一面を飾ることが多くなったオーナーどもの顔を見ていると、こんなやつらにわれわれプロ野球ファンは金を払ってるのかってことに気づかされて、一気に萎える。球場に足を運ぼうという気もしぼむ。選手に直接金出してるのはあんたたちかもしれないけど、その大元の金を払っているのは俺たちファンだぞと怒りが沸き上がってくる。

やっぱ、裏で儲けてる連中の顔が見えると、萎えるね。考えてみれば、音楽業界も同じで。例のCCCD問題にしても、結局音楽ファンとアーティストとの間で勃発した問題じゃなく、レコード会社とかレコード協会とか著作権協会とか、そういう裏で、あるいは中間でガッポガッポやってる連中が急にでかい声あげ始めて表面化した印象が強い。われわれ聞き手も、そりゃバカじゃないから、アーティスト単体でCDビジネスが成り立っているとは思ってないけど、でも、われわれは“主に”好きな音楽を提供してくれるアーティストに届けと願って金を払っているわけで。なのに、そのアーティスト本人の意向さえ差し置いて、中間業者ごときがCCCDなる愚策を高圧的に導入。おかげで、ぼくたちが払った金がどこに横流しされていたか、その構図までがくっきり浮かび上がってきちゃって。それだけでも萎えるってのに。加えて連中は、偉そうに“アーティストの権利を守るためだ”とか“音楽の未来を守るためだ”とかヌカしている、と。何度も繰り返し書いてきたことだけれど、この図式が特にむかつくのだ。

しかも、例のカーネーションのCCCD化問題にともなって最近一気に表面化したことだけど。レコード会社や事務所のスタッフたちも、実は現在日本で導入されているCCCD技術について、何も知らないんだね。最低の規格外技術であるCDSが導入以降どんなふうにバージョンアップしているのかとか、どんな不具合をCDプレーヤーに与える可能性があるのかとか、何も知らない。で、知らないくせに、“上”から言われた建前だけを無自覚に鵜呑みにして、「規格外か何だか知らないけど、現実に不具合はないらしいから、別にいいじゃん」みたいな態度でいるんだよなぁ。ほんとに。こないだロック系を自称する某女性音楽評論家さんと話してたとき、彼女もそんなこと言い出したのでびっくりした。

それもこれも、導入の決定権を握っている連中が何ひとつ、まともな説明をしないからだろう。だいたいさ、よく「CCCDをかけたらCDプレーヤーが壊れた」という報告がユーザーからあると、レコード会社の人とかCCCD推進派の人は「本当にCCCDが悪かったのか、相関関係はわからない。証明できるのか?」と答える。でもって、「CCCDでCDプレーヤーが壊れたという報告はいまだひとつもない」と結論づける。おかしいだろ? CCCDが絶対に悪さをしていないという証明を、導入側がしてくれなきゃ。すべての、とまでは言わないまでも、大方のプレーヤーで安心してかけられるという証明を、導入側がしてくれなきゃ。なんでそこまでユーザーが証明しなくちゃいけないんだ? それも含めて“ちゃんとした説明”だ。少なくとも理論上危険なプロテクトをCDに対して導入したんだから、実際は危険じゃないんですよという具体的な証明/説明を導入側がきちんとしてユーザー側を安心させるのが筋だ。できるもんならしてみろ……ですよ。それを、あんな抽象的かつ高圧的なシール1枚ですましてさ。あれで説明責任を果たしていると思っているのだったら、よほどユーザーをナメているってことだ。

そういえば、もうバレバレだろうから名指しで書いちゃうけど、エイベックスと東芝EMIの洋楽再発セクションとが現在ぼくに制裁措置みたいなことをしていて。これに関しても、実はぼくは彼らから直接、これこれこういう理由でもうあなたの仕事には協力しませんとか、資料もサンプルも今後送りませんとか、何も言われてないです。周囲の人から、そういうことになってるみたいよ……と教えてもらって知っただけで(笑)。

なんでみんな秘密裏に動くかなぁ。後ろめたいから秘密にするんだよね。間違いない。CCCDにしてもそうだし、自衛隊に関してもそうだし、プロ野球に関してもそうだし。ちゃんとした話し合いをしちゃうと、自分たちの論理の欠陥が浮き彫りになるから、そーっとコトを運ぶ。こういう動きに対して、まあ、上が決めたことだからもう動かせないし、見ないフリしてやり過ごそう……みたいな、クールな態度だけはやめましょう。一見かっこよく思えるかもしれないけど、それじゃやつらの思うつぼだ。みっともない。ロックンロールじゃない。そうそう。東芝EMIの洋楽再発セクションはジョン・レノンの『ロックンロール』のリマスター盤もCCCDでリリースするんだってね。うわぁ……。恥ずかしい。どうせ東芝EMIは今回も“EMI本社からの指示”ってのをCCCD導入の理由にあげるんだろうけど。ぼくが知りたいのは、以前も書いた通り、本社の強い指示に逆らえないって事情は、まあ仕方ないとしても、導入にあたって、なぜ規格外のCDS方式にこだわり続けるのかってことなのだ。でも、どうせレコード会社の社員の人たちはCDSが何かってことさえ知らないわけで。かといって勉強する気もなさそうだし。まともな返答は期待できないとは思うけど。でも、知らないくせに制裁措置だけはするし、無自覚かつ無責任にCCCDは安全だとか言い続けるわけだな、きっと。

いやいや、なんだかCCCDの話が長くなっちゃったけど(笑)。そうじゃなくて。ぼくが今いちばんむかついているのは冒頭にも書いたプロ野球のことですよ。長嶋が倒れたとたん、この始末ですよ。文化滅亡の日も近いのか? ぼくは選手会のスト、支援しますよ。全面支援。がんばれ古田。選手会が100万人ものファンの署名を集めたというのに、いまだ「そんなの一部の声だ」とかほざいていたときと同じ暴走姿勢を崩さないオーナー連中に、ちゃんとした話し合いの場を作らせろ。話はそれからだ。

そんなむかつき満載の日々、ぼくの気分を盛り上げてくれているのは、もう書いちゃっても大丈夫だろうから書いちゃいますが、ブライアン・ウィルソンの最新アルバム『SMiLE』です。日本盤のライナーを書くために一足先に盤を手に入れて聞きまくってます。詳しい内容はもうちょい待ってもらいたいのだけど。今回の新版『SMiLE』、鉄壁のアンサンブルを誇る現在のブライアン・ウィルソン・バンドが一丸となって作り上げた初めてのスタジオ・フル・アルバムって意味でも重要。過去、何度も何度もライヴという場でこのバンドの素晴らしさ、凄まじさを実感してきたファンとして、これは本当にうれしい1枚だ。そりゃもちろんビーチ・ボーイズによる『SMiLE』の完成形を聞ければ、それがいちばんうれしいに決まっているけれど、ビーチ・ボーイズのメンバーも、当時レコーディングに参加したセッション・ミュージシャンたちも、他界するか、ぐっと高齢化してしまった今、とりあえず望める最高のスタジオ版『SMiLE』が新たに誕生した、と。そんな感じです。詳しくは、米盤が正規リリースされる今月下旬にでも。

というわけで、軽いおすすめ盤を1枚、ピックアップしておきましょう。90年代後半からほぼ年1枚、着実なペースでしっかりしたアルバムを出し続けているニューヨークの女性シンガー・ソングライター、レイチェル・サージ(でいいのかな? あるいは、セイジ?)の6枚目。アーニー・デフランコが目をかけたことで注目を浴びるようになった彼女だけれど、今回もまたなかなか好感の持てる出来です。この人、バレーや演劇の経験もあるとかで、さりげなくも豊かな表現力/歌心が魅力。今でも放送局用のジングルを作ったり、CMを手がけたり、多才な人らしく、その辺の味もメロディ作りに活かされているようだ。旧作で印象的だったエスニック・パーカッション系の使用は減って、よりストレートなピアノ系アメリカン・シンガー・ソングライター色が強調された仕上がり。チェロやホーンのあしらい方も面白い。歌詞の世界も、けっこう内向きにドロドロしていた旧作に比べるとちょっとだけ外向きになったかも。リッキー・リー・ジョーンズやノラ・ジョーンズあたりが好きな人にもそこそこおすすめできそうな新作です。 

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