Disc Review

Songs for Groovy Children: The Fillmore East Concerts / Jimi Hendrix (Legacy Recordings/Sony)

バンド・オブ・ジプシーズ:コンプリート・フィルモア・イースト/ジミ・ヘンドリックス

もしタイムマシーンがあったらぜひ体験してみたいロック・ヒストリーに残る名コンサートというと——。ビートルズの1964年、ハリウッド・ボウルとか。ボブ・ディランが初めてエレクトリック・ギターを持ち出した1965年のニューポート・フォーク・フェスとか。1967年のモンタレー・ポップ・フェスとか。かのウッドストックとか…。

でも、どれかひとつと言ったら、これかも。1969年の大晦日、12月31日と、翌日、1970年の元旦、1月1日に、ニューヨークのフィルモア・イーストで毎夜2回ずつ、計4公演行なわれたザ・バンド・オブ・ジプシーズのコンサート。

ギターがジミ・ヘンドリックス、ベースがビリー・コックス、ドラムがバディ・マイルズ。3人の黒人ミュージシャンによる超強力ロック・トリオだ。ジミヘンの場合、最初にブレイクを果たしたバンド、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスもロック・トリオだったので、なんとなく同一線上というか、単なるメンバー・チェンジのように思われているフシもなくはないのだが。

いやいや。なんというか、こう、意図とか意欲とか目論見とかがより一層ソリッドに絞り込まれているぶん、エクスペリエンスよりもバンド・オブ・ジプシーズのほうが今振り返ると抗いようのない強烈な存在感を放っている気がする。

彼らが50年前のフィルモア・イーストで提示してみせたサウンドはその後のシーンに計り知れない影響を与えた。ライヴを体験したマイルス・デイヴィスが、“俺はこういう音楽をやりたかったんだ”と熱く語ったというエピソードもおなじみだろう。彼らが聞かせたのは、ファンクやリズム&ブルースの要素とハード・ロックの要素を合体させた斬新な音楽性。のちにブラック・ロック、あるいはファンク・ロックと呼ばれるようになるミクスチャー音楽のプロトタイプだった。

が、その後、メンバー間の意識のすれ違いや人種差別をめぐる偏見、稚拙なマネージメントなどのせいで、結局は公式スタジオ録音も残さぬまま、1970年1月末にマディソン・スクエア・ガーデンで行なわれた反戦チャリティ・イベントへの中途半端な出演を最後にバンド・オブ・ジプシーズは解散。それだけに、デビュー・ライヴにあたるフィルモア・イースト音源が、ある意味彼らのすべてという感じもあって。

そのため、1970年にそれらのライヴ音源から6曲をセレクトし1枚もののアナログLPへとまとめられたオリジナル版『バンド・オブ・ジプシーズ』から漏れた音源にもファンは興味津々、熱い眼差しを送り続けた。ジミヘン他界後も様々な形でこの伝説的な4公演で記録された音源が、公式、非公式入れ乱れながら世に出続けた。

オフィシャルなものだけざっと振り返っても、まず1986年に、このトリオによる演奏じゃないものまで含む怪しげなLP『バンド・オブ・ジプシーズ2』が出て。1999年に『ライヴ・アット・ザ・フィルモア・イースト』ってCD2枚組が出て。2010年のCD4枚+DVDボックスセット『ウェスト・コースト・シアトル・ボーイ〜ジミ・ヘンドリックス・アンソロジー』に1969年大晦日のセカンド・セットから3曲が収められて。2016年に、同じく1969年大晦日のファースト・セットを完全収録した『マシン・ガン:ザ・フィルモア・イースト・ファースト・ショー』が出て…。

われわれファンはそれらを延々買わされ続けてきたわけだけれど。そんな、楽しくもゴールの見えない長い旅ももう終わりだ。ついに出ました。伝説のライヴから50周年を迎えるタイミングで2日間全4公演を完全網羅したCD5枚組ボックス。まさに夢の実現。まあ、ブートではもう同趣向のものは出ていて。ぼくも2種類持ってますが(笑)。やっぱりオフィシャルはいい。ファンとしてはこの上なくうれしいリリースだ。

先述したような様々な発掘盤があるから、既出音源だらけではあるものの、それでも完全初出が8曲。これまで映像のみで公開されていたものが3曲。未編集および新ミックスが12曲。聞き逃せない。ブックレットには未公開写真も満載。ネルソン・ジョージの解説も掲載されている。もっとも興味深いのがビリー・コックスの回想記。まだまだ手探り状態で突入した大晦日のファースト・セットを終えたあとのジミヘンの興奮ぶりなども綴られていて、胸が躍る。日本語ライナーは不肖ワタクシめが曲目解説中心に書かせていただきました。光栄至極にございます。

くそー、生でこのトリオの「マシン・ガン」とか聞いてみたかったぜっ! 腰抜けるんだろうなぁ…。

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