Disc Review

Losst and Founnd / Harry Nilsson (Omnivore Recordings)

ロスト・アンド・ファウンド/ハリー・ニルソン

ハリー・ニルソンが亡くなったのが1994年1月15日。あれから、もう25年になる。その前年、1993年のヴァレンタイン・デイに彼を襲った心臓発作が完全に回復していなかったとのことで、米ロサンゼルス郊外の自宅で就寝中に他界。52歳という若さだった。

死去する数日前、最新アルバムの録音を完了したばかりだったと伝えられた。そういえばソニーとシェールの娘さん(今は性転換しているので元・娘さんですが…)が在籍していたバンド、セレモニーが1993年にリリースしたデビューCDでニルソンはバック・コーラスを担当。そのブックレットには彼に対するスペシャル・サンクス・クレジットがあって。“あなたのデモ・テープは最高。そのままリリースしても大丈夫”といったニュアンスのコメントも添えられていた。

その当時にして、すでに10年以上、新作アルバムをリリースしていなかったニルソンだけに、長年彼の本格的活動再会を待ち焦がれていたぼくの胸は大いに高鳴った。けれども運命は残酷だった。

結果的に遺作となってしまったそのアルバム、仮題は『‎Papa's Got A Brown New Robe』あるいは『Harry's Got a Brown New Robe』だったらしい。もちろんジェイムス・ブラウンの代表作「Papa’s Got A Brand New Bag」のもじり。この屈折した、自虐的なユーモア感覚こそニルソンそのもの。逝去直後、最終的には『ロスト・アンド・ファウンド』というタイトルでリリースされることになるだろうというニュースが報じられはしたものの、それっきり話は立ち消えて、はや四半世紀。結局、その音源は一向に世に出ないまま、歳月だけが過ぎ去っていった。

1998年ごろ、ロサンゼルスのレコーディング・スタジオに関わっているスタッフから“テープ倉庫からニルソンの未発表アルバムらしきものが見つかったんだけど、聞く?”というメールをもらったこともあった。もちろん“聞く! 聞く!”と喜び勇んで返信したものの、実際に送られてきた音を聞いてみたら、なんのことはない、1980年にアメリカ以外の各国でリリースされた『フラッシュ・ハリー』だった、とか。そういうドタバタもあったなぁ…。懐かしい。

その後21世紀になってから、この“ブラウン・ニュー・ローブ”セッションの音源はブートレッグとしてまとめられた。CD1枚もの、CD2枚もの、いろいろなフォーマットで世に出た。2006年にワーナー/チャペルからオフィシャルに出た『パーフェクト・デイ〜ザ・ソングズ・オヴ・ニルソン1971-1993』というコンピレーションに、その中から2曲がピックアップされて収められたこともあった。

と、そんなハリー・ニルソンの最後のレコーディング音源。出そうで出ないツチノコ音源となりつつあったけれど。ついに! とうとう! やっと! 1枚もののオフィシャルCDにまとめられて登場した。タイトルは25年前にアナウンスされた通り『ロスト・アンド・ファウンド』。でも、綴りが違う。普通に“Lost and Found”ではなく“Losst and Founnd”。子音が重なる“Nilsson”同様、タイトルのほうも“s”と“n”をダブらせている。1977年の『Knnillssonn』と同趣向の洒落心って感じ。ちなみに、この『Knnillssonn』、日本では“クニルソン”って表記されているけれど、“Know”を“ノウ”と読むのと同様、実際には“ニルソン”と読むべきものだろう。

ま、それはいいとして。

今回の『ロスト・アンド・ファウンド』、プロデュースはマーク・ハドソン。1970年代ポップス・ファンにはハドソン・ブラザーズの一員としておなじみだろうか。プロデューサーとしても、エアロスミス、スコーピオンズなどから、シェール、リンゴ・スター、ハンソン、さらにはバハ・メンまで幅広いアーティストを手がけてきた。先述したセレモニーもハドソンがプロデュースしており、その流れで彼らは当時レコーディングが進められていたニルソンの音源を耳にしていたのだろう。

というわけで、オリジナル“ブラウン・ニュー・ローブ”セッションも、今回の編纂も、どちらもハドソンの仕事だ。ブートなどで聞くことができたデモ音源や未完成のセッション音源を下敷きに、ハドソンがニルソンの旧友たち、ジミー・ウェッブや、ヴァン・ダイク・パークス、ジム・ケルトナー、さらに父ハリーが亡くなったときまだ8歳だった息子のキーフォ・ニルソンらのサポートを受けつつ、25年越しの新作アルバムを完成させた。ロックンロール・スタンダード「ハイヒール・スニーカーズ」を盛り込んだメドレーものが1曲、ジミー・ウェッブ作品が1曲、オノ・ヨーコ作品が1曲。残りはすべて二ルソンのオリジナルだ。

ジョン・レノンをプロデューサーに迎えて制作された1974年の『プシー・キャッツ』以降、ブラックでシニカルな諧謔性をぐっと強めたニルソンだったけれども、本作はその時期、たとえば1975年の『俺たちは天使じゃない(Duit on Mon Dei)』や1976年の『眠りの精(Sandman)』のような、ちょっととっつきにくいけれど、いったんトリコになったらもう抜け出せなくなるドラッギーな“後期ニルソン”の傑作アルバム群と共通する手触りをぼくたちに届けてくれる。ユーモア感覚に満ちた音の仕掛けや歌詞表現も満載。やばい。

けっして“残り物”を寄せ集めました的な仕上がりではなく、マーク・ハドソンがきっちりひとつの新作アルバムとして全体を構成してくれているのが何よりもうれしい。うれしすぎる。さすがの手腕だ。やっぱりニルソンは無敵。最高です。

(※ちなみに、ハリー・ニルソンがソロ・アーティストとして本格デビューするまでのもろもろについて、ぼくが編集長をつとめるオンライン音楽雑誌『エリス』の21号で書いたことがあります。こちらのページでメールアドレスを登録すれば無料で読めますので、よろしければチェックしてみてください。その後のニルソンについては、もう30年近く前、ニルソンがまだ存命中だった1992年に某雑誌に寄せたバイオグラフィ記事を、その数年後、旧ホームページに転載したことも。懐かしい。こちらは、まあ、話のタネに、ひとつ。決定的に資料が不足しているころの涙ぐましい(笑)原稿なので、けっこう間違いも頻出していますが大筋はつかめると思います。)

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