Disc Review

The Tears Of Hercules / Rod Stewart (Warner/Rhino)

ヘラクレスの涙/ロッド・スチュワート

21世紀に入ってから、グレイト・アメリカン・ソングブック系のジャズ・スタンダードをはじめ、ロック・クラシックス、ソウル・クラシックスなど、さまざまなカヴァー・アルバムを連発し大当たりをとったロッド・スチュワート。

そうした路線にひと区切りをつけ、1970年代末からの長い付き合いになるキーボード・プレイヤー、ケヴィン・サヴィガーを共同プロデューサーに迎えたアルバム『タイム~時の旅人~』で改めてオリジナル曲中心の路線へと転じたのが2013年。以来、同じ流れで2015年の『アナザー・カントリー』、2018年の『ブラッド・レッド・ローゼズ』とアルバムを重ねて。

英ロイヤル・フィルハーモニーとの共演企画盤を間に挟み、このほどオリジナル路線復帰第4弾としてリリースされたのが本作『ヘラクレスの涙(The Tears of Hercules)』だ。通算だと31作目のオリジナル・アルバムにあたるらしい。数えてないけど(笑)。

今回は全12曲中9曲がロッドとケヴィン・サヴィガーと、あと近年ちょいちょい共作者としてもクレジットされているロッド・スチュワート・バンドのギタリスト、エマーソン・スウィンフォードによるオリジナル曲。まず、スピーディなキックの4つ打ちに乗って、アコースティック・ギターの軽快なスリー・フィンガーやトラディショナルっぽいフィドルが心地よく舞う、なんというか、ロッド版マムフォード&サンズみたいな先行シングル・トラック「ワン・モア・タイム」でアルバムがスタートして。

なかなか快調なオープニングながら、その後、音楽的タイプは違えど、2曲目「ガブリエラ」、3曲目「オール・マイ・デイズ」と同じようなテンポでキックが♪ドッ・ドッ・ドッ・ドッ…と前ノリで刻む感じの曲が続いて。ああ、なるほど、そうか、今回のロッドはこういう感じか、ずいぶん手厳しいレビューも目にするけど、喉の手術を受けてからは確かに声も弱くなったし、それでも、まあ、がんばってるかなぁ…くらいの気分で軽く聞き進めていたら。

4曲目。ソウル・ブラザーズ・シックスの「サム・カインド・オヴ・ワンダフル」を取り上げているあたりで、おー、こういうR&Bのカヴァーって、やっぱロッドっぽいよねーって感じが一気によみがえってきて。

続いて、T.レックスのマーク・ボランの功績を熱く讃える、ずばり「ボーン・トゥ・ブギー」なるトリビュート・ロックンロールがあって。♪ククッ・ア・ラマ・バマ…という調子のいいリフレインを伴ったノヴェルティR&B「クークーアラマバマ」があって。奥さまのペニー・ランカスターに捧げたといういかしたポップ・ソウル「アイ・キャント・イマジン」があって。ロッドお気に入りのソングライターのひとり、マーク・ジョーダン作の切ないバラードをカヴァーしたアルバム・タイトル・チューンがあって。

で、次の「ホールド・オン」。ここで、あー、ごめん、やっぱロッド、すげえかっこいい! と改めてぶちのめされた。怖れ、偏見、憎悪、差別、分断、格差…。今の世の中のひどい有り様を切々と歌い綴りながら、“A change is gonna come...”とサム・クックの歌詞を引用し、いつか誰もが気持ちを同じくできる日がやってくることを、ロッドが静かに、しかし熱く祈って。

続いて、郷愁と悔恨が漂う必殺のオリジナル・ドゥーワップ「プレシャス・メモリーズ」へ。なんてことない曲だけれど、これまたなんだか泣けて。さらに、なんとジョニー・キャッシュの1970年代の楽曲をカヴァーした「ジーズ・アー・マイ・ピープル」。ジョニー・キャッシュらしいクールな2ビートで淡々と展開するオリジナル・ヴァージョンに対し、こちらはかなりドラマティックなアレンジになっていて驚いた。で、ラスト。自分たち兄弟にサッカーの素晴らしさを教えてくれた亡き父親に思いを馳せ、次は自分が息子たちにその素晴らしさを伝える番だと歌う「タッチライン」へ。

最初のうちは、申し訳ないことに、ふーん…くらいの感じで聞き始めたアルバムだったけれど、最後にはかなり引き込まれました。さすがはロッド。いろいろあって歌声は弱ったものの、歌心はまったく衰えていない。いや、年輪を重ねてより深みを増したかも。

ロッドが今なおロック・シンガーなのかどうか、それはわからない。実際、もうロッドは終わったな、とか乱暴に言い放ってすませている自称“辛口ロック・ファン”とやらも少なくなさそうだけど。いやいや、ロックかどうかはともあれ、やはり並外れたシンガーであることは間違いない。スタンダード・ナンバーを歌いまくった時期に培われたストーリーテラーとしての魅力が、いい形でオリジナル曲にも還元されたのだな、と改めて思い知らせてくれる最新作でありました。

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