アンソロジー/アヴェレイジ・ホワイト・バンド
ぼくが大学生だったころ、1970年代の半ば、タワー・オヴ・パワーとかグレアム・セントラル・ステーションとかコールド・ブラッドとかクラッキンとか、米ベイエリア拠点のファンキーなバンドばっかり聞いていた時期があって。そのころ、本拠地は全然違うけれど、この人たちのレコードも併せてよく聞いたものだ。まじ、愛聴していた。
アヴェレイジ・ホワイト・バンド。
ご存じの通り、スコットランドで結成されたファンキーな白人ヴォーカル/インストゥルメンタル・バンドだ。すぐれたソングライターでもあるアラン・ゴリーと、後にポール・マッカートニー・バンドに加入したことなどでも知られるヘイミッシュ・スチュワートがツー・トップ。彼ら二人が曲によってギターとベースを互いに持ち替えて演奏する様子もなんだかやけにかっこよかった。『ソウル・トレイン』で生演奏シーンを見て大いに盛り上がったことを覚えている。
さらに、オリジナル・ドラマーだったロビー・マッキントッシュ(ギタリストのほうじゃないロビーさん)が若くして他界した後、名手スティーヴ・フェローニがその任を引き継いだこともおなじみだろう。かつてブルー・アイド・ソウルの最高峰、ラスカルズを手掛けたこともあるアリフ・マーディンのプロデュースのもと、見事なスコティッシュ・ホワイト・ソウルを聞かせていた。
「ピック・アップ・ザ・ピーシズ」「ワーク・トゥ・ドゥ」「カット・ザ・ケイク」「イフ・アイ・エヴァー・ルーズ・ジス・ヘヴン」「スクールボーイ・クラッシュ」「クイーン・オヴ・マイ・ソウル」「ア・ラヴ・オヴ・ユア・オウン」「クラウディ」「ゲット・イット・アップ」「ア・スター・イン・ザ・ゲットー」「ユア・ラヴ・イズ・ア・ミラクル」「ウォーク・オン・バイ」「ホエン・ウィル・ユー・ビー・マイン」「レッツ・ゴー・ラウンド・アゲイン」「ホワッチャ・ゴナ・ドゥ・フォー・ミー」「フォー・ユー、フォー・ラヴ」…。いやー、オリジナル、カヴァー取り混ぜて、好きな曲だらけ。
タワー・オヴ・パワーやグレアム・セントラル・ステーションのように、ばっきばきにソリッドなグルーヴをぶちかますわけじゃない。少しゆるめというか、英国風味のどこかウェットな、フォギーな感触があって。その案配がなんとも心地よかった。
結成は1972年初頭。それから、まあ、だいたい50年くらいってことで、ここらで一区切り。英エドセル・レコードがCD5枚組のアンソロジー・ボックスを編纂した。
1973年にMCAから出たファースト・アルバム『ショウ・ユア・ハンド』、1975年にアトランティックに移籍してアリフ・マーディンとタッグを組んだ本格デビュー作『AWB』、1975年の『カット・ザ・ケイク』、1976年の『ソウル・サーチング』、同じく1976年のライヴ盤『パーソン・トゥ・パーソン』、1977年のベン・E・キングとの共演盤『ベニー・アンド・アス』、1978年の『ウォーマー・コミュニケーションズ』、1979年の『フィール・ノー・フレット』、1980年の半分ベスト『ヴォリュームVIII』、1980年にアリスタ/RCAに移籍して放った『シャイン』、1982年の『キューピッズ・イン・ファッション』など、いったん解散するまでの諸作からの音源を中心にメンバー自身が選曲したものだとか。再結成後の音源はなし。
ディスク1は“ザ・クラシックス”と題された代表曲集。ディスク2は“サンプルド(ジャズ、ブルース&ファンク”、ディスク3は“サンプルド(ソウル&ファンク)”というタイトルで、過去、アイス・キューブ、パフ・ダディ&フォクシー・ブラウン、マーク・ロンソン&ダニエル・メリウェザー、リル・キム&モナ・リサ、ファットボーイ・スリム&メイシー・グレイ、トーン・ロックらがサンプリングしまくった名曲集。ディスク4は“7インチ、12インチ&アーリー・ヴァージョンズ”ということで、文字通りシングル・エディット・ヴァージョンとか、ロング・ヴァージョンとか、再発の際にボーナス・トラックとして発掘された初期ヴァージョン群とか、そういうものを集めた1枚。で、ディスク5は“レアリティーズ&ライヴ・レコーディングズ”。これも再発CDなどに収められて世に出たレア音源やライヴ盤の音源などを詰め込んだものだ。
アヴェレイジ・ホワイト・バンドが影響を受けた音楽と言うと、たとえばジェイムス・ブラウンのR&Bや、アトランティック・ソウル、スタックス・ソウル、モータウン・サウンド、フィラデルフィア・サウンドなど。彼らは英国の地から、そういった米国のファンキー&メロウな珠玉の音楽たちの魅力を、本場の人間ではないからこそ手にすることができた自由な感性でミックスし、撹拌し、呑み込み、消化し、自分たちのユニークなソウル・サウンドへと再構築してみせた。
この人たちの場合、基本的には自作曲が中心なのだけれど、それだけじゃなく。アイズリー・ブラザーズ、リオン・ウェア、ネッド・ドヒニー、バート・バカラック、ジェイムス・テイラー、ビル・チャンプリンなど、柔軟な感覚でカヴァーしたり共作したりしてきたソングライター陣の顔ぶれも幅広い。
で、そんな自由なアプローチが生み出したスコティッシュ・ファンク・サウンドが、今度はチャカ・カーンにカヴァーされたり、前述したようなヒップホップ・アーティストたちにサンプリングされたりしながら再び米国音楽シーンに影響し返していったわけだけれど。そうしたある種感動的な“行ったり来たり”をこのボックスでざっくり味わうことができる。楽しい。