Disc Review

De Todas las Flores / Natalia Lafourcade (Sony Music México)

デ・トダス・ラス・フローレス/ナタリア・ラフォルカデ

ロス・マコリノスと組んで2017年と2018年にそれぞれリリースした2枚のフォルクローレ再訪盤あたりをきっかけに、ここ数年、伝統的なメキシコ音楽を再訪する真摯なプロジェクトに専念してきたメキシコのシンガー・ソングライター、ナタリア・ラフォルカデ。2017年のプエブラ地震で大きな被害を被ったソン・ハローチョ・ドキュメンテーション・センターを再建するプロジェクトから生まれた2020年の『ウン・カント・ポル・メヒコ』は本ブログでも紹介したけれど。これまた好評だったようで、翌年には第2集が出たり。

もちろんライヴも頻繁に行なっているようで。相変わらず中南米シーンでは大人気らしいのだけれど。そうしたある種のルーツ探索期にいったん区切りをつけたか、2015年の『アスタ・ラ・ライス』以来となる自作曲ばかりの新作が登場した。

というか、『ウン・カント・ポル・メヒコ』のエントリーにも書いた通り、ぼくにとってナタリアのことを好きになってからあのアルバムが初めての新作リリースだったわけで。『アスタ・ラ・ライス』を聞いたのも当然、後追い。ということはつまり、今回の『デ・トダス・ラス・フローレス』こそがぼくにとって初の、自作曲のみによるナタリアさんの新作アルバムということになる。きわめて個人的な事情で恐縮ですが。ラテン・グラミーの常連シンガー・ソングライターとしての本領を発揮した新曲群を初めてリアルタイムに体験できたわけで。いやー、盛り上がる。

メキシコの音楽シーンのこととか、ぼくはまるでわかっていないので、今なおなんとも漠然とした情報しか把握していないのだけど。なんでもナタリアさん、2018年に大失恋を経験したらしく。その悲しみから立ち直っていくプロセスの中で、思いつくまま、スマホにスケッチした詞の断片やメロディを元に生まれた曲たちが収められているのだとか。

プロデュースはナタリア自身と、映画監督アレハンドロ・ホドロフスキーの息子さんとしてもおなじみのミュージシャン、アダン・ホドロフスキー。参加ミュージシャンはマーク・リボー(ギター)、セバスチャン・スタインバーグ(ベース)、シリル・アテフ(ドラム、パーカッション)、エミリアーノ・ドランテス(ピアノ)という興味深い顔ぶれ。ナタリアさん本人のヴォーカルとナイロン弦ギターを含め、ベーシック・トラックはテキサス州エルパソ郡トーニローのソニック・ランチ・スタジオでアナログ・テープに一発録り。その後、メキシコのベラクルスでストリングス、コーラス、ブラスなどがダビングされた。

冒頭を飾る「ヴィーネ・ソリータ」はアタマ1分半ほど、クラシカルな弦楽アンサンブルが続いて、やがてナタリアによるナイロン弦ギターの弾き語りへ。スペイン語なので歌詞の内容はよくわからないのだけれど、自動翻訳とか頼って意味をたどってみると、たった一人でこの世にやってきて、死への歩みを続けて、さまざまな争いに疑念を抱きつつ、夜、灯りを消して、闇の中、夢を見続ける。目覚めることを夢見ながら…みたいなことを、淡々と歌い始める。マーク・リボーのトワンギーなギターが切れ込んでくる瞬間とかなかなかにスリリングだ。

続くアルバム・タイトル・チューンではナタリアのギターによるボッサ・グルーヴに乗せて、私たちが植えた花も残っているのはもうわずか、一緒に眺めた月の思い出もすっかり薄れた…と、失った恋人の思い出を綴り、淡々と痛みを吐露する。

メロウなストリングスのアンサンブルと、訥々としたマーク・リボーのギターに導かれて始まる「エル・ルガール・コレクト」という曲も泣けた。“泣いちゃったら許してね。踊りながら泣いちゃったら。過去からの古い痛みを抱えているの。だから沈黙に戻らなくちゃ。心が語る真実に耳を傾けるために。夕陽のような真実。今この瞬間に光輝く真実。呼吸するくらいシンプルな真実…”とか、まあ、自動翻訳によればそんなこと歌っているみたいで。本当の自分をもう一度見つめ直そうとするナタリアさんの思いが描かれている。

あと、「カミナール・ボニート」って曲もお気に入り。“遠く離れたところへ行っても、家に帰ってきたら、私たちが一緒に覚えた曲がすべてそこにあるとしたら、とても素敵よね。あなたがどんなに遠く離れていても、朝早くにはあなたをものすごく近く感じるの。とても素敵よね…”とか、愛する人に対するなんとも解決しようのない思いを語っていて。続く快活なラテン・グルーヴが気持ちいい「ミ・マネラ・デ・ケレ」へと向かい、アルバム後半の流れを作っていく。

ちなみに、ナタリアさんが作詞していない曲が3曲あって。「マリア・ラ・クランデラ」はメキシコのシャーマンとしても知られるマリア・サビーナの詩にナタリアがメロディをつけたもので。ダンソンとクンビアとマリアッチとマーク・リボーのトワンギー・ギターなどが深く静かに交錯する1曲。“死は私に生き方を教えてくれたわ。そのことに感謝してる”と歌われる「ムエルテ」と、熱い求愛の歌「カンタ・ラ・アレーナ」はメキシコのシンガー・ソングライター、エル・ダヴィード・アギラールが詞を提供しているとのこと。先述した通り、アルバム後半に向かって曲調もアップ気味になっていって、描かれる世界観もポジティヴに。そうした流れを、これら3曲がうまく作り上げているような…。

この人、けっこう随所随所でヴォーカルのピッチが甘くなったりするのだけれど。それがまたなんとも独特の儚さというか、脆さみたいなものを演出してくれて。むしろぐっと惹きつけられてしまう。傷心から生まれたらしきアルバムながら、ここには悲しさだけでなく、受け入れる心とか、次へと向かう勇気とか、いろいろなものが歌い込まれている。いや、まあ、スペイン語、全然わからないんだけどさ(笑)。そんな気がする、と。Spotifyにはアルバムの内容を詳述しているらしきポッドキャストもあったけれど、スペイン語だった。歯が立ちません。アナログ(Amazon / Tower)、注文しましたー。ちゃんと入荷するかなぁ。

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