Disc Review

Live At Red Rocks / Rickie Lee Jones (Artemis)

ライヴ・アット・レッド・ロックス/リッキー・リー・ジョーンズ

リッキー・リー・ジョーンズという人は、本当につかみどころがない。

たぶん多くの彼女のファン同様、ぼくもメジャー・デビュー・シングルだった「恋するチャック」に一発でやられて。『浪漫』と邦題が付けられたファースト・アルバムを買って。ロウエル・ジョージら腕利きたちの絶妙なバックアップを得て、のびのびと個性を発揮している彼女の底抜けの魅力のとりこになった、と。そんな感じのファン。

ユニークな曲作りのセンス。サウンド的にもR&B、ジャズ、フォークなど、様々な音楽性をエキセントリックにミックスしていて。淡い水彩画を思わせる透明感に満ちた独自の音宇宙を構築することに成功した一枚に仕上がっていた。ハリウッドを舞台にした、古き佳きハードボイルド小説の女の子版を読んでいるような気分にさせてくれる歌詞も面白く。当時、よく聞いたなぁ。こればっかり聞いてた時期もあった気がする。何よりも魅力的だったのは彼女の“声”。かすかなつぶやきからセクシーな叫びまで。瑞々しく、表情豊かな世界を聞かせていて。あの、ファースト・アルバムは全体的にポップな手触りに貫かれてはいたものの、彼女の表現の振り幅がかなり広いぞってことを、すでにその時点で教えてくれていた。あれは、覚悟しときなさいよ……って、リッキー・リーおねーさまからの宣言だったのか。

で、そんな振り幅の広さに、以降ぼくたちは常に振り回されながら現在に至っているというか(笑)。セカンドの『パイレイツ』は、ずいぶんと評論家受けはよかったものの、音楽的には一気に暗さを増して。先輩格のローラ・ニーロや恋人だったこともあるトム・ウェイツ同様、私的な体験をブコウスキーやケルアックを彷彿させるドラマティックな神話へと再構成する歌詞の世界も、より求心力を強めた感触があって。ぼくは聞いていて怖くなったものだ。というか、怖いんであんまり聞かなかったというか(笑)。

でもって、3作目『ガール・アット・ハー・ヴォルケーノ』は10インチのジャズっぽいカヴァー中心のアルバムで。かといって、ビリー・ストレイホーンからレフト・バンク、トム・ウェイツまで、一見脈絡なさそうな選曲も含め、よくありがちなノスタルジックなカヴァー・アルバムというわけでもなく。この段階で、このコはわからんというか。このコには振り回されるぞという感触が、ますます確かなものになった。続く『ザ・マガジン』もそういう印象を強めたかなぁ。

その後、彼女はぐんと寡作になってしまって。『ザ・マガジン』の5年後に出た『フライング・カウボーイズ』はファーストにも通じる外向きな傑作だったけれど、他の数作は若い世代の音作りをむりやり追いかけたようなものがあったり、あまりぐっとこないカヴァーものだったり。そのつど、ぼくはちょっとがっかりしたり、でも、その気まぐれ具合に頬をゆるめたり……。リッキー・リー・ジョーンズの新作アルバムを買うときは、いつもそんな感じだった。で、今回の最新ライヴ盤。いつものようにあまり期待せずに買ってみたのだけれど。

いやー、今回はいいっすね。ベスト・ヒッツ・ライヴって感じで。真っ向勝負。気まぐれ、なし。デンヴァーのレッド・ロック・アンフィシアターでのライヴ。5~6年前に出た『ネイキッド・ソングズ』ってライヴ盤は、彼女流のアンプラグドというか、数曲以外、ギターかピアノだけをバックにおなじみの曲を文字通り“裸”にして聞かせてくれた、そういう形の傑作だったのだけれど。今回はバンド入り。彼女が内包するすべての魅力をダイジェストのような形でぼくたちに届けてくれる仕上がりになっている。ヴァン・モリソンの「グロリア」と、必殺の「ドント・レット・ザ・サン・キャッチ・ユー・クライング」のカヴァーもあるが、基本的には今回もおなじみのリッキー・リー作品がずらり並んでいて。彼女ならではの奔放さと、グルーヴ溢れるバンド演奏とがうまい具合に絡み合って。盛り上がる。うー、ライヴ見てーっ……って気分になってくる。

リッキー・リーの入門編としてもおすすめできそうな一枚。ライル・ラヴェットとの深いデュエットもあります。

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