Disc Review

Trouble No More: 50th Anniversary Collection / The Allman Brothers Band (Mercury/UMe)

トラブル・ノー・モア〜50周年コレクション/オールマン・ブラザーズ・バンド

去年の暮れ、オールマン・ブラザーズ・バンドの初期楽曲をビッグ・バンド・ジャズ・アレンジで“リイマジン”したアルバム『ア・ジャズ・セレブレーション・オヴ・ジ・オールマン・ブラザーズ・バンド』を紹介したときも同じような話を書いたのだけれど。

“サザン・ロック”というシンプルかつ大雑把なジャンル名でひとくくりにされてしまうことが多いオールマン・ブラザーズ・バンドも、活動時期によって実は微妙に持ち味が違う。どの時期のオールマンズが好きか、どのアルバムでのオールマンズ・サウンドが好きか…熱心なファンの間ではいつもそんな論議が繰り返されている。途中、何度か活動休止期を挟みつつ、アルバム・デビューを果たした1969年から解散が発表された2014年まで。45年間。長い歴史だ。そんな長い長い歳月を一気に駆け足で振り返るCD5枚組アンソロジーが編まれた。

ディスク1は“The Capricorn Years 1969-1979, Part I”と題された盤で。1969年のデビュー・アルバム『ジ・オールマン・ブラザーズ・バンド』、1970年のセカンド『アイドルワイルド・サウス』、1971年の必殺ライヴ盤『アット・フィルモア・イースト』、1970年の未発表ライヴの模様を収めて1990年に発掘リリースされた『アット・ラドロウ・ガレージ』からの音源で構成されている。冒頭に収められた「トラブル・ノー・モア」は今回初出。オールマンズにとって最初期の未発表デモだ。

この時期のオールマンズ・サウンドこそがもっともオールマンズらしいものだろう。デュアンの太く、深いスライド・ギター・プレイが炸裂。グレッグのゴスペルライクな歌声やソングライティング感覚も本格的に開花。南部ブルースを基調に、ジャズ、R&Bなどに触手を伸ばす形で熟成されたオールマンズ・サウンドを確立した時期の記録だ。デュアン・オールマン(ギター)、グレッグ・オールマン(キーボード、ヴォーカル)、ディッキー・ベッツ(ギター、ヴォーカル)、ベリー・オークリー(ベース)、ブッチ・トラックス(ドラム)、“ジェイモ”ジェイ・ジョハンソン(ドラム)という、ツイン・リード・ギター、ツイン・ドラムによる最強のラインアップを誇る時期だった。

ディスク2は“The Capricorn Years 1969-1979, Part II”。1971年10月にデュアンがジョージア州メイコンでオートバイを運転中、トラックに激突しわずか24歳の若さで他界。さらに翌72年11月、ベリー・オークリーもデュアンの事故現場からほんの3ブロックしか離れていないところでオートバイ事故によって他界した。オールマンズを大激震が襲った。が、結局彼らはベリー・オークリーに代わるベーシストとしてラマー・ウィリアムズを迎え入れ、デュアンの後任ギタリストではなく、キーボードのチャック・リーヴェルを加入させた、1ギター、ツイン・キーボード、ツイン・ドラムという新編成でバンド活動を継続していくことに決めた。そんなオールマンズ第2期の活動がこのディスク2に集約されている。

アルバムで言うと1972年の『イート・ア・ピーチ』、1973年の『ブラザーズ・アンド・シスターズ』、1971年のライヴを収めて2016年に発掘リリースされた『ライヴ・フロム・A&R・スタジオ』、1972年にプエルトリコで行なわれたロック・フェスティヴァルのライヴ盤『マル・イ・ソル』などからの音源。ディスクの最後に収められた「アーリー・モーニング・ブルース」は2013年にCD4枚組で出た『ブラザーズ・アンド・シスターズ』のデラックス・エディションにも収められていたもので。「ジェリー・ジェリー」とまったく同じオケで歌われたブルース。初期オリジナルLPの中にはジャケットに「ジェリー・ジェリー」ではなくこちらのタイトルが記載されているものもあったりして。ファンの間では謎の曲として語り継がれてきたものだ。

ディスク3は“The Capricorn Years 1969-1979, Part III / The Arista Years, 1980-1981”。ディッキー・ベッツのカントリー・テイストとグレッグのゴスペル/ブルース・テイストとが複雑にぶつかり合い、オールマンズの内部で音楽性が軋みを上げていった時期の記録だ。バンド内に不協和音が流れ始め、グレッグとディッキーはそれぞれバンドを離れてソロ・アルバムをリリースしたりするようにもなった。ディスク3に収録されているのはそんなバタバタしていた時期の音だ。

アルバムで言うと、1975年の『ウィン、ルーズ・オア・ドロウ』、1976年のライヴ盤『熱風(Wipe The Windows, Check The Oil, Dollar Gas)』ときて、ここでいったんバンドが解散。メンバー各々のソロ活動を経て、1979年にリリースされた再結成アルバム『いま、再び(Enlightened Rouges)』。ところが、ここでデビュー以来ずっと在籍してきたキャプリコーン・レコードが倒産してしまったため、新たにアリスタ・レコードと契約。1980年に移籍第一弾アルバム『リーチ・フォー・ザ・スカイ』を出して、1981年に『ブラザーズ・オヴ・ザ・ロード』を出して…。と、その辺の音源。

2曲目に入っている「マウンテン・ジャム」は、1973年の夏、ザ・バンド、グレイトフル・デッドとともにニューヨーク州ワトキンズ・グレンのレース・サーキットに60万人の観客を集めて行なったライヴから。9曲目の「ジャスト・エイント・イージー」は1979年にメリーランド州のメリウェザー・パヴィリオンで収録されたライヴ。1989年のボックスセット『ドリームス』で初お目見えした音源だ。

が、アリスタ・レコードはオールマンズ独特のルーズなサウンドをいじってむりやり“サザン・ロック界のレッド・ツェッペリン”に仕立て上げようとしていた感もあり、そうした方向性とうまく折り合いを付けられないまま、1982年、再びバンドは解散。メンバーは改めてそれぞれのソロ活動に散っていった。そして、バンドがデビュー20周年を迎えた1989年に再々結成が実現。グレッグ、ディッキー、ブッチ、ジェイモーに加えて、ディッキーのバンドで活動していたウォーレン・ヘインズ(ギター)とジョニー・ニール(キーボード、ハーモニカ)、そしてフロリダにあるブッチのスタジオで行なわれたオープン・オーディションで見出されたアレン・ウッディ(ベース)というラインアップでサマー・ツアーを行なった。

その勢いで、当時グレッグがソロ・アーティストとして属していたエピック・レコードとバンドとしても契約。トム・ダウドをプロデューサーに迎え、1990年、再々結成アルバム第一弾『セヴン・ターンズ』を制作した。その時期以降の音を集めたのがディスク4の“The Epic Years 1990-2000”だ。『セヴン・ターンズ』をはじめ、1991年の『シェイズ・オヴ・トゥー・ワールズ』、1994年の『ホエア・イット・オール・ビギンズ』からの音源が中心。2014年に発掘リリースされた『プレイ・オール・ナイト〜ライヴ・アット・ザ・ビーコン・シアター1992』や、1992年にインディゴ・ガールズとの抱き合わせでエピックがリリースしたプロモ用アンプラグド・アルバムからの音も入っている。「アイム・ノット・クライング」はビーコンでの未発表ライヴ。

で、ディスク5は“The Peach Years 2000-2014”。2003年にピーチ/サンクチュアリー・レコードからリリースされた『ヒッティン・ザ・ノート』と、ファイナル公演の模様を収めた2014年のライヴ盤『ビーコン・シアター10-28-2014』からの音源が中心。そこに4曲の未発表ライヴが追加されている。デレク・トラックスが在籍して、ニューヨークのビーコン・シアターを新たな本拠地にばりばりやっていた時代の記録だ。この時代もかなりよいです。未発表ライヴとして入っている、2005年3月21日、ビーコンでのウォーレン・ヘインズとデレク・トラックスとのアコースティック・ギター・デュオ演奏「リトル・マーサ」とか、しみます。

で、オーラスはディスク1の1曲目と同じ、「トラブル・ノー・モア」のファイナル・ライヴでの演奏で締め。いやいや。すごいバンドだったと改めて…。

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