Disc Review

Saturn Return / The Secret Sisters (New West Records)

サターン・リターン/ザ・シークレット・シスターズ

アラバマ州マッスル・ショールズ出身。ローラとリディアのロジャース姉妹によるアメリカーナ・デュオ、ザ・シークレット・シスターズ。

プロデューサーにデイヴ・コブ、エグゼクティヴ・プロデューサーにTボーン・バーネットという豪華ツー・トップの名前がクレジットされたデビュー・アルバム『ザ・シークレット・シスターズ』が出たのは2010年のことだ。素晴らしいアルバムだった。Tボーンやデイヴ・コブが提示するヴァーチャルかつノスタルジックな姉妹デュオという風情がたまらなかった。女性版エヴァリー・ブラザーズというか。古きよきルーラルな感触と、その背後に漂う、どこかデヴィッド・リンチっぽい闇と…。

あの傑作アルバムからもう10年か。4作目のアルバムが出た。ぼくはそっち方面にまったく興味がないので知らなかったけれど、表題の“サターン・リターン”というのは星占いとかの世界では有名な言葉らしく。20代から30代になるころ、サターン(土星)の周期とともに訪れる人生の試練のとき、不運のとき…みたいな? なるほど。そんなタイトルがぴったりくる波乱の日々を、ここ数年のシークレット・シスターズは過ごしてきた。

セカンド・アルバム『プット・ユア・ニードル・ダウン』が出たのは2014年。バーネットが単独でプロデュースを引き継いでいた。ファースト同様、メディアからは好評を持って受け入れられた。チャート上の戦績もさほどひどいものではなかった気がする。が、所属するリパブリック/ユニヴァーサル・レコードが期待するほどのセールスではなかったようで。リパブリックは翌2015年、唐突に彼女たちとの契約終了を一方的に宣告。おかげでシークレット・シスターズは窮地に。

あまりにも急なことで破産寸前。バンドにギャラを払うこともできなくなり、ツアーも中止。元マネージャーとの間に訴訟も持ち上がり、踏んだり蹴ったり。姉妹は故郷アラバマに帰って、もう一緒にプロとしての音楽活動をするのはやめようと決意しかけたという。早くも引退の危機だった。そんなとき、彼女たちに“私のツアーのオープニング・アクトをつとめてほしい”と声をかけてきたのがブランディ・カーライルだった。

ツアーのリハーサルの際、姉妹が作った新曲などを耳にしてブランディ姐さんは大興奮。すぐさま次のアルバムのプロデュースを申し出た。制作資金はクラウドファンディングで調達した。こうして2017年、ブランディとハンセロス・ブラザーズとのプロデュースの下、3作目のアルバム『ユー・ドント・オウン・ミー・エニーモア』が完成。ナッシュヴィルのインディ系レーベル、ニュー・ウェスト・レコードからのリリースだったが、これが全米カントリー・チャート30位まで上昇。グラミー賞最優秀フォーク・アルバム部門にもノミネートされた。破産騒ぎで引退寸前だったことを思うと、夢のようだった。ブランディさまさまだ。いくら感謝してもし足りない。

そして、今回の新作『サターン・リターン』へ。前作同様、今回もブランディ・カーライル&ハンセロス・ブラザーズがプロデュースを手がけている。レコーディングはワシントン州メイプルヴァリーにあるブランディのホーム・スタジオで。1年近く前からレコーディング作業は続いていたようだが、ちょうどその期間、ローラもリディアも妊娠/出産を経験。結果、作業がだいぶ長引いてしまったらしい。いつも一緒に歌声を重ねてきた姉妹ながら、今回はローラとリディアそれぞれ静養期間が違っていたため、別々にヴォーカル入れをした曲もあるようだ。

姉妹が揃って、女性として新たなフェイズへと足を踏み入れた瞬間の記録。そういう意味では、ある種奇跡的なタイミングでレコーディングされた1枚という感じだ。これまたシークレット・シスターズにとって初のことだが、収録された全曲、共作者なし、姉妹だけのオリジナル。成長することの喜びと嘆き、様々な愛の在り方、シンガー/ソングライターとしての佇まいなど、リアルな思いをこめた曲ばかりが並んでいる。なるほど、これが彼女たちにとっての“サターン・リターン”か。

無垢と成熟、天使のささやきと魔女の微笑、強さと脆さ、永遠と刹那、生と死など、様々なパラドックスが絶妙のバランスで共存する音世界。母親になった喜びを淡々と綴る曲もあれば、ブレット・カバノー最高裁判事の性的暴行疑惑をめぐるやり場のない怒りを描いた曲もある。彼女たちが、ブランディやジェイソン・イズベルら、近年のアメリカーナ系の優れた新世代ソングライター/ストーリーテラーと同じ地平に在ることを、静かに、けれども確かな手応えとともに教えてくれる1枚だ。

ダスティ・スプリングフィールドのようだったり、キャロル・キングのようだったり、ジョーン・バエズのようだったり、ギリアン・ウェルチのようだったり、ペンタングルのようだったり、インディゴ・ガールズのようだったり…。曲によっていろいろなキーワードが脳裏を過ぎる。アクの強くないハイウィメンって感じもある。が、確実にそのどれとも違う、現在を生きるロジャース姉妹ならではの世界観に貫かれていて。いい。デビュー当初、Tボーンらが用意したヴァーチャルなペルソナとは違う、よりナチュラルな姉妹の表情とハーモニーを堪能できる。

「ウォーター・ウィッチ」という曲ではブランディ姐さんの歌声も。個人的には、シークレット・シスターズなりの70年代ローレル・キャニオン・ポップスという手触りの「ハンド・オーヴァー・マイ・ハート」がいちばんのお気に入りです。

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