Disc Review

The Songs Of Bacharach & Costello (Super Deluxe) / Elvis Costello, Burt Bacharach (Universal Music)

ソングス・オブ・バカラック&コステロ(スーパー・デラックス)/エルヴィス・コステロ&バート・バカラック

エルヴィス・コステロという人は、刺激的な共演パートナーを見つけるのが本当にうまい。おなじみスティーヴ・ナイーヴらアトラクションズをはじめ、ジェームス・バートンやジム・ケルトナーらを含むコンフェデレイツ、クラシック畑のブロドスキー・カルテット、ジャズ系のチャールズ・ミンガス・オーケストラやピアニストのマリアン・マクパーランド、ヒップホップ系のザ・ルーツなど、国境/ジャンルを超えた顔ぶれと積極的なコラボレーションを展開している。

ポップ畑のダリル・ホール、ジャズ畑のトニー・ベネット、カントリー畑のジョージ・ジョーンズ、クラシック畑のアンネ・ゾフィー・フォン・オッターなど、デュエット・パートナーの選択に関してもこれまたバラエティ豊かだ。あるいはプロデューサーとしてのニック・ロウやT・ボーン・バーネット、ソングライティング・パートナーとしてのポール・マッカートニーやアラン・トゥーサン、そして伴侶としてのダイアナ・クラール…。

と、そんなコステロさんの多彩な共演歴の中で、ある種のピークを形成したのが、1996年、映画『グレース・オブ・マイ・ハート』の主題歌「ゴッド・ギヴ・ミー・ストレングス」のために実現した、巨匠バート・バカラックとのコラボレーションだろう。コステロが歌詞と歌唱、バカラックが作曲/編曲を手がけた作品だけれども、なんでもお互い多忙なスケジュールを縫っての共作だったため、時にはコステロがバカラックの自宅の留守番電話に歌詞を吹き込んだりしながらの作業だったとか。

けど、できあがった曲はまさにバカラック黄金時代の豊潤さとスケール感を再現したかのような大傑作。これですっかり意気投合したコステロとバカラックは、その後も共作を続け、98年、ついに二人が共作した新曲のみで構成されたアルバム『ペインテッド・フロム・メモリー』を完成させた。

まあ、コステロの場合、デビュー直後のコンピレーション『ライヴ・スティッフ』ですでにバカラック作の「恋のとまどい(I Just Don't Know What to Do with Myself)」を歌ったりしていたわけで。特に違和感のない、むしろ理想的とも言える組み合わせだったのだけれど。一方、ディオンヌ・ワーウィックを筆頭とする往年のバカラック・メロディの歌い手たちに比べるとコステロの歌い方が生々しすぎて、痛く、ちょっとひっかかるという否定的な意見もバカラック寄りのファンから聞こえてきてはいた。

確かにどの曲にも過去の様々なバカラック・ナンバーの手触りがそれぞれたっぷり感じられはするものの、とともにコステロならではの内省的な歌詞と皮肉っぽい歌声が溢れており、単にドリーミイなバカラック・ワールドだけを期待するリスナーには少々“重すぎる”1枚だったかもしれない。

が、それでも『ペインテッド・フロム・メモリー』は傑作だった。二つのすぐれた個性が一体化し、まるでひとりのシンガー・ソングライターの赤裸々な叫びを聞いているかのような気分になれる、理想的な共演盤だったと思う。

ご存じの通りバカラックは過去、ハル・デヴィッド、ボブ・ヒリアード、キャロル・ベイヤー・セイガーなど、様々な作詞家と組んで名曲を作り出してきたのだが、コステロと組んだ楽曲ほどパーソナルな手触りを感じさせたことはなかった。コステロとバカラックという二人のクリエイターが、お互いの功績を尊重し、敬意を払い、お互いの持ち味に大いに触発されながら新しい世界を生み出してみせた。『ペインテッド・フロム・メモリー』というアルバムはそんなふうにして生まれた名盤だった。

そんな名盤を、巨匠バカラックの他界を受けたこの時期に改めて再訪するアンソロジーが出た。それが本作『ソングス・オブ・バカラック&コステロ』。通常盤はCD2枚組だけど、2LP+4CDというスーパー・デラックス仕様も出ていて。やっぱこっちだよねぇ。高いけど…。

CDのディスク1はもちろん、その『ペインテッド・フロム・メモリー』の発売25周年を祝う2023年最新リマスター・アルバム。あのアルバムのタイムレスな魅力を改めて味わえるわけだけれど。

実は『ペインテッド・フロム・メモリー』をブロードウェイ・ミュージカルに発展させようというプロジェクトが進んでいて。『ビッグ・バン・セオリー』や『チャーリー・シーンのハーパー☆ボーイズ(Two and a Half Men)』といったテレビ・シリーズを手がけるチャック・ロリーと、バカラックのコラボレーターでもある詩人/劇作家のスティーヴン・セイターらがあれこれ作業を進めていた。この計画は残念ながら頓挫してしまったものの、その様子を描いたのが『テイクン・フロム・ライフ』と題されたディスク2。

このミュージカルのためにバカラックとコステロが新たに共作した曲のうち一部はコステロのアルバム『ルック・ナウ』やEP『パース』に収められて世に出ていて。そのあたり(「ドント・ルック・ナウ」「ヒーズ・ギヴン・ユー・シングズ」「フォトグラフズ・キャン・ライ」「ホワイ・ウォント・ハヴン・ヘルプ・ミー」「エヴリバディーズ・プレイング・ハウス」)も改めてこのディスク2に収められている。ビル・フリゼールが1999年にリリースした『ペインテッド・フロム・メモリー』関連盤『ザ・スウィーテスト・パンチ』から、カサンドラ・ウィルソンが歌う「ペインテッド・フロム・メモリー」とドン・バイロンがクラリネットで綴る「マイ・シーフ」も聞ける。

さらにバカラック&コステロといえば映画『オースティン・パワーズ』なわけですが。そのために作曲された「ライ・バック・アンド・シンク・オヴ・イングランド」のバカラックによるデモ音源も初登場。

加えて、やはりミュージカルのために用意された未発表曲「ユー・キャン・ハヴ・ハー」「テイクン・フロム・ライフ」「アイ・ルックト・アウェイ」「シェイムレス」「ルック・アップ・アゲイン」も。コステロが歌ったり、インポスターズとともにオーケストラと共演したり、ジェニ・マルダーやオードラ・メイが歌ったり、様々な形で収められている。ジェニ・マルダーはコステロの『ルック・ナウ』収録曲の「ストリッピング・ペイパー」を、オードラ・メイは『ペインテッド・フロム・メモリー』収録の「ホワッツ・ハー・ネーム・トゥデイ」をそれぞれピアノ1本をバックにカヴァーしたりも…。

ディスク3は、コステロとスティーヴ・ナイーヴが日本公演を含む様々なライヴで演奏したバカラック&コステロ作品や、往年のバカラック・ナンバーのカヴァーなどを収録。すでに『ペインテッド・フロム・メモリー』のツアー・エディションにボーナス収録ずみだったものもあるけれど、全9トラック中6曲が未発表音源だ。

で、ディスク4には懐かしき『ライヴ・スティッフ』からの「恋のとまどい」を1曲目に、1998年にバカラックとコステロでテレビ出演したときの同曲ののパフォーマンスをラストに据えて。その間にニック・ロウとの「ベイビー・イッツ・ユー」とか、アルバム『コジャック・ヴァラエティ』に収められていた「プリーズ・ステイ」とか、『オースティン・パワーズ』からの「恋よさようなら(I’ll Never Fall in Love Again)」とか、ロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールで1998年に録音された「涙でさようなら(Make It Easy On Yourself)」「マイ・リトル・レッド・ブック」「恋するハート(Anyone Who Had a Heart)」の未発表ライヴ音源とか、珠玉のバカラック・ナンバーがずらり収められている。

というわけで全45曲中、未発表ものは全部で19曲。アナログLPのほうはA面、B面、C面までが『ペインテッド・フロム・メモリー』、D面は『テイクン・フロム・ライフ』からのハイライトになっております。

ちなみに、通常盤2CDは前述したディスク1とディスク2を組み合わせたもの。CD4枚組フォーマットのほうはストリーミングもされているので、後半のライヴ音源などはそっちで楽しむことにして、ブツとしては通常盤を…という判断も悪くないかもです。

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