Disc Review

Hope Is the Thing With Feathers / Rhiannon Giddens (Nonesuch)

ホープ・イズ・ザ・シング・ウィズ・フェザーズ/リアノン・ギデンス

まずはいくつかお知らせを。ひとつは早稲田大学エクステンションセンターのオープンカレッジ講座「英米ロック史」。

つい先日、大滝さんのルーツを探索する夏の特別講座を終えたばかりですが。早くも次、秋のレギュラー講座がやってきました。

今回は10月の毎土曜日、10/03、10/10、10/17、10/24、10/31の午後1時10分〜2時40分まで、90分ずつの講座を行います。採り上げるテーマは、ポール・マッカートニー、タワー・オブ・パワー、ノラ・ジョーンズ、ドゥー・ワップ、そしてフランク・シナトラ。多彩なアーティスト、ジャンルをじっくり振り返ります。詳細は早稲田大学エクステンションセンターのホームページへ——。

そして、来週水曜日にはCRTです。今回はパンチ・ブラザーズの新作を中心に新時代のアメリカーナ最前線を探るという、ぐっとマニアックで、それゆえに奥深いテーマを掘り下げます。派手さのないテーマゆえか、まだお席、余裕があるみたいなので(笑)。お時間ある方、ぜひ参加して、一緒にじんわり浸りましょう。

その他、まだ日程がフィックスされていないイベントもあるんですが、そちらは詳細決まりしだいまたお知らせしますね。

てとこで、本日のピックアップ・アルバム。たぶん来週のCRTでもパンチ・ブラザーズと並んで主役となりそうな予感のリアノン・ギデンス。CRTでは昔から大人気の重要アーティストですが。本日、新作がリリースされました。『ホープ・イズ・ザ・シング・ウィズ・フェザーズ』。

今回の新作に関してリアノンは“ルイジアナ、コンゴ、イタリア、カロライナ――それらが一緒になって何かを作る。それこそがアメリカ音楽だ”みたいな趣旨を明言していて。深いなぁ…。

そもそも“アメリカーナ”とはいったい何なのか。カントリー、フォーク、ブルーグラス、ブルース、ゴスペル、R&Bなど、アメリカで育ってきたルーツ音楽を広く包含する便利な言葉ではあるけれど。その歴史をさらに深く掘り下げていくと、その先にはアフリカ系、ヨーロッパ系、先住民系など多彩な文化を背景に持つ人々の音楽が出会い、混ざり合い、互いに影響しながら、現在われわれが普通に接している米国音楽を形作ってきたわけで。

リアノンはものすごく意識的にその複雑な歴史を現代の音楽として鳴らし続けている。長いあいだ白人音楽の象徴のように語られがちだったオールドタイム・ストリング・バンド音楽の中にアフリカ系アメリカ人の歴史を掘り起こし、とりわけバンジョーという楽器が持つアフリカ由来のルーツを広く知らしめてきた。フォーク、ブルース、ゴスペル、クラシック、オペラまで自在に行き来しながら、アメリカ音楽は誰のものなのか、という問いを投げかけ続けている。

今回の新作もそんな1枚。2024年から2025年にかけて、ツアーの合間を利用しながら断続的にレコーディングされたものらしく。共同プロデュースは長年の盟友、自身も5月に新作を発表したばかりのダーク・パウエル。できる限りオーヴァーダブを使わず、ミュージシャンたちが一室で演奏する感覚をそのまま、演奏前の話し声や部屋の物音まで含めて記録している。

集まった顔ぶれも象徴的。ノース・カロライナ出身のリアノン、ルイジアナ出身のダーク・パウエルの他、おなじみイタリア人マルチ・インストゥルメンタリストのフランチェスコ・トゥリッシ、コンゴ出身のギタリストのニウェル・ツムブ、カロライナ・チョコレート・ドロップス時代からの盟友ジャスティン・ロビンソンらが参加している。てことで、これが先ほど引用したリアノンの言葉につながるわけだ。

伝統は保存するものではなく、受け継ぎ、呼吸させ続けるもの…的な? 収録曲は、リアノンとダーク・パウエルによるオリジナルが4曲、トラディショナルが2曲、ノース・カロライナの伝説的フォーク・ミュージシャンであるオラ・ベル・リードの「ハイ・オン・ア・マウンテン」、やはりノース・カロライナ出身の黒人フォーク/ブルース・アーティスト、エリザベス・コットンの「フレイト・トレイン」、先住民の血を引くシンガー・ソングライター、プーラ・フェの「ゴーイング・ホーム」。

アルバム・タイトルの“Hope Is the Thing With Feathers”は、エミリー・ディキンソンの有名な詩から取られたもの。“「希望」は羽根をつけた生き物――”とか、いろいろな日本語訳があるけれど。リアノンはとあるホテルの部屋でこの詩を思い浮かべていたところ、ふと旋律が浮かび、それをニウェル・ツムブに歌って聞かせたところ、彼がそこにハーモニーを加えて、ひとつの曲へと結実していったのだとか。

19世紀、ニューイングランドの白人女性詩人の言葉が、21世紀に、アメリカの黒人音楽家を経由して、コンゴのギタリストへと届き、ひとつの楽曲になったわけで。これがリアノンのアメリカーナ現在地なんだろうな。

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