スウィング・フィーヴァー/ロッド・スチュワート・ウィズ・ジュールズ・ホランド
3月に13年ぶりの来日を果たすロッド・スチュワート。
21世紀に入ってから、甲状腺癌克服のため喉の手術を受け、以前のような激しいシャウトや高音を繰り出すことができなくなったこともあって、グレイト・アメリカン・ソングブック系のジャズ・スタンダードをはじめ、ロック・クラシックス、ソウル・クラシックスなど、さまざまなカヴァー・アルバムを連発し大当たりをとったロッドですが。
そうした路線にひと区切りをつけ、1970年代末からの長い付き合いになるキーボード・プレイヤー、ケヴィン・サヴィガーを共同プロデューサーに迎えたアルバム『タイム~時の旅人~』で改めてオリジナル曲中心の路線へと転じたのが2013年。以降、番外編的に英ロイヤル・フィルハーモニーとの共演企画盤なども間に挟みつつ、オリジナル路線を継続していたのだけれど。
今回、再び往年の名曲のカヴァー路線へ。選び取ったパートナーはジュールズ・ホランド! 最適な組み合わせかも。8歳のころから叔父さんにブギ・ウギ・ピアノの手ほどきを受け、ティーンエイジャーのうちからロンドン近郊のクラブやパブでバレルハウス・ピアノを弾きまくり、16歳でスクイーズに加入したジュールズさん。鉄壁だ。
1992年からはジュールズ・ホランド&ヒズ・リズム&ブルース・オーケストラを率いて英BBCの長寿テレビ音楽番組『ジュールズ倶楽部(Later…with Jools Holland)』の司会およびバンマスも担当。あらゆるジャンルのゲストが出演していることでおなじみのこの番組に、しかしロッドはこれまでなぜか出演しておらず、二人のコラボは実現していなかったのだけれど。ついにロッド自らジュールズに共演を依頼。ジュールズのリズム&ブルース・オーケストラとともに本作『スウィング・フィーヴァー』を制作したのでありました。
取り上げているのは、アルバム・タイトルからも想像がつく通り、往年のジャズ、ジャンプ・ブルース、R&Bなど、主にロックンロール以前のスウィンギーなレパートリー群。ドリス・デイ/レス・ブラウン、ビング・クロスビー、ルイ・プリマ、ジミー・フォレスト、レイ・ノーブル、ルイ・アームストロング、ロイ・ブラウン、ファッツ・ウォーラー、サム・クックなどの持ち歌を楽しそうにカヴァーしまくっています。
以前の、わりとお行儀のよかったグレイト・アメリカン・ソングブック系のものと比べると、ジュールズ&ヒズ・リズム&ブルース・オーケストラのグルーヴィな演奏にバックアップされているぶん、ぐっと躍動的で。ロッドも煽られていい調子。
オリジナル路線のほうが好き、というファンもいらっしゃるとは思いますが。もともとこの人の場合、オリジナル曲にばかりこだわるタイプのアーティストではなく、いい曲ならば何でも独自の歌心で見事に自分のものとして歌いこなしてみせる柔軟なシンガーとして力を発揮してきたわけで。ジュールズという絶好の相棒を得て、そういうロッドの本領がいい感じに発揮された快作って感じです。