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Nothing But Pop File, vol.90: The Fleetwoods Came Softly

NBPファイル vol.90:フリートウッズの全米ヒット集

2月29日ですねー。うるう年。てことで、スロウバック・サーズデイ恒例NBPプレイリスト、4年に一度のチャンスでもあるので。2月29日がお誕生日の人を主役として取り上げましょう。

グレッチェン・クリストファー。1940年2月29日がお誕生日。おめでとうございます!

誰? とか言われちゃいそうだけれど。フリートウッズのメンバーです。フリートウッズ自体に関しても、誰? と言われそうだな(笑)。大滝詠一師匠も大好きだった男女混声ヴォーカル・グループで。大滝さんは生前、コンサートで伊集加代子さんたちとフリートウッズ・スタイルのコーラスものを披露したりもしていたっけ。懐かしい。

フリートウッズのことは以前、2016年に書いた本『アメリカン・グラフィティから始まった』でも触れている。ジョージ・ルーカス監督の映画『アメリカン・グラフィティ』で彼らの「ザ・グレイト・インポスター」という曲が流れるシーンの解説パートなのだけれど。その部分、ちょこっと引用しておきますね。本への商品リンクも僭越ながら下に貼らせていただきます(笑)。

フリートウッズはワシントン州オリンピアで結成された男女3人組ヴォーカル・グループだ。メンバーはゲイリー・トロクセルという男性と、グレッチェン・クリストファーとバーバラ・エリスという女性2人。ちょっと珍しい編成だ。ゲイリーのソフトな歌声をグレッチェンとバーバラの二人によるコーラスがバックアップするスタイルだが、シンプルなバッキング演奏のもと、リード・ヴォーカルとコーラスとがほぼ同じくらいの存在感で掛け合ったり、同時にハモったりするバランスが面白い。黒人ドゥーワップのコーラス・スタイルから泥臭さを徹底的に除去し、声を張らずにささやき声でハモる。ある種、画期的な発明だった。

“ドゥドゥビドゥ、ダンダン、ダンドゥダーンドゥビドゥ……”という印象的な男声フレーズに“カム・ソフトリー・ダーリン……”という女声のハモりが絶妙に絡むデビュー・シングル「やさしくしてね(Come Softly To Me)」が59年に全米1位に輝いたのを皮切りに、「ミスター・ブルー」(59年、1位)、「悲しき窓辺(Outside My Window)」(60年、28位)、「恋の廻り道(Runaround)」(60年、23位)、「トラジェディ」(61年、10位)など数多くのヒットを放った。随所に洗練されたテンション・ノートを効果的に取り入れたメロディ/ハーモニー感覚は今の耳にも新鮮に響く。

当時のアメリカは人種差別問題とともに男女格差の問題に対してもまだまだ自覚的な者が少なかった。多くの若いアメリカ女性にとって、郊外住宅に暮らす主婦こそが理想の姿。女性の社会進出などまだ夢のような時代だった。「本当にこれだけでいいの?」という疑問が多くの女性の脳裏をよぎり、ウーマンリブ運動の機運が高まっていくのは60年代半ば以降、もう少しあとのことになる。というよりも、いまだドナルド・トランプの底の浅い女性蔑視発言が報じられたり、それでもトランプを支持する層が根強くいたりするアメリカの現実を見る限り、まったく潜在的な状況は変わっていないのかもしれない。ヒラリー・クリントンですらガラスの天井をぶち破ることはできなかったのだから。

が、そんなアメリカの、半世紀以上も前の音楽シーンにおいて、フリートウッズは始まりからかなり女性主導の色合いが強いグループだった。リード・ヴォーカルは確かに男性のゲイリーが担当していたが、もともとデビューのきっかけをつかみとったのはグレッチェン。彼女が当時まだ設立間もなかったドルトン・レコードのトップ、ボブ・レイズドルフに積極的に話を持ちかけ、熱心に売り込み、見事契約を取り付けたのだった。60年代に入ると音楽シーンでもキャロル・キングやシンシア・ワイル、エリー・グリニッチなど自立した女性ソングライターたちが自覚的に活躍するようになってはいくのだが、まだ50年代末、グレッチェンのような存在は珍しかったに違いない。音楽的にはソフトなフリートウッズだが、自分たちが思い描く理想のサウンドをレコード化しようとするその姿勢はとてもアグレッシヴだった。

そういえば「ザ・グレイト・インポスター」の場合は、ソングライターもシャロン・シーリー&ジャッキー・デシャノン。女性どうしのソングライター・チームだった。彼女たちが作ったこの曲、内容としては自分の好きだった彼女が極悪の恋愛ペテン師のような男に騙されて、ほどなくひどい思いをすることにも気づかず新しい恋に落ちていくさまを、友達もなすすべなく見守るだけ……という、なんともシニカルなものだ。この曲を映画のために選んだルーカスに何らかの意図があったのだろうか。

というわけで、そんなグレッチェンさんのお誕生日を祝して、今回のNBPファイルはフリートウッズのホット100シングル集です。全米ホット100入りした彼らのシングル・ヒットは実は11曲しかないので、1曲、チャートインはしなかったけれど「コンフィデンシャル」って曲、足して計12曲にしておきます。この曲、もともとは1956年にソニー・ナイトがヒットさせたもののカヴァーなのだけれど。フリートウッズ・ヴァージョンも彼らの代表的名演に数えられる仕上がり。大滝さんもカヴァーしてました。

グレッチェンさん、お誕生日おめでとう!


The Fleetwoods Came Softly

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  1. Come Softly To Me / The Fleetwoods (1959 US #1)
  2. Graduation's Here / The Fleetwoods (1959 US #39)
  3. Mr Blue / The Fleetwoods (1959 US #1)
  4. You Mean Everything To Me / The Fleetwoods (1959 US #84)
  5. Outside My Window / The Fleetwoods (1960 US #28)
  6. Runaround / The Fleetwoods (1960 US #23)
  7. The Last One To Know / The Fleetwoods (1960 US #96)
  8. Tragedy / The Fleetwoods (1961 US #10)
  9. (He's) The Great Imposter / The Fleetwoods (1961 US #30)
  10. Lovers By Night, Strangers By Day / The Fleetwoods (1962 US #36)
  11. Goodnight My Love / The Fleetwoods (1963 US #32)
  12. Confidential / The Fleetwoods (1960)

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