Disc Review

I Kept These Old Blues / Muireann Bradley (Tompkins Square Records)

アイ・ケプト・ジーズ・オールド・ブルース/マリン・ブラッドリー

若いくせに、ブラインド・ブレイクとかミシシッピ・ジョン・ハートとか、そういう人たちの激渋ブルースをアコースティック・ギター抱えて弾き語りする姿がYouTubeで話題を呼んだ女の子フィンガー・ピッカーのファースト・アルバム、出ましたー。

アイリッシュ系の名前で、どうカタカナ表記していいか悩ましく。日本のレコード屋さんのサイトとか見ると“ミューリアン”と書かれているのだけれど、ライヴ映像を見てみると“ハイ・エヴリワン、アイム・マリン”とMCしてたので、ここでは“マリン”でいきます。間違ってたらすぐ直します(笑)。

と、そんなマリンちゃん。2006年、アイルランドのドニゴール州バリーボフィー生まれ。お父さんが家でも車でも、どこでも1920年代とか1930年代とかの古いブルースばっかり聞いていて。それを歌う偉大なブルースマンやブルースウーマンについてえんえん語りまくっていて。自分でもギターを弾いて歌っていて…。そんな姿を見て、マリンちゃんも「私もそんなふうに弾けるようになりたい!」と思い立ったのだとか。

で、9歳のとき、お父さんに小さなトラベル・ギターを買ってもらって、弾き方を教わって。そのころの姿がちらっとYouTubeに乗っていたのだけれど。童謡の「スリー・ブラインド・マイス」をオープン・チューニングで弾いていて。もうすでに上手でした(笑)。

まあ、子供のことなので、一時期ギターへの興味が薄れ、他の遊びに夢中になって練習もあまりしなくなっていたようだけれど、新型コロナのパンデミックのころ、あまり外でも遊べなくなったこともあり、またギターと親しむように。2020年、13歳になったころからおうちにこもって猛特訓を再開。ブラインド・ブレイクの「ポリス・ドッグ・ブルース」をオープンDチューニングで弾き語りする姿をYouTubeに乗せたところ、これがそこそこバズって。

やがてジョシュ・ローゼンタールに見出される形でトンプキンス・スクエア・レコードと契約。17歳の誕生日を迎えたのを機に、ついにデビュー・アルバムがリリースされた、と。そういう流れみたいです。

ゲイリー・デイヴィス師の「キャンディマン」で始まって、以降、ミシシッピ・ジョン・ハート、ブラインド・ブレイク、エリザベス・コットン、ステファン・グロスマン、ジョン・フェイヒィらのレパートリーがずらずらっと。ステファン・グロスマンのスタイルからの影響がいちばん強いかな。オープンDあり、ドロップDあり、レギュラー・チューニングあり。なかなか多彩だ。もちろん基本的に歌もギターも一発録り。これらの曲が生まれた時代と同じようなやり方でレコーディングされている。

けっこうドライヴ感のあるフィンガー・ピッキング・ギターもごきげんだけれど、少女っぽい無垢なヴォーカルのほうにも妙な吸引力がある。ピュアでイノセントな歌声で「スタッゴリー」のようなマーダー・バラッドを聞かせたり、「キャンディマン」のような、どこかドラッグ・ディーラーを示唆するみたいな物語を歌ったり、「リッチランド・ウーマン・ブルース」のようにセクシーな描写をしたり、「ポリス・サージェント・ブルース」のように不当逮捕された者の気持ちを綴ったり…。

この辺、ガキすぎて深みがねぇよ…と捉えるか、魅惑的な異化効果だと捉えるかで評価が分かれそうだけれど。後者のほうが楽しいよね。今後どんなふうに成長していくのか淡く期待しながら、アイルランドのティーンエイジャーがウォータールーとかギルドとかの渋いアコースティック・ギター抱えて奏でる古いブルースやトラディショナル・フォークをほのぼの味わうのも悪くないです。ストリーミング、CD、アナログLP、さらにはカセットもあり。いいね。でも、やっぱりアナログかな、これは。

もうギターに飽きないですくすく育ってね!

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