Disc Review

Bliss / Phil Madeira (Mercyland Records)

ブリス/フィル・マデイラ

戦争反対、というきわめてシンプルかつイノセントなメッセージに対してですら、冷笑的だったり感情的だったり、反論のような罵倒のような、そうしたもろもろが乱暴に浴びせられて。ギスギスしたマウントの取り合いが巻き起こっちゃったり。こりゃ争いがなくなるわけないよなぁ、と絶望的な気持ちになってしまう朝ですが。

敗戦の10年後くらいに生まれて、アジアで戦争が泥沼化している時代に青春期を過ごして…と、そんな世代なもんで。なんとか答えを見つけたいと思いながらもずるずる見つけられないまま。今回のことも他人事じゃないとはいえ、自らの無力を思い知るばかりで何もできず。

とりあえず、そのままの日常を生きるしかないかな、と。いつものように気になったニュー・リリースを今朝もフツーに紹介することにします。エミルー・ハリスのバック・バンド、レッド・ダート・ボーイズのメンバーとして、あるいはバディ&ジュリー・ミラー、ウォーター・ボーイズ、エイミー・グラント、アリソン・クラウス、ケブ・モらとの仕事でも知られるベテラン・キーボード奏者/ソングライター/プロデューサー、フィル・マデイラの新作ソロ・アルバム。

1977年にフィル・ケギー・バンドの一員としてデビューしてからもう45年。セッション・ワークだけでなく、1985年以降はたくさんのソロ・アルバムもリリースしてきているけれど。今回は2020年の『オープン・ハート』と『ホーネッツ・ネスト』に続く自伝的三部作の最新盤となる1枚。去年、キックスターターのクラウド・ファンディングで制作資金を募ってこのほどめでたく完成へとこぎつけた。

さすがベテランだけあって、もう、余裕というか、自然体というか。肩の力を抜いて、多彩な音楽性をのびのび発揮。愛する妻を癌で亡くした喪失感が前2作には深く影を落としていたけれど、本作にはそこから少し前向きになった感触もあって。新たな人生への想いなども。

スティーリー・ダン的なクールでアーバンなブルースあり、リトル・フィート的なファンキーにバウンドするロッキン・ガンボあり、ドクター・ジョン的なころころ転がるニューオーリンズものあり、アスリープ・アット・ザ・ホイール的なジャジーなウェスタン・スウィングあり、ザ・バンド〜ヴァン・モリソン的なミディアム・スロウものあり、ランディ・ニューマン的なシニカルなブルー・バラードあり…。

もちろんマデイラさん本人がプロデュース、キーボード、ヴォーカル。レッド・ダート・ボーイズの仲間であるクリス・ドナヒュー(ベース)とブライアン・オーウィングズ(ドラム)が全面参加。ジェイムス・ホリハンとパット・バージソンがギター。そこにホーンやパーカッションが加わり、どの曲でも的確なバックアップを聞かせている。

今朝の東京の抜けるような青空同様、もやもや気分を束の間とはいえ少し晴らしてくれるような。かっちょいい1枚です。今のところ、デジタル・リリースしか目にしてません。これまたアナログがほしいです。

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