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Disc Review

The New Mine / Matthews Southern Comfort (MIG)

ザ・ニュー・マイン/マシューズ・サザン・コンフォート

イアン・マシューズという人は、良く言えば柔軟に、飄々と、悪く言えば落ち着きなく、バタバタと(笑)、様々なバンドの一員として、あるいはソロで、形態をあれこれ変えながら、長く、半世紀以上に及ぶキャリアを歩み続けてきた。

フェアポート・コンヴェンションを起点に、マシューズ・サザン・コンフォート、プレインソングを経て、ソロになって、でも、その後もハイファイとか、ノー・グレイ・フェイスとか、モア・ザン・ア・ソングとか、いろいろなバンドというか、プロジェクトというか、ユニットというか、そういったものに出入りしながらアルバム・リリースを続けて。

近年はアムステルダムに移住。オランダのピアニスト/ソングライター、エグバート・デリックスとあれこれタッグを組んでみたり、ジーン・クラークへのトリビュート・バンド、ジーン・クラーク・ノー・アザー・バンドの一員としてツアーを行なったり、マシューズ・サザン・コンフォートやプレインソングというバンド名を再び名乗ってみたり…。いやはや。なんともややこしいのだけれど。最初のフェアポート・コンヴェンションとゲスト参加もの以外は、基本的にイアン・マシューズのソロみたいなものだととらえて、その都度楽しませてもらってきた。

と、そんなマシューズさんがマシューズ・サザン・コンフォート名義での新作をリリースしてくれた。といっても、本人以外、メンバーはみんなオランダのミュージシャン。2010年の『カインド・オヴ・ニュー』、2011年の『カインド・オヴ・ライヴ』、2018年の『ライク・ア・レディオ』に続く新生マシューズ・サザン・コンフォートの1作ということになる。

マシューズ・サザン・コンフォートといえば、やはりジョニ・ミッチェル。『カインド・オヴ・ニュー』でも再演していた「ウッドストック」のカヴァーが1970年に全英1位に輝いたことで一気に知名度を上げたわけで。彼らにとっては重要な“始まり”の1曲だった。で、今回もアルバム冒頭でジョニ・ミッチェル、やってます。1985年に彼女がリリースしたアルバム『ドッグ・イート・ドッグ』の収録曲「エチオピア」。ダークなエキゾチシズムに貫かれたジョニのオリジナル・ヴァージョンのニュアンスをそれなりに引き継ぎつつ、よりスムースかつ流麗にリアレンジしているあたり、「ウッドストック」のときと同じ基本姿勢だ。

続く「ザ・ハンズ・オヴ・タイム」は、イアン・マシューズ単独名義で書かれたオリジナル。ちょっと「ウォーター・イズ・ワイド」に似た旋律をたたえた曲で、個人的にはこれがいちばん気に入ったかも。現メンバーのひとり、エリック・デヴリーズとヴォーカルを分け合いながら、なんとも懐かしいカントリー・ロックを奏でてくれる。こちらもメンバーのひとりで、ソロ活動もしている“ヨーロッパ・ミーツ・アメリカーナ”系ピアニスト、バート・デ・ウィンのソロもいい。

もう1曲のマシューズ単独のオリジナル曲は「スターヴェイション・ボックス」。2010年の再結成のときから参加しているバート・ヤン・バートマンズのスライド・ギターやマンドリンが印象的な1曲で。歌詞をちゃんと把握していないのだけれど、ヴェトナムで傷つき、帰国を拒んで現地で音楽家になったシャインという名の元兵士のことを歌っているみたい。イアン・マシューズらしいなぁ。

バートマンズがジャズマスターで奏でるトゥワンギーな低音フレーズに導かれてスタートする「フィード・イット」という曲もぼくのお気に入り。これはジャン・クリーヴェンとマシューズの共作。アルバム・タイトルと関連した「ワーキング・イン・ザ・ニュー・マイン」は、アメリカーナ/ルーツ・ミュージック・ファンにはおなじみ、エド・スノッダーリーが2004年にリリースしたアルバム『ブライアー・ヴィジョンズ』の収録曲のカヴァーだ。この辺のセンスも、オリジナルとかカヴァーとかにあまりこだわらない柔軟さを発揮し続けるイアン・マシューズならではか。

もちろん、バートマンズ、デヴリーズがそれぞれソングライターとして力を発揮した曲も。今回もまた、どこも、何ひとつ、新しいところはない、まあ、メロウであたたかいフォーク・ロック〜カントリー・ロック盤という感じだけど。だからこそ素敵、と。そういうことで。

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© 2020 Kenta Hagiwara