Disc Review

The Complete Scepter Singles 1962-1973 / Dionne Warwick (Real Gone Music)

ザ・コンプリート・セプター・シングルズ1962〜1973/ディオンヌ・ワーウィック

今月出るレコード・コレクターズ誌の特集テーマがバート・バカラック(Amazon / Tower)。ぼくは彼のざっくりしたヒストリー原稿を書かせていただいた。とともに、彼が残した名曲126選ということで、様々な書き手の方々が様々なアーティストによるバカラック作の名曲を解説していて。そちらのほうでも何曲か紹介させてもらってます。

今年2月に94歳で亡くなったバカラック。でも、彼が書いた曲たちはこれからも永遠に歌い継がれていくのだろうと思う。そんな名曲たちのガイドとして、レココレ最新号、きっと格好の一冊になってくれる…のかな。まだ出てないので読んでませんが(笑)。出るの、楽しみにしてます。

とはいえ、これまたたぶん多くの人が感じていることだろうけど。バート・バカラック作品のいいところを抽出して一気に楽しみたいのならば、いろいろなシンガーをちょこちょこ渡り歩きながら聞くのではなく、ディオンヌ・ワーウィックの初期ベスト盤一発をじっくり聞くのがいちばんなんじゃないか、と。そんなことを思ったりもする。ディオンヌ・ワーウィックはバカラック&デヴィッドの楽曲にとって最良の紹介者だった。

バカラックの自伝によると、彼が初めてディオンヌのことを認識したのは1962年、ザ・ドリフターズのために「恋するメキシカン(Mexican Divorce)」をボブ・ヒリアードと共作したときで。バック・コーラスのリハーサルのためにやってきた4人組ガール・グループのうちの一人がディオンヌだったと書いてあった(これ、年代が間違っていて、ほんとは1961年の話だと思う)。で、そのあとディオンヌからデモ・テープ録りを手伝ってほしいと連絡を受け、盟友ハル・デヴィッドとの共作曲「涙でさようなら(Make It Easy on Yourself)」をデモ録音したものの、その曲がジェリー・バトラーに持って行かれてしまったため、代替案として「ドント・メイク・ミー・オーヴァー」でデビューすることになった…みたいな流れ。

でも、実はその前にバカラックはディオンヌの歌声をヴォーカルとしてフィーチャーした1枚を作っていて。それが1961年、マック・デヴィッド(ハル・デヴィッドの兄)と共作しバート&ザ・バックビーツ名義でリリースされたバカラックのプロデュース/アレンジによるシングル「ムーヴ・イット・オン・ザ・バックビーツ」。ここに歌声を提供していたのがディオンヌとディー・ディーのワーウィック姉妹だったのだけれど。いずれにせよ、そんなふうにまずはセッション・シンガーのひとりとしてディオンヌの歌声に接したバカラックはその歌唱力と歌心に驚き大いに燃えた。彼女のために曲を書き、そのレコーディングをプロデュースするため、ハル・デヴィッドも巻き込みつつ新たにブルー・ジャック・プロダクションを設立。セプター・レコードと契約を結んだのだった。

以降、バカラック、デヴィッド、ワーウィックという鉄壁のトリオは前述「ドント・メイク・ミー・オーヴァー」(1962年、21位)を皮切りに、「ジス・エンプティ・プレイス」(1963年、84位)、「ウィッシン・アンド・ホーピン」(1963年)、「メイク・ザ・ミュージック・プレイ」(1963年、81位)、「エニワン・フー・ハッド・ア・ハート」(1963年、8位)、「ウォーク・オン・バイ」(1964年、6位)、「ユール・ネヴァー・ゲット・トゥ・ヘヴン」(1964年、34位)、「ア・ハウス・イズ・ノット・ア・ホーム」(1964年、71位)、「リーチ・アウト・フォー・ミー」(1964年、20位)などヒットを連発。多くのバカラック&デヴィッド作品を世に広めていった。以降20年間でバカラック&デヴィッド作品を歌ったワーウィックのレコードは計1200万枚以上を売り上げたと言われている。

と、そんな時期、セプター・レコードにディオンヌが残した全シングルのAB面を網羅したCD3枚組がリアル・ゴーン・ミュージック編纂による本作『ザ・コンプリート・セプター・シングルズ1962〜1973』だ。同趣向のコンピが5年くらい前、『コンプリート1960ズ・シングルズ・プラス』というタイトルで出たことがあったけれど、今回、ディオンヌの新しいドキュメンタリー映画『Don't Make Me Over』の公開に合わせて再編纂された。入手したのは6月だったけれど、レココレの発売も近づいてきたので、ちょっと遅れてのタイミングで紹介しておきますね。

3枚のCDに全74曲が詰め込まれていて、特に最初の2枚のディスクはほとんどがハル・デヴィッド&バート・バカラック作、プロデュース、編曲はバカラックという作品群。CD1とCD2に収録された計50曲中、バカラック&デヴィッド作品じゃないのは、「ユー・キャン・ハヴ・ヒム」(ビル・クック作)、「フー・キャン・アイ・ターン・トゥ」(アンソニー・ニューリー&レスリー・ブリカス作)、「哀愁の花びら(ヴァレー・オヴ・ドールズ)」(アンドレ&ドリー・プレヴィン作)、「スレイヴズ」(ディオンヌの主演映画主題歌。ボブ・ケスラー&ボビー・スコット作)という4曲のみだ。

まあ、CD3になると時代が1970年代に入ってきて、さすがに新境地への挑戦もスタート。バカラック&デヴィッド作品以外のカヴァーものも増えてくる。「ふられた気持ち(You've Lost That Lovin' Feelin')」(バリー・マン&シンシア・ワイル作)、「アマンダ」(アーティ・バトラー&マーク・リンゼイ作)、「ヒーズ・ムーヴィング・オン」(ルース・バチェラー&ブライアン・ウェルズ作)、「はてなき想い(The Love of My Man)」(エド・タウンゼンド作)、「ハーツ・ソー・バッド」(テディ・ランダッツォ/ボビー・ハート/ボビー・ウェルディング作)、「アイム・ユア・パペット」(ダン・ペン&スプーナー・オールダム作)、「ザ・グッド・ライフ」(アレクサンドレ・ディステル&ジャック・リアドン作)、「リーチ・アウト・アンド・タッチ〜オール・カインズ・オヴ・ピープル」(アシュウォード&シンプソン作品とバカラック&デヴィッド作品のメドレー)、「イフ・アイ・ルールド・ザ・ワールド」(レスリー・ブリカス&シリル・オーナデル作)など。プロデュースもディオンヌ自身だったり、チップス・モーマンが手がけていたり、これはこれで大いに興味深いのだけれど。

でも、やっぱりCD1とCD2。1960年代にディオンヌが歌ったバカラック・メロディこそが絶品です。バカラック&デヴィッドの初期名曲はここにほぼ網羅されていると言っても過言ではない感じ。CD3枚、全74曲中61曲がバカラック&デヴィッドもの。前述したディオンヌによる初期ヒットの他にも、「遙かなる影(Close To You)」「マイケルへのメッセージ(Message to Michael)」「汽車と船と飛行機と(Trains and Boats and Planes)」「悲しませないで(Don't Go Breaking My Heart)」「アルフィー」「小さな願い(I Say A Little Prayer)」「サンホセへの道(Do You Know The Way To San Jose)」「恋のウェイト・リフティング(Always Something There to Remind Me)」「プロミセス・プロミセス」「ジス・ガール」「幸せはパリで(The April Fools)」「恋よさようなら(I'll Never Fall In Love Again)」「世界は愛を求めてる(What The World Needs Now Is Love)」「涙でさようなら(Make It Easy On Yourself)」「雨に濡れても(Raindrops Keep Fallin' On My Head)」「愛の痛手(Only Love Can Break Your Heart)」など主要バカラック・ナンバー総まくりだ。足りないとしたら「何かいいことないか子猫チャン(What's New Pussycat?)」とシングル・カットされなかった「恋の面影(The Look Of Love)」くらい? ディオンヌさん、すげえ。

いい曲をいい歌声で聞く。このごくごく基本的な、しかしだからこそ至福の愉しみを満喫できる3枚組です。サブスクはないです。ディスクでゲットだ!

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