Disc Review

A Beautiful Time / Willie Nelson (Legacy Recordings)

ビューティフル・タイム/ウィリー・ネルソン

ウィリー・ネルソン。1933年4月29日、テキサス州アボット生まれ。てことで、先週の金曜日、めでたく89歳の誕生日を迎えて。その日に合わせてリリースされた新作アルバム。新作だから。もうそれ出しただけで感服というか。

しかも出来がいいから泣けてくる。歌にギターに、現役感ハンパなし。トニー・ベネットあたりを筆頭に、このところ80代という大台に乗って新作アルバムをコンスタントにリリースする大御所も珍しくなくなってきてはいるものの。そのトニー・ベネットもすでに引退を宣言。今やウィリー翁は、ご長寿アーティストの最高峰だ。

すごい人だなーと思う。

本ブログでも新作が出るたび、なんだかんだよく取り上げてきているので、お時間ある方、パソコン/タブレットであれば右のサイドバー、スマホの方は下方の検索窓に“Willie Nelson”と記入して検索していただければと思いますが。取り上げるたび、感服度が増すというか、さらに積み重なってくるというか。

翁は80歳を迎える直前、2012年にレガシー・レコーディングズに移籍したのだけれど。それ以降だけでも、デュエットものとかトリビュートものとか、そういう企画ものも含めるとすでに16作のアルバムをリリースしていて。本作が17作目。通算で言うと、えー、何作だ? 72作目? ななじゅーにさくめ? はちじゅーきゅーさいの? すげえ。

2017年以降、ウィリー翁は、息子であるルーカスとマイカとの共演盤とか、姉である故ボビーや娘のポーラとエイミーまで含む顔ぶれで録音されたファミリー・アルバムとか、フランク・シナトラのレパートリーのカヴァー集とかを間に挟みながら、『なんてこったい!(God's Problem Child)』(2017年)、『ラスト・マン・スタンディング』(2018年)、『ライド・ミー・バック・ホーム』(2019年)、『ファースト・ローズ・オブ・スプリング』(2020年)と、年1作ペースで、ある種、老境にあることと真摯に向き合うような、なんとも沁みるコンセプト・アルバム群をリリースし続けている。今回はその流れ。

頼れる相棒、バディ・キャノンとの共同プロデュース。二人の共作曲を核に、ロドニー・クロウェル、ショーン・キャンプ、ジャック・ウェズリー・ルース、ジム“ムース”ブラウン、ケン・ランバートらからの提供曲、そしてレナード・コーエンとビートルズのカヴァーなどで構成されている。もちろんどの曲にも、聞いて一発でわかるウィリー節と、年季の入った愛器“トリガー”ことマーティンN-20ナイロン弦ギターの響きが横溢していて。しみじみ素晴らしい。

国内盤(Amazon / Tower)のライナーを今回も能地祐子が書いていて。1曲ごとに詳細な背景が記されているので、細かいことはぜひそちらをご参照いただきたいのだけれど。中でも「葬式なんて(I Don't Go To Funerals)」ってウィリー&バディ作品がやばかった。“誰の葬式にも行かない。もちろん俺のにも。どこか別のところで残された愛すべき者たちを眺めているよ。友と歌っているよ。人生は素晴らしい。でも俺たちの思い出で韻を踏む日が待ちきれない。先に逝った連中が列に並んで俺の順番をとっておいてくれるさ。葬式には行かない。俺のにも”とか軽やかに歌っていて。

同じく80代を超えてなお新作のリリースを続けた故レナード・コーエンの「タワー・オブ・ソング」のカヴァーも沁みた。あと、ビートルズの「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」。この名曲も、90歳を目前にしたウィリーの歌声で綴られると、また全然違うテーマの曲として新鮮に響いてくるから不思議というか、深いというか…。

歳とってりゃそれだけでいいってもんではないのだけれど、ちゃんと重ねた年輪にはどんな若さもかないません。

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