Disc Review

Ride Me Back Home / Willie Nelson (Legacy Recordings)

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ライド・ミー・バック・ホーム/ウィリー・ネルソン

この人、現在86歳で。80歳を迎える直前、レガシー・レコーディングズに移籍してからだけでも、デュエットものとかトリビュートものとか、そういう企画ものも含めるとすでに13作の新作アルバムを次々リリースしていて。すごい。感服するしかない。

で、そんなレガシー移籍後の13作目にあたるのが本作。ウィリー翁は2017年以降、ルーカスとマイカという息子たちとの共演盤や、フランク・シナトラのレパートリーのカヴァー集とかを間に挟みつつ、『なんてこったい!(God's Problem Child)』と『ラスト・マン・スタンディング』という、ある種、老境にあることと真摯に向き合うような、なんとも沁みるアルバム群をリリースしてきたのだけれど。今回もその流れのようだ。

といっても、最期の瞬間に対する怖れとか不安とかに支配されているわけではない。アルバム全体が、どこか達観した穏やかな眼差しに貫かれている。そこがが、また泣ける。プロデュースを手がけているのは盟友バディ・キャノン。彼とウィリー翁の共作で新曲3曲も書き下ろされた。年輪を重ねたウィリーならではのひょうひょうとしたユーモア感覚をまぶしつつ、けっこうハードなテーマに踏み込んでみせる。

“時よ、来てみろよ/昔、お前をぶっとばしたこともあったよな/時よ、来てみろよ/今度は何をしてくれるって言うんだ?”

「カム・オン・タイム」って曲では、軽快な2ビートのカントリー・グルーヴに乗せて、そんなことを歌っている。「ワン・モア・ソング・トゥ・ライト」って曲では——

“もうひとつ書かなければいけない歌がある/もうひとつ断たなければならない関わりがある/終わらぬ夜がもう一夜/学ばなければならない教えがもうひとつ/登らなければいけない丘陵がもうひとつ/心のどこかにそんな思いがある/いつか時が来たらそれがわかる/書かなければいけない曲がもうひとつ…”

これも、なんだかぐっとくる。ウィリーの視線の先には今もウィリーなりの“次”があるということだ。アルバム・タイトル曲も書き下ろしだが、こちらは自作ではなく、ウィリーのラック牧場の近所に住んでいるカントリー系のベテラン・ソングライター、ソニー・スロックモートンがウィリーの愛馬たちを眺めながら作ったものだとか。

“もっといい場所まで俺を乗せて帰ってくれよ/青空があって陽光に溢れて広々としたところへ/誰もかまわないでおいてくれるどこかへ/故郷と呼べるどこかへ/俺を乗せて帰ってくれよ”

スロックモートンも現在78歳だそうで。今のウィリーの姿に共感するところが多いのかも。アルバム・ジャケットを見ながら聞くと、いろいろな意味合いを帯びて聞き手の胸に届いてくるような…。

こうした新曲群のほか、ウィリーらしいカヴァー曲も多数。いちばん話題になっているのがビリー・ジョエルの「素顔のままで(Just the Way You Are)」かな。他にもルーカスとマイカとともに演奏したマック・デイヴィスの「イッツ・ハード・トゥ・ビー・ハンブル」、ガイ・クラークの「マイ・フェイヴァリット・ピクチャー・オヴ・ユー」と「イミグラント・アイズ」、ジョディ・ミラーやジェシ・コルターの歌でおなじみ「メイビー・アイ・シュッドヴ・ビーン・リスニング」など。

かつて70年代にウィリーが単独で書いた「ステイ・アウェイ・フロム・ロンリー・プレイセズ」をぐっとジャジーなアプローチで再演したヴァージョンもある。この再演が渋い。個人的には本作中のベスト・トラック。さらに泣かせてくれる。すげえじじいです。脱帽です。まじ。

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