Disc Review

'Round the Block and Back Again / Spinners (Peak Records)

ラウンド・ザ・ブロック・アンド・バック・アゲイン/スピナーズ

昨夜、祢屋、能地、萩原といういつものレギュラーMC3人に準レギュラーの佐橋佳幸くんを迎えてお届けした無観客配信CRT、ご視聴下さったみなさん、ありがとうございます。あれやこれや思い出しながら1983年の音楽シーンを振り返りました。

しばしアンコール配信期間もありますので、ご興味ある方は、ぜひ本ブログの“CRT info”のコーナーを参照のうえ、ぜひ。10月のCRTは、久々の有観客開催。横浜に新たにオープンするネイキッド・ロフトの新店舗に本秀康くんを迎えて、恒例“ジョージ・ハリスンまつり”です。詳細は近いうちに本ブログでもお知らせしますが、すでにネイキッド・ロフトのホームページでは予約もスタート。よろしかったらそちらもチェックしてみてください。

で、昨夜が楽しくて、案の定、語り疲れて(笑)。さらに会場のロック・カフェ・ロフトの周辺は、まあ、さすがに新宿・歌舞伎町近くってこともあって、けっこう路上飲みとかも盛んで。街は人出もあって。かなりカオスな感じで盛り上がっていたりして。いちおう都が発表する感染者数は減ってきているようだけど、なんだか油断できなくて。精神的にも疲れちゃって。

なので、昨日もちらっと書いたように、今朝の更新はサボっちゃおうかなとも思ったのだけれど。なんと8月末に、あのスピナーズのニュー・アルバムが出ていたことに昨夜気づいたもんで。びっくりして今朝も更新してます(笑)。うれしい驚き。10年くらい前にライヴ盤が出たりしていたけれど、スタジオ録音のオリジナル・アルバムってことになると、いつぶりだ? 1989年の『ダウン・トゥ・ビジネス』以来? とすると、32年ぶりか。うひょー。

この人たちのことを知ったのは、以前、本ブログとか、もろもろの雑誌の原稿とかで何度も触れたことがあるワーナー・パイオニア・レコードのアナログLP2枚組コンピレーション『ホット・メニュー’73』でだった。なんと980円という廉価で出たカタログ・コンピ。LPのA面とB面にワーナー・ブラザーズ/リプリーズ系、C面とD面にアトランティック系のアーティストの楽曲を全28曲詰め込んだお得な2枚組で。

個人的にはこのコンピでタワー・オヴ・パワーとかJ.ガイルズ・バンドとか、その後もずっと大好きで聞き続けることになるアーティストの音に初めて出会ったり。思い出深いLP2枚組。で、そこで出会った素敵なアーティストのひとつがスピナーズだった。

収録されていた曲は「アイル・ビー・アラウンド」。“いつもあなたと”という邦題が付けられていたっけ。のちにあれこれサンプリングされることになるトム・ベル&フィル・ハート作による1972年の名曲。♪ドン・ストドン・ドン・ストドン…という独特のビート・パターンの下で展開するポップなフィリー・ソウルで。キャッチーさと洗練された感触との絶妙の共存バランスにやられた。

で、いろいろ調べてみたら、もともとはデトロイトのグループで。モータウンからスティーヴィー・ワンダー&シリータ・ライト作の「イッツ・ア・シェイム」など何曲かヒットを飛ばした後、アトランティックに移籍してきたってことを知って。さっそく、この「アイル・ビー・アラウンド」が入っている1973年の『フィラデルフィアより愛をこめて(Spinners)』ってアルバムを買った。

このアルバムには他にも、日本盤アルバムの表題曲「フィラデルフィアより愛をこめて(Could It Be I'm Falling in Love)」とか、もともとは「アイル・ビー・アラウンド」のシングルA面曲だった「気をきかせてよ(How Could I Let You Get Away)」とか、「ワン・オヴ・ア・カインド」とか「ゲットー・チャイルド」とかヒット・シングル・チューンが満載されていて。最高だった。当時、フィラデルフィア・インターナショナルのケニー・ギャンブル&レオン・ハフと並ぶフィリー・ソウルの重要な仕掛け人として活躍していたプロデューサー、トム・ベルの全盛期の手腕がたっぷり味わえた。このアルバムの場合、特にデトロイトっぽさとフィラデルフィアっぽさがいい塩梅で溶け合っている感じで。おいしかった。

スピナーズはそれ以来、ぼくのお気に入りアーティストの仲間入り。えんえん聞き続けはしてきたのだけれど。基本的には1970年代の諸作を今なお聞き続けてきたわけで。まさかここにきて新作フル・アルバムに出くわして、じんわり感慨にひたる日がやってくるとは。びっくり。もちろん、1954年結成のグループだけに、他界とか療養中とかいろいろな事情でメンバーの脱退も相次ぎ、オリジナル・メンバー中、残っているのは今やヘンリー・ファムブロウひとりだけ。でも、後をジェシー・ペック、マーヴィン・テイラー、ロニー・モス、CJジェファーソンらが受け継ぎ、レガシーを守り続けているみたい。

ホイットニー・ヒューストン、アレサ・フランクリン、ジョージ・ベンソン、アース・ウィンド&ファイア、ケニーG、ナタリーなど多くのR&B/フュージョン・アーティストとの仕事でおなじみ、プレストン・グラスがプロデュース。スピナーズの個性をけっして壊すことなく新作を編み上げてみせた。厳しい耳で接したらぼんやりした1枚ということになっちゃうのかもしれないけれど、思いきり好意的な耳で接すると、もう、ほんと、素敵なうれしい1枚。

前述「アイル・ビー・アラウンド」や「クッド・イット・ビー…」調の特徴的なリズム・パターンに乗って展開する「アイム・イン・マイ・プライム」で幕開け。続く「クリシェ」も基本的には同じリズム・パターンでのアプローチ。しゃれたハーモニーも健在だ。おなじみ、ザ・タイムズによるポップ・ドゥーワップの名曲「ソー・マッチ・イン・ラヴ」のカヴァーとかもやっているのだけれど、これはかつてフォー・シーズンズの「ワーキング・マイ・ウェイ・バック・トゥ・ユー」とかサム・クックの「キューピッド」をカヴァーしたときのニュアンスそのまま。エレキ・シタールがなまめかしく舞うスロウ・バラード「ミッシング・ユア・エンブレイス」も、待ってました! という感じ。歌詞的には新型コロナ禍のことも反映したラヴソングらしく。まさにタイムリー&タイムレス。

すべて自分の土俵に引き込み、得意技だけで軽々と料理してしまう老練な味、みたいな? いやいや。さすがです。スピナーズが“ラウンド・ザ・ブロック・アンド・バック・アゲイン”、ブロックをぐるっとひと巡りしてまた帰ってきてくれました!

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