コラプスド・イン・サンビームズ/アーロ・パークス
ひと月ほど前にリリースされて各方面でむちゃくちゃ話題になっていたのに、ちょっとタイミングが合わず本ブログで取り上げそびれていたアーロ・パークスのファースト・フル・アルバム。
実は明日、2月26日リリースの話題盤ってのがボブ・ディランやらジュリアン・ベイカーやらアリス・クーパーやらウィリー・ネルソンやらけっこう多くて。明日からはそっちにかかりっきりになって、となると、もうこのアルバム取り上げないまま終わってしまいそうで。いや、まあ、こんなパーソナルなブログで取り上げなかったからといって世の中的に特に何か影響があるわけではないけれど(笑)。個人的な気分の問題です。けっこう日々のウォーキングのときのBGMとして今もお世話になっているアルバムだけに、ちょっと記録だけでもしておきたい、と。そんな思いで、軽くピックアップさせていただくことにしましたよ。
サウス・ロンドン出身、20歳のシンガー・ソングライター/詩人。2018年にデモをアップ。そのまま同年暮れにデビュー・シングル「コーラ」をリリース。2019年にはデビューEP『スーパー・サッド・ジェネレーション』が大いに話題を呼んで、2020年、ヨーロッパでツアーを本格的に開始したところでパンデミックに突入。破竹のデビュー快進撃計画は頓挫したものの、それにめげることなく「ブラック・ドッグ」、「ハート」、われらがクレイロがゲスト参加した「グリーン・アイズ」、「キャロライン」など充実した手応えのシングル・リリースを着実に続けて、ついにフル・アルバムの発表へ…。
どの紹介記事でも触れられていることなので、ここでまた繰り返すのもナンですが。やっぱり繰り返しておくと。ナイジェリア、チャド共和国、そしてフランスの血をひいていて、ママはパリ生まれ、最初に覚えた言語はフランス語で、バイセクシュアルであることを公言していて、夭折の女性詩人シルヴィア・プラスを尊敬し、ジョニ・ミッチェルやチェット・ベイカーの音楽が大好きで、グッチのプロモ・ビデオに主演したり、ディオールのゲストとしてミラノ・ファッション・ウィークに出席したり、ファッション・シーン方面でも話題を集めていて…。
文化のジャンルや国境やジェンダーや、さまざまなボーダーが曖昧に滲みながら絡み合っている感じが、今の時代の象徴としてなかなかの存在感を放っている。音のほうも、わりと素直にヒップホップ感覚を取り込んだ90年代っぽいUKソウルをベースに、今様のベッドルーム・ポップ的な空気感や、内省的なインディ・フォークっぽい眼差しをふわっとまぶしたような重層的な仕上がりで。それでいてオーソドックスかつキャッチー。なんとも心地よい。
さらに、歌詞。詩人としての意識も高いようで、それだけにかなり素敵だ。と思う。まあ、ぼく程度の英語力ではきっぱり断言できないのだけれど(笑)。日々の憂鬱や孤独感、悲しさとどう向き合って、どう対処していくか、親友に送る手紙のように綴った感触というか。アルバム本編のラストを飾る曲「ポートラ400」のリフレインの言葉をそのまま借りれば、“making rainbows out of something painful”、傷みを伴う何かから虹を作り出す、と、そんな感じの世界観が全編を貫いている。
先述したシルヴィア・プラスだけでなく、アレン・ギンズバーグから、ナイラ・ワヒード、ハニフ・アブドゥラキブらの詩、さらには村上春樹の小説あたりまで愛読するけっこうな文学少女なようで。言葉を操る才能も今後どう花開かせていくことになるのか…。アマンダ・ゴーマンさんとかも含め、若い世代の言語感覚みたいなものにいっそう注目が集まりそうで、楽しみ。