Disc Review

Blue Lipstick: 34 Glorious Girl Pop Gems From the Mid-Sixties / Various Artists (Teensville/MSI)

蒼い口紅〜60'sガールズ・ポップ蔵出し名曲選第三集/ドナ・リン、キャンディ・ガールズ、デブズ、ボン・ボンズほか

オールディーズ・マニアの胸を思いきりときめかせてくれた『ルッキン・フォー・ア・ボーイズ〜60'sガールズ・ポップ蔵出し名曲選』『グッバイ・ボーイズ〜60'sガールズ・ポップ蔵出し名曲選第二集』に続いて、豪ティーンズヴィル・レコードがコンパイルした1960年代ガールズ・ポップの隠れ名曲集第三弾。

ティーンズヴィルが出すコンピはいつもほぼ初回限定プレスで。今回もリリース後ちょっとだけぼんやりしていたら、本家、ティーンズヴィルのサイトではすでに“Sold Out”になっていて。Amazonとかでも輸入盤は入荷未定みたいな状態。いちおう日本ではMSIが簡単な日本語解説をつけた輸入盤の国内流通仕様(Amazon / Tower)があって。まだなんとか入手できそうな感じなので、取り急ぎ紹介だけでもしておきますね。

今回も選曲、やばいです。どういうコンピに仕上がっているか、ちゃんと言葉で説明するのはなかなかむずかしいのだけれど…。

たとえば、ほら、デニス・ランバートって人がいるでしょ? 1970年代、ブライアン・ポッターという英国出身のソングライターと組んでオリジナル・キャストとか、ハミルトン・ジョー・フランク&レイノルズとか、グラス・ルーツとか、フォー・トップスとか、プレイヤーとかに無数のキャッチーなヒットを提供したことでおなじみのソングライター/プロデューサー。この人がポッターと組む以前、1960年代に、えー、ルー・コートナーという、やがて1967年に「スケイト・ナウ」とか「ドゥ・ザ・シング』といったダンスR&Bヒットを自らちらっと放つことになる黒人アーティストとパートナーを組んでいた時期があって。そのころ、“第二のシャングリラス”にしようと目論んでプロデュースしていたのが、ニューヨークはスタテン・アイランド出身の4人組ガール・グループ、ザ・デブズ。ランバート&コートナーは彼女たちのセカンド・シングルとして、リック・デリンジャーを擁するザ・マッコイズによる1965年の特大ヒット「ハング・オン・スルーピー」へのアンサー・ソング「スルーピーズ・ゴナ・ハング・オン」をレコーディングしたのだけれど。そのB面が、のちにシェールに「悲しきジプシー(Gypsys, Tramps & Thieves)」という大ヒットを提供することになるソングライター、ボブ・ストーン作の「アンダー・ア・ストリート・ライト」って曲で…。

なんと、そんな、もちろん全米チャート入りなんかしているはずもない、超レアなシングルB面ナンバーが全34曲収録の本CDのオープニングを飾っているという、まあ、そういうコンピですよ(笑)。

以降も最後まで1曲1曲、同趣向の、好きな人以外にはまじ迷惑でしかなさそうなほどくどい説明ができちゃうレアでオブスキュアな音源の雨アラレ。アーティスト名はほとんど知られていなさそうなのだけれど、ハリー・ニルソン、ペリー・ボトキン、P.F.スローン、フレッド・フォスター、アンディ・ヴェンチュラ、スティーヴ・トゥデンジャー、レイ・スティーヴンス、ディック&ドン・アドリシ、ジャッキー・デシャノン、ラス・タイトルマンなど、関わっているスタッフのほうに目を向けると、こちらは気になる名前ばかりがずらり並んでいて。

そういう、アメリカン・ポップスの黄金時代を築き上げてきた偉大な才能たちの、本人たちですら忘れているかもしれない、多彩な、かつ超細かい試行錯誤をがっつりすくいあげた、ティーンズヴィルならではのうれしいコンピレーション。もちろん、何が素晴らしいって、上に書き連ねたような、そういう、なんともうざいマニアックな視点なんかすっ飛ばして聞いても、実はいい曲ばかり揃っている、と。この点こそがいちばん素晴らしいのだけれど。

ヒットしているしていないなんてことすら関係ない。シックスティーズ・ポップスのマジカルな魅力を堪能するのに絶好のコンピレーションがまたひとつ誕生した。気になる方は品切れになっちゃう前にぜひチェックを。超詳細な楽曲解説が掲載された28ページのブックレットもとてつもなく貴重です。

あー、池袋のオンステージ山野が懐かしいぞ…(笑)。

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