Disc Review

Blues With Friends / Dion (Keeping The Blues Alive Records)

ブルース・ウィズ・フレンズ/ディオン

元祖キング・オヴ・ニューヨーク。アメリカ東海岸のイタロ・アメリカン系ポップ・ミュージック・シーンでフランク・シナトラとブルース・スプリングスティーンをつなぐ重要な役割を果たしたロックンロール・オリジネイター、ディオン・ディムーチ。

現在、80歳。にもかかわらず、まったく勢いを衰えさせることなく、ライヴに、レコーディングにがんがん活動中だ。この人に関しては、今年の3月、本ブログで往年のシングル・ヒット集を取り上げた際、ぼくの熱い思いなど、いろいろ書かせてもらったので、基本的にはそちらを参照していただければと思うのだけれど。

新作、出ました。やー、うれしい。新作が出るだけでうれしい。内容の良し悪しすら関係なく、うれしい。なのに、内容がまたいいから。うれしさもひとしお。ディオン本人、自らのFacebookでちょっと前から1曲ずつ小出しに収録曲を映像で披露し続けてくれたこともあって、ぼくも大いに盛り上がりつつリリースを心待ちにしていた。

タイトルは『ブルース・ウィズ・フレンズ』。この“フレンズ”が超豪華だ。ジョー・ボナマッサ、ブライアン・セッツァー、ジョン・ハモンド、ロリー・ブロック、ヴァン・モリソン、ジョー・ルイス・ウォーカー、Z.Z.トップのビリー・ギボンズ、サニー・ランドレス、サマンサ・フィッシュ、ポール・サイモン、リトル・スティーヴン、ブルース・スプリングスティーン&パティ・スキャルファ夫妻など、曲ごとに興味深い顔ぶれをゲストに迎えた全14曲。

しかも、ライナーノーツを書いているのはボブ・ディランだ。ディランがライナーを寄せるアーティストなんて、めったにいるもんじゃない。まあ、ディオンさんに“ちょっとゲストに来い”とか“ライナー書け”と言われて断れる人がいるわけもないけど(笑)。たぶん全員、“光栄ですっ!”と二つ返事だったんだろうな。

ディランとポール・サイモンが1941年生まれ。ジョン・ハモンドが1942年。そのあたりから、1989年生まれのサマンサ・フィッシュまで。年齢的にも音楽的にも実に幅広い“フレンズ”がそれぞれの持ち味を活かしたヴォーカルで、ギターで、あるいは文章で、1939年生まれの大先輩であるディオンを盛り立てている。

もちろん、こうした豪華ゲストを迎えたベテラン・アーティストのデュエット・アルバムみたいな企画はそこそこよくあって。多くは、力が落ちてきたベテランさんが豪華な後輩ゲストに頼って新作を制作する、みたいな。そういう感じだったりもする。けど、ディオンに限っては、そうしたありがちなパターンとはまるで違う。

ここでも相変わらずすべてのグルーヴとすべてのペースをリードしているのはディオンだ。そこがすごい。繰り返すけれど、現在80歳。デビューしてから60年以上。なのに、まったく勢いは衰えず。声も出まくり。ライナーノーツでボブ・ディランはこんなふうに書いている。

ディオンのように深く、雄大な声を持っていたら、その声は世界中のどこへでも連れて行ってくれる。と同時に、きちんと連れ帰ってもくれる。ブルースという故郷へ…。

この文章に尽きる。さすがノーベル文学賞(笑)。

アルバム・タイトルに“ブルース”とあるだけに、もちろん、もろブルースみたいな曲もある。が、このアルバムにはフォークも、カントリーも、ゴスペルも、ロカビリーも、ディオンがその長いキャリアの中で表現し続けてきた様々な音楽性がいきいきと交錯している。全曲、ディオン自身がソングライターとしてクレジットされている。大半がマイク・アキリーナとの共作。

ジェフ・ベックのソロが胸を締め付けるソウルフルなバラード「キャント・スタート・オーヴァー・アゲイン」とか、レイト・ショー『コナン』の音楽監督としてもおなじみのジミー・ヴィヴィーノを迎えたグッド・オールド・タイミーもの「スタンブリング・ブルース」とか、ヴァン・モリソンとの最強デュエットが聞ける「アイ・ガット・ナッシン」とか、ジョン・ハモンドとロリー・ブロックとともにアコースティックでキメたデルタ・ブルース系の「トールド・ユー・ワンス・イン・オーガスト」とか、スプリングスティーン夫妻を迎えた荘厳な「ヒム・トゥ・ヒム」とか、聞き物ぞろい。

個人的に特にしびれたのが、以前から何度か共演音源をレコーディングしているポール・サイモンとともに、かつて一緒にツアーしたこともあるサム・クックへの思いを歌い綴った「ソング・フォー・サム・クック(ヒア・イン・アメリカ)」。人種差別にも言及した歌詞が、ジョージ・フロイド事件に揺れる今のアメリカに鋭く突き刺さる。

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