Disc Review

Forever Together / Doug Fieger (Sunset Blvd Records)

フォーエヴァー・トゥゲザー/ダグ・フィーガー

ザ・ナック。放っておくと、特大ヒット「マイ・シャローナ」だけの“一発屋”みたいに言われがちなバンドだけれど。

この人たち、「マイ・シャローナ」(1979年、全米1位)の他にも「グッド・ガールズ・ドント」(1979年、全米11位)、 「ベイビー・トークス・ダーティー」(1980年、全米38位)、「キャント・プット・ア・プライス・オン・ラヴ」(1980年、全米62位)、「ペイ・ザ・デヴィル」(1981年、全米67位)…と、下位のものも含め5曲のホット100ヒットを持っている。トップ40ヒットだけでも3曲。いったん解散したあと再結成して、1991年に全米アルバム・ロック・トラックス・チャートの9位にランクした「ロケット・オー・ラヴ」ってのもあった。

一発屋っぽいけど、実は一発屋じゃない。案外たくさんいるその手の“印象としての一発屋”アーティストの代表選手という感じか。

ザ・ナックは、リチャード・レスター監督の映画のタイトルをバンド名に冠し、1978年、ロサンゼルスで結成された4人組。1979年、デビュー・シングルにあたる「マイ・シャローナ」が前述の通り、いきなり全米1位に。それを含むアルバム『ゲット・ザ・ナック』も大当たり。

マイク・チャップマンをプロデューサーに据え、1960年代バブルガム・ミュージックと同じ構造のもと、1970年代後半のパンク/ニュー・ウェイヴ的フォーマットを巧妙かつキャッチーに取り入れたパワー・ポップ・バンドみたいな風情で電光石火の大成功。1990年代後半に入ってから注目を集め始めることになるLAパワー・ポップのルーツ的な存在としてもけっして見逃せない存在だった。

日本でも売れた。一時期、日本のレコーディング・スタジオでも音決めのとき、ミュージシャンがみんな“♪ドドテテドッテッ…”と、例の「マイ・シャローナ」の超えぐいリフばかり弾いていたという噂も耳にした。なにやら若さゆえの性欲むきだしというか、エッチなことで頭ぱんぱんというか、そういうちょっとやりすぎ感の強い歌詞はあざとくてどうかと思ったものの(笑)。パワー・ポップ好きだったぼくもソッコーでハマったものだ。

来日もあった。武道館。行ったなー。出版社に勤めていたサラリーマン時代。なんか、むちゃくちゃ若めの女の子ファンが多いのでびっくりした記憶がある。そういうバンドと思っていなかったので、ちょっとたじろいだ。デビュー当初のビートルズのイメージを、雑にではあるけれど、そこそこうまく取り入れ、大物新人感を付加する演出が大いに効果的だったということだろう。“ミート・ザ・ビートルズ”に対応する“ゲット・ザ・ナック”、みたいな。

が、この人たち、実際はロサンゼルスのローカル・ロックンロール・バンドといったたたずまいで。中心メンバーのダグ・フィーガーはなかなかの才人だけど、それにしても“ビートルズの再来”ってのは少々荷が重かった。以降、人気のピークを継続させることができず、前述の通り、1982年にいったん解散してしまった。

その後、ちょいちょい再結成していい感じにコンパクトなパワー・ポップ・サウンドによる佳作アルバムをリリースしたり。そこそこコンスタントに活動を続けて。ぼくは行かなかったけれど、フジロックか何か、日本のフェスにも来たんじゃなかったっけ? でも、ダグ・フィーガーが脳腫瘍と肺癌を併発し、闘病生活ののち、2010年に死去。この段階でザ・ナックの歴史は終わりを迎えた。

そんなダグ・フィーガーの裏面史とでも言うべきCD3枚組ボックスが編纂された。輸入盤は去年11月のリリース。紹介しそびれていたのだけれど、国内盤(Amazon / Tower)が明日、1月22日にリリースされるとのことなので、いい機会。ここぞとばかり取り上げておきます。

フィーガーの没後10年企画だとか。ディスク1には、フィーガーがドン・ウォズのプロデュースの下、ビリー・プレストン、ジェフ・バクスター、ニッキー・ホプキンス、ベンモント・テンチ、レイ・マンザレクらも迎えつつ1994年に制作された唯一のソロ・アルバム『ファースト・シングス・ファースト』と、2010年にリリースしたハンク・ウィリアムスへのトリビュートEP『ハンカリングズ』の全曲を詰め込んで。

ディスク2にはザ・ナックのデモとか、ダグ・フィーガー単体のデモとか、フィーガーとザ・ナックのギタリスト、バートン・アヴェールによるデモとか、カーズのエリオット・イーストンを含むゼン・クルーザーズ名義の音源とか。

で、ディスク3がザ・ナックの1994年のライヴ音源と、1991年の、これはスタジオ・ライヴみたいなやつ? およびザ・ナックが解散した1982年にフィーガーが率いていた新バンド、テイキング・チャンスのリミックス音源。

全50トラック。貴重な未発表曲が25曲。どの音源も楽しい。ソロ・アルバム『ファースト・シングス・ファースト』の充実ぶりとかもこれを機に再評価されるといいなと思う。けど、案外…とか言ったら失礼ながら、1990年代のザ・ナックがすっげーかっこよくて。今さらながら彼らの痛快さ、明快さを再確認。それが本アンソロジー、いちばんの収穫かも。ジミ・ヘンドリックスの「アー・ユー・エクスペリエンスト」とか、ニール・ヤングの「シナモン・ガール」とかのカヴァーも最高だし。

再結成分も含めて、また一から聞き直そうかな、ザ・ナック。

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