Disc Review

Gettin' In Over My Head / Brian Wilson (BriMel/Rhino)

ゲッティン・イン・オーヴァー・マイ・ヘッド/ブライアン・ウィルソン

さてさて。健'zですよ。久々、半年ぶりのライヴです。いつもはビーチ・ボーイズまつりをやらせてもらっている7月のCRT/レココレ@ロフトプラスワン。今年は2月に『SMiLE』まつりをやっちゃったこともあって、ビーチ・ボーイズまつりを順延。去年のクリスマス以来の、健'zのライヴをやらせてもらうことになりました。

しかもっ、今やチマタの話題の的、間もなく夢の旧譜再発が実現するザ・グッバイのやっちんこと曽我泰久くんがゲスト! そのグッバイの戦友とも言うべき相茶ディレクターの秘蔵っ子、ココナッツ・バンクの新作アルバムでのコーラスワークでもおなじみ、気鋭のシンガー・ソングライター、高田みち子さんもゲスト! それぞれが別々にステージを……というのではなく、健'zも含めた4人でハーモニー満点のライヴにできればと思ってます。左の告知コーナーをチェックしていただいて、お時間のある方はぜひ見に来てください。

つい先日、健'zとやっちんと3人で軽い打ち合わせをしたのだけれど。ぼくのギターに合わせて、やっちんと健一がハモってました。しかも、あんな曲とかこんな曲とか……。うはは。二人のコーラス、ぼくはもう聞いちゃいましたよ。役得、役得。

海の日に向けて盛り上がってます。そんなワクワク気分をさらに増幅してくれるのがブライアン・ウィルソンの新作。輸入盤が出回りはじめましたよー。というわけで、今回のピック・アルバムはもちろん、こいつ。正規のオフィシャル・ソロ・アルバムとしては88年の『Brian Wilson』、98年の『Imagination』に続く第3作目にあたる『Gettin' In Over My Head』です。すでにこのページでも触れた通り、収録曲の大半は過去の未発表レコーディング・セッションで作られた楽曲たちだ。

オリジナル・セッション別にざっとリストアップしておくと――

●1986年、ゲイリー・アッシャー・セッションより
「You've Touched Me」(当時のタイトルは「So Long」あるいは「Turning Point」)

●1989~90年、『スウィート・インサニティ』セッションより
「Make A Wish」
「Rainbow Eyes」
「Don't Let Her Know She's An Angel」
「Fairy Tale」(当時のタイトルは「Save The Day (The Power Of Love)」)
「The Waltz」(当時のタイトルは「Let's Stick Together」)

●1995~96年、アンディ・ペイリー・セッションより
「Soul Searchin'」
「Gettin' In Over My Head」
「Desert Drive」
「Saturday Morning In The City」

全13曲中、10曲がブートでおなじみの曲ばかり。というわけで、このアルバム用の純粋な新曲は残る3曲。話題のビッグ・アーティストとの共演曲だ。エルトン・ジョンとの共演による「How Could We Still Be Dancin'」、エリック・クラプトンがゲスト参加した「City Blues」、ポール・マッカートニーを迎えた「A Friend Like You」。が、「How Could We Still Be Dancin'」はアンディ・ペイリー・セッション期にビーチ・ボーイズ名義で録音された未発表曲のひとつ「Dancin' The Night Away」のフレーズが一部流用されているような気もするし。共作者およびバック・ミュージシャンとして98年の『Imagination』セッションで組んでいたジョー・トーマスの名前も見えるし。これも古いセッションからの曲と言ってよさそう。

もちろん、特に前掲の既存10曲、すべて基本的には今回のリリースに際して新録されている。改題されたものは歌詞も新たになっている。当然、オフィシャル・リリースは今回が初だし。あくまでも新作として受け止めた方がいい……とか言うのが無難なのかもしれないが。

でも、ぼくは今回のアルバムもむしろ“未発表曲集”と位置づけちゃっていいんじゃないかという気がしている。そうすることで、間もなく秋にはリリースされるという『SMiLE』の新録スタジオ・アルバムとの整合性がとれるというか。

1999年にライヴ活動を再開し、精力的にツアーを繰り返す中で、ブライアンは家族をはじめ、優れたバンド・メンバー、そしてファンたちの熱いサポートを受けながら、どんどんミュージシャンとしての現役感を取り戻してきて。とても幸せそうになってきて。ミュージシャン感覚の復活カーブと、年齢による衰えカーブとが微妙に交差してしまっているせいで今ひとつわかりにくものの。今やブライアンの音楽的な“治りっぷり”はかなりのものだ。そんな彼が、自らの過去を振り返って、精神的/肉体的にダメージを受けていた時期に作って、ほったらかしにしていた作品群を、ここにきて自ら精力的に再発見している、と。

彼の音楽生活には、確かに長く悲しいブランクがあった。けれども、今の彼は、自分の貴重な歳月を残酷にも奪っていた様々な苦悩から解き放たれ、過去に埋もれざるをえなかった自らの傑作曲たちを積極的に掘り起こし、それらに新たな息吹を吹き込もうとし続けているのではないか。

彼の長いブランクの終わりごろにあたる80~90年代の作品群を集めて新録した本盤と、ブランクの始まりの時点である66~67年の作品群を復活させた『SMiLE』と。新旧の未発表曲たちを、今、ブライアンは自信をもって世に問おうとしているような気がする。そして、そのすべてが時代を超えて輝き続けていることを証明しようとしている、と。

まあ、ぼくの単なる妄想かもしれないけど。ぼくはそんなふうにこの作品集を受け止め、愛おしく楽しんでいる。唯一、不満があるとすれば、ライヴで素晴らしいブライアン・ワールドを再現する名手ぞろいのブライアン・バンドの面々がほぼ全員参加してはいるのだが、主に楽器演奏のみだという点かな。ライヴで聞かせてくれる完璧なコーラス・ワークは残念ながらほとんど披露されずじまい。唯一「Desert Drive」のみでしか彼らの素晴らしいコーラス・ハーモニーが聞けない。これは、まじ、残念です。過去のソロ・アルバム同様、ブライアンの多重コーラスも悪くはないけど、多様な声が混ざってこそ、コーラスはよりスリリングになるのだから。 

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