Disc Review

John Lennon/Plastic Ono Band: The Ultimate Collection (Super Deluxe CD Box) / John Lennon (Capitol)

ジョンの魂:アルティメイト・コレクション(スーパー・デラックス・エディション)/ジョン・レノン

ジョンたま。そう。『ジョンの魂(John Lennon/Plastic Ono Band)』。このアルバムがいかにすごいか。そんなこと、今さらこんなブログでぼくごときが力説するまでもないわけですが。

でも、今回、やっぱすげえや…という思いを新たにした。オリジナルLP発売から50周年を祝う超豪勢なボックスセット『ジョンの魂:アルティメイト・コレクション』を聞いて。まあ、オリジナルLPの発売は1970年12月なので、若干遅れての50周年。数年前に出た『イマジン:アルティメイト・コレクション』と同趣向の箱で。エンジニアのポール・ヒックスによる“アルティメイト・ミックス(基本的にオリジナル・ミックスに超忠実なリミックス・ヴァージョン)”をメインに据えたコレクション。

1枚ものCD、2枚組CD、2枚組LPなど複数形式で発売されるが、中でも“スーパー・デラックス・エディション”と銘打たれた豪華版がやばい。アルティメイト・ミックス、別ミックス、膨大なアウトテイク、スタジオの様子など、とてつもなく大量の音源を詰め込んだ6CD+2ブルーレイの8枚組。

で、思い知りました。このときのジョンが放っていたただならぬ緊張感というか、鋭い気迫というか、その凄まじさを。

ごくごく個人的な好みだけを全面に押し出して言うと、ぼくは『ロックンロール』というアルバムがジョン・レノンの作品中いちばん好きなのだけれど。いろいろな意味合いを込めて、絶対に超えることができない境地——それは、ジョン本人にとっても、だ——を思う存分見せつけてくれたのは、やっぱこの『ジョンの魂』だったんじゃないかと思う。

いちばん好きな曲は「しっかりジョン(Hold On)」だ。今でも大好き。トレモロをかけたエレキ・ギターとベースとドラム。実にシンプルなバッキングで歌われた2分足らずの小品だが、むしろ簡素であるがゆえ、とてつもなく強いメッセージを放つ、ほのかにソウルフルな1曲だった。

“しっかりジョン。しっかりヨーコ。うまくいくよ。ひとりぼっちで誰もいないときそうつぶやくんだ…”

1960年代末、“我々”を主語に膨れ上がった共同幻想の崩壊後、世を支配する“君”と“ぼく”のきわめてパーソナルな世界観。多くのシンガー・ソングライターが以降こぞって描くことになる時代の空気感の先取りでもあった。『セサミ・ストリート』のクッキー・モンスターを真似た“クッキー!”という一声も耳を引くけれど、『セサミ…』の日本放映開始は1971年夏。ぼくたち日本のファンにとって当初は謎の一声だったなぁ。

この曲も含め、アルバム冒頭を飾る「マザー」とかに顕著なように、『ジョンの魂』は幼児期の抑圧を解放する精神療法であるプライマル・スクリーム(原初療法)を受けた当時のジョンが、ひたすら個人的な世界へと埋没するなかで生み出した、あまりにも心に痛い、きわめて私小説的な1枚。今回の8枚組ボックスセットはそれを実に多角的な視点で再検証させてくれる。

CD1が『ジョンの魂』全11曲に、「平和を我らに(Give Peace a Chance)」「コールド・ターキー」「インスタント・カーマ」というシングル3曲を加えた“アルティメイト・ミックス”。CD2が“アルティメイト・ミックス/アウトテイクス”ということで、CD1と同様の楽曲群をそのままの曲順で、別テイクによって構成した1枚。CD3が“エレメンツ・ミックス”。これもCD1と同じ曲順で、音数を大幅に減らしたり、意外な音のバランスを引き上げたりしながら新鮮に聞かせてくれるリミックス集。

CD4が“ロウ・スタジオ・ミックス”。より生々しいスタジオ・セッションの模様が記録されている。CD5が“エヴォリューション・ミックス”。オリジナルLPの収録曲11曲が完成に至るまでの流れを、スタジオでの会話なども交えつつたどる内容だ。で、CD6が“ジャムズ・ライヴ&インプロヴァイズド”+“デモズ”。ロックンロールのカヴァーなどをラフにセッションする様子と、オリジナルLP収録曲のデモ音源集の抱き合わせ盤だ。

ちゃんと別パッケージに収められて同梱された2枚のブルーレイにはそれらすべてのハイレゾ音源および、時間の関係でCDには収録しきれなかったアウトテイク(けっこうな数!)、追加で入っているシングル3曲のエヴォリューション・ミックス、ヨーコがらみのセッション、さらにアルティメイト・ミックスの5.1サラウンド・ミックスなどを満載。ヨーコが突然日本語をぶちこんできたりする未発表音源もあり。いや、とてもすぐには全部聞ききれません。ブックレットも超ゴージャスで。情報量マックス。じっくり向き合わないと、ね…。

またまた個人的な思い出話で恐縮だけれど。ぼくは1970年12月の発売日からちょっと遅れて、1971年2月の半ば、確か高校受験の直後というか、たぶん当日だった気もするけれど、帰り道に高田馬場のムトウだったか新宿の帝都無線だったか、そのあたりのレコード屋さんで、なぜかUK輸入盤を買った。ぼくが初めて手に入れたUK盤LPで。妙に重い盤と、ガッツのある音質に驚いた覚えがある。受験がうまくいったかどうか判然としない微妙な気分の中、じんわり味わった。

すでに内容については愛読していた『ミュージックライフ』のような当時の音楽雑誌で読んで、なんとなくつかんでいて。「ゴッド」という曲で、ぼくはビートルズなんか信じない…と、ジョンがショッキングなことを歌っていることも知っていた。「ゴッド」では他にも、マジック、バイブル、タロット、ヒットラー、ジーザス、ケネディ、ブッダ、マントラ、ヨガ、ジママン(ボブ・ディラン)など、すべてを信じないと叫びまくっていて。その中にエルヴィス・プレスリーの名前も入っていた。そのころちょうど、遅ればせながらエルヴィスのファンになりたてだったぼくは、ちょっとショックだったりしたものだけれど。

でも、そんなこと歌った「ゴッド」では、エルヴィスがカヴァーして1960年代後半にヒットした「ラヴ・レターズ」あたりに通じるナッシュヴィル調ピアノ・フレーズがちゃっかり流用されていたりして。なんだよ、エルヴィスなんか信じないとか言ってるわりに、やっぱ好きなんじゃん、みたいな。嫌い嫌いもなんとやら的な屈折したリスペクト感に、ちょっと頬が緩んだりも…。

今回、“エレメンツ・ミックス”で聞くことができたヴォーカル別テイクでは、最初に“ペイン”って言葉が出てくるところで、ジョンは完全にエルヴィスの真似して歌っていたり。ジャム・ライヴではエルヴィスのメドレーも思いきりふざけつつも物真似しながら歌っていたり。そのあたりを再確認できたのも個人的にはやけにうれしいボックスセットではありました。

でも、エルヴィスのパロディ・メドレーで、「ホエン・アイム・オーヴァー・ユー」ってクレジットされている曲は「ホエン・アイム・オーヴァー・ユー」じゃないと思う。ジョンがテキトーにエルヴィスっぽく歌っただけの曲なんじゃないかなぁ。エルヴィスは確かにこのアルバムがレコーディングされた1970年秋の段階で「ホエン・アイム・オーヴァー・ユー」を録音ずみではあったけれど、実際、盤になってリリースされたのは1971年になってからで、ジョンが知っているわけないし。ジョンが好きそうな曲でもないし…。

まあ、そんな細かいことはどうでもいいか。

思えば、この「ゴッド」を聞いたとき以来、ぼくにとってのジョンの勝手なイメージは、エルヴィスを愛する同好の士(笑)。やがて『ロックンロール』を頂点に燦然と輝く鉄壁のロックンローラーってことになったのでありました。

そういえば、ボブ・ディランに関しても。ジママンなんか信じないって言ってるわりに、こちらもディランっぽいアコースティック・ギター弾き語り曲も多く含まれているし。そういう人なんだね、ジョンって。ほんと、ひねくれ具合が駄々っ子みたいでかわいい。

とはいえ、アルティメイト・ミックスにしても別ミックスは別ミックスなので。基本、オリジナル尊重主義のハギワラは、この膨大な箱をとりあえずしっかり受け止めたうえで、しかし、やっぱ最終的にはオリジナル盤のオリジナル・ミックスへと立ち返るんだろうな、と。先週紹介したザ・フーや先月紹介した大滝詠一ともども、なんだよそれ…的な、元も子もない結論に達しております(笑)。

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