サム・オヴ・ジーズ・デイズ/ララ・ダウンズ
まあ、あえて分ければクラシックの分野に属することになるのだろうけれど。ビリー・ホリデイのレパートリー集とか、レナード・バーンスタイン絡みの楽曲集とか、エリントン、ジョプリン、コープランド、ハロルド・アーレン、アーヴィング・バーリンら米作曲家たちの曲を詰め込んだ1枚とか、ジュディ・コリンズ、シモーヌ・ディナースタイン、レイラ・マッカラ、リアノン・ギデンスら多彩な女性アーティストたちと共演した1枚とか、そういうアルバム群をリリースしながらアメリカ音楽の深みを追求し続ける女性ピアニスト、ララ・ダウンズ。
新作は、彼女なりの視点で再構築したゴスペル、スピリチュアル、フリーダム・ソング集だ。日本人にとってもおなじみの楽曲もそれなりに含まれているけれど、どれもがとても新鮮に響く。黒人の父親とユダヤ系の母親との間に生まれた彼女ならではのアプローチという感じか。
冒頭の「Sometimes I Feel Like a Motherless Child」はアラン・ローマックスの父親、ジョン・ローマックスによって1939年にフィールド・レコーディングされた歌声とダウンズのピアノとのヴァーチャルな共演だ。続く「Steal Away」はトシ・レーガンのヴォーカルとギターと絡み合いながら、アイヴスの「コンコード・ソナタ」と交錯する。この冒頭2曲だけで心が震える。
ラングストン・ヒューズとの交流でも知られる黒人女性ピアニスト/コンポーザー、マーガレット・ボンズの作品「Spiritual Suite」から抜粋された2篇のソロ・ピアノ演奏も深い。ダウンズはリアノン・ギデンスからボンズの存在を教えてもらったそうだが、なるほどリアノン・ギデンスが追求/模索する音楽的な歴史観みたいなものと大いに共通する世界がここにはある。
やはりボンズの作品である「Hold On」は超ジャンルで活動する弦楽四重奏団、パブリカルテット(PUBLIQuartet)と、シカゴの9人組混声ヴォーカル・チーム、ミュージカリィティとの共演。「Deep River」でもPUBLIQと共演しているけれど、こちらも深い。
「I Wish I Knew How It Would Feel to Be Free」はビリー・テイラー作。ニーナ・シモンのレパートリーとしておなじみだ。これも感動的なソロ・ピアノ演奏。やはりソロ・ピアノで綴る「Down by the Riverside」や、チェイピン・シスターズのヴォーカルをフィーチャーした「We Shall Overcome」、シンガー・ソングライター/作家のハワード・フィッシュマンを迎えた「All Night, All Day」ともども、公民権運動を支えたフリーダム・ソングへのダウンズなりのアプローチを聞くことができる。
トランペッターのアルフォンソ・ホーンとのデュオ「My Lord, What a Mornin’」、ヴァイオリン奏者のアダム・エイブスハウスとの「Nobody Know the Trouble I’ve Seen」も泣けた。「Fantasie nègre No. 2」とアルバムのタイトル・チューンは、これまでのアルバムでもダウンズが取り上げてきているアメリカ初の黒人女性の交響曲作曲家、フローレンス・プライスの作品。
自分たちの足下を改めて淡々と、真摯に見つめ直す。今、このなんともざわざわした、不安ばかりの時期、とても大切なこと。クラシック、ジャズ、フォーク、カントリー、R&Bなど、幅広い音楽性が静かに、豊かに融け合う珠玉のルーツ・ミュージック盤です。