アー・ユー・シリアス?/ヴァン・デューレン
去年の2月、本ブログで『ウェイティング〜ザ・ヴァン・デューレン・ストーリー』というアルバムを紹介したことがあった。ヴァン・デューレン。テネシー州メンフィスを本拠にするパワー・ポッパーだ。同郷のビッグ・スターやスクラフズ、トミー・ホーエンといったアーティストと同じ分野の同輩ということになるのだけれど。
ビッグ・スターの解散後、メンバーだったクリス・ベルとジョディ・スティーヴンスがベイカー・ストリート・レギュラーズ(“イレギュラーズ”ではないですw)というバンドを組んだ際、その一員として活動していたこともある。この短命に終わったバンドではレコードを出せずじまいだったけれど、その後、ローリング・ストーンズの初期のマネージャーとしておなじみ、アンドリュー・ルーグ・オールダムのマネージメントのもと、ソロ・アーティストとして1978年にアルバム・デビューを果たした。
それが今日、ピックアップする『アー・ユー・シリアス?』。内容は素晴らしくて。ジョディ・スティーヴンスとの共作ひとつを含むオリジナル全13曲、すべてが名曲。“メンフィスのポール・マッカートニー”などと評されるヴァン・デューレンの個性が存分に発揮された1枚だった。が、これがなぜだか、まったく売れずじまい。セカンド・アルバム『イディオット・オプティミズム』も制作されながら、あえなくお蔵入り。
1980年代にグッド・クエスチョンというバンドを組んで「ジェーン」というローカル・ヒットを放ったことがあったり。トミー・ホーエンと組んでアルバム制作をしてみたり。断続的にいろいろやってきてはいるけれど、結局のところ、アレックス・チルトン/ビッグ・スターのようにカルトかつ熱狂的な支持を得ることもできないまま歴史に埋もれてしまっていた。
ところが、去年のエントリーでも書いた通り、そんなヴァン・デューレンの知られざる物語を綴ったドキュメンタリー映画『ウェイティング』が2018年、メンフィス・パワー・ポップの熱心なマニアでもあるオーストラリアのミュージシャン、ウェイド・ジャクソンの手によって制作されて。それをきっかけにヴァン・デューレンの名前がシーンに浮上。その映画のサントラ盤を編纂したオムニヴォア・レコーディングズが、ついに、めでたく、1978年のファースト・アルバム『アー・ユー・シリアス?』をオリジナル・フォーマットで再発することとあいなったのでありました。
とはいえ、熱心なパワー・ポップ・ファンならばご存じの通り、これ、世界初CD化というわけじゃない。『アー・ユー・シリアス?』の初CD化は、1999年、なんと日本でなされていたのでありました。日本のパワー・ポップ・マニアはしぶといっすね。セカンド『イディオット・オプティミズム』の発掘リリースすら実現しちゃっていたくらい。なので、本国アメリカで以上に日本でのほうがこの人の名前は有名かも。
以降、英米でもこの日本の再発CDをもとにして、この2作のCDそれぞれがブートまがいの感じでリリースされたこともあった。でも、日本での初復刻も含め、その辺の一連の動きはヴァン・デューレン本人とはまったく関係のないところでなされたものだったようで。ご本人的にはあまり納得がいっていなかったらしく。今回、オムニヴォアと組んでついに本気のリイシューに乗り出した、と。そういう流れらしい。
で、2020年、ここにめでたくオリジナル・アナログ・マスターからきっちりリマスターされたCD、LP (Amazon / Tower)、そしてデジタル・ダウンロード/ストリーミングが登場。ヴァン・デューレン本人が書き下ろした新ライナーノーツ、貴重な写真も魅力的。音質もぐっとよくなって。ほんと、アー・ユー・シリアス? まじ? みたいな。うれしい再発劇であります。
さらに、さらに。当時、お蔵入りした幻のセカンド『イディオット・オプティミズム』のほうも改めて発掘リリースが実現。こちらは1曲のみクリス・ベルの作品、残り全曲がヴァン・デューレン作。今回はヴァン・デューレン自らの全面的コントロールのもと、やはりオリジナル・アナログ・マスターからきっちりリマスターされて、新たなジャケットも制作されて、アルバムにまつわる物語を本人目線で綴ったライナーがついて、初出の写真が満載されて…。
セカンドに関してはアナログLP化が世界初(Amazon / Tower)。こちらは2枚組仕様でのリリースだ。ビッグ・スター、ウイングス、エミット・ローズ、ラズベリーズ、バッドフィンガーなど、そのあたりが好きな方には宝です。未聴の方は、ぜひお試しを!