ステップ・アップ/タワー・オヴ・パワー
以前、メンバーチェンジが多いバンドのややこしさみたいなことについて書いたことがあった。ドゥービー・ブラザーズ、フリートウッド・マック、オールマン・ブラザーズ・バンドなど…。
あと、この人たちもそうだ。タワー・オヴ・パワー。カリフォルニア州オークランドで結成され、1970年にレコード・デビューして以来、現在まで50年間、まあ、活動期間が長いせいもあるけれど、それでも尋常じゃないくらいメンバー・チェンジが多い。さっき英語版のウィキペディアをチェックしてみたら、現行メンバー10人の名前の下に、過去メンバーの名前がずらり掲載されていたのだけれど。
数えてみたら、61人!
半世紀にわたって、現行メンバーを加えれば70人以上がバンドに出入りしているわけだ。普通じゃない。フロントに立つリード・ヴォーカルでさえころころ変わる。ドラムも変わる。ベースも変わる。ギターも変わる。キーボードも変わる。これだけ変わればサウンドが変わったって不思議はないのだけど。でも、変わらないのだ。メンバーチェンジの多い他のバンドの場合、メンバー入れ替わりのたび音まで変わることが多いの対し、タワー・オヴ・パワーは変わらない。彼らがぼくたちにプレゼントしてくれる痛快なサウンドの手触りは不変だ。
秘密は。そう。ホーン・セクション。実際、結成以来のオリジナル・メンバーとして現在もバンドに残っているのは、アルト・サックス/テナー・サックス/ヴォーカルのエミリオ・カスティーヨと、バリトン・サックスのスティーヴン“ドク”クプカ、2人だけ。でも、この2人を核に編成された5管のホーン・セクションの切れ味鋭い強力アンサンブルがある限り、タワー・オヴ・パワーはタワー・オヴ・パワーなのだ。
途中、様々な事情で抜けたり、出戻ったりを繰り返してきたドラムのデヴィッド・ガリバルディとベースのフランシス“ロッコ”プレスティアが作り上げたベーシックなファンク・グルーヴももちろん重要で。それを、本人たちが今も披露してくれることもあれば、別メンバーがきっちり受け継ぎつつ表現してくれることもあり…。
誰が演奏しているかはともあれ、このホーン・アンサンブルとリズム隊のグルーヴ。両者が絡み合いさえすればタワー・オヴ・パワー・サウンドは不滅だ、と。そういうことです。今なお毎年のように来日してはごきげんなタワー・オヴ・パワー・サウンドをぼくたちに届け続けてくれている。ぼくも来てくれれば必ずライヴに足を運ぶ。で、思いきり元気をもらって。この人の音楽に始めて出くわしてぶっとんだ高校時代から今まで、まったく同じ熱量で好きでい続けることができている事実に改めて胸躍らせるのだ。
と、そんな彼らの最新作。数え方によっていろいろ異論もありそうだけれど、とりあえずライヴも含めて26作目のアルバム、かな。2018年に出た前作『ソウル・サイド・オヴ・タウン』と同じ時期に録音された音源だとか。ということで、前作に引き続き、ジノ・ヴァネリの兄弟であるジョー・ヴァネリとエミリオとの共同プロデュース。
1曲目に1分弱の短いファンク・インストを据えてアルバムをスタートさせる“『バック・トゥ・オークランド』方式”をとっているのも前作同様。正直言って、楽曲的にはキラー・チューンに欠けるというか。前作から外された、そこそこの曲を集めた1枚なのかも…という印象もあり。これでタワー・オヴ・パワー入門を果たそうという若いリスナーがもし目の前にいたら、ぼくはたぶん全力で阻止して、70年代の諸作を薦めることになるとは思うけれど。
でも、ずっと彼らを聞き続けてきたファンにとっては、あのホーン・アンサンブルと、あのグルーヴが今なお現役感たっぷりに機能していることが体感できるうれしい仕上がりだ。それは事実。現在、ベースのロッコはもうツアーには参加していなくて、下のビデオクリップにも現ベーシストのマーク・ヴァン・ワゲニンゲンの姿が映っているけれど、アルバムに関しては、スタジオ録音ということでロッコがベースを弾いている曲も多いみたい。ガリバルディ&ロッコのグルーヴ。最強だ。ドゥーワップとか、サルサとか、ああいうのと一緒で、1曲好きだったらもう全部好き、みたいな(笑)。タワー・オヴ・パワーもそういう音楽だと思うので。ファンならば聞かないという選択肢はないやろ…的な?
3年くらい前、身体こわして入院して。いったんはけっこうやばい状況になって。でも、なんとか運良く回復できて。退院後、初めて見に行ったライヴがこの人たちだった。高校時代とか大学時代に心から憧れて聞きまくっていたアーティストたちが元気にライヴやっていてくれる間は俺も負けずに元気でいなきゃいかんな、と思わせてくれたっけ。以後、玄米食って、ウォーキングして…の毎日(笑)。おかげさまでダイエットもうまくいって健康になりました。
恩人だな。タワー・オヴ・パワー。ついて行きます、どこまでも。