Disc Review

Blue Eyed Soul / Simply Red (BMG)

ブルー・アイド・ソウル/シンプリー・レッド

シンプリー・レッドのデビューは1985年。そのちょっと前にヴァレンタイン・ブラザーズが全米R&Bチャートで小ヒットさせた「マネーズ・トゥー・タイト」のカヴァー・シングルでいきなり当たりをとって人気者の仲間入りを果たした印象がある。懐かしい。ぼくも今のような仕事を始めたばかりで、ずいぶんと彼らに関する原稿を書かせてもらったものだ。

ただ、そのころからあまりバンドっぽくなかったというか。中心メンバーであるミック・ハックネルのソロ・プロジェクト的な色合いが強かったというか。ぼくも当時からハックネルのことばかり書いていた気がする。メンバーの出入りも激しかったし。

だから、ドラマーとして屋敷豪太が参加するようになった1991年の傑作『スターズ』から1995年の『ライフ』あたりの最充実期を経て、やがて2010年にいったん解散したときも、2015年に再結成したときも、何を今さら…みたいな気分になったことは事実。

ハックネルさんも近年は本格的にワイン作りとかに勤しんでいるみたいだし、財団とかの活動も忙しそうだし、ツイッターなども駆使した反ブリグジット運動も熱いし、マンチェスター・ユナイテッド愛も相変わらずだし、もちろん家族と過ごす時間も大切だし。そんな多忙な中、でも、歌も忘れていなかった。よかった。いよいよ来年60歳を迎えるにあたり、あえて初心に戻ってみました的な、そんな新作を届けてくれた。

4年ぶり。通算12作目。アルバム・タイトルからして心意気がみなぎっている。ずばり『ブルー・アイド・ソウル』。青い瞳のソウル。ご存じの通り、白人パフォーマーによるソウル音楽のこと。白人ながらディープでソウルフルな歌心を持った者だけに冠される呼称として、今なおよく使われるそれなりの褒め言葉的フレーズだけれど。この言葉、ちょっと微妙で。嫌う人もいるのだ。

たとえばダリル・ホールとか。俺の音楽は“青い瞳の”とか、そんなよけいな形容なんか必要のない、そのものずばりの“ソウル”なんだ、と。そういう主張。なるほど。わからなくもないけれど。でも、そんな中で、ハックネルは今回あえて“ブルー・アイド”を堂々と自称したわけだ。1964年にライチャス・ブラザーズが自分たちのセカンド・アルバムに『サム・ブルー・アイド・ソウル』というタイトルを冠したのと同様だ。ここにぼくはハックネルの覚悟のようなものを感じる。

彼の場合、たとえばヴァン・モリソンあたりと通底する真摯なアプローチによって、憧れの対象である米国産のソウルやジャズの単なる模倣に終わることなく、その感覚をひとまず丸ごとフトコロへと引きずり込んだうえで、芳醇でどこか内省的な、英国人ミュージシャンならではのソウル・サウンドへと昇華してみせてきたわけだけれど。

今回はそうした、ある種真摯な配慮はなし。もっとまっすぐ。ストレート。剛球。憧れの対象めがけて、真似と言われようが何だろうが、仕方ねーだろ、俺はこれが好きなんだから…的な勢いで迷いなく突進しているような。そんな痛快な1枚に仕上がっている。

ハックネルさんも来年60歳を迎えるそうで。そんなひと区切りに向けて、文字通り、還暦というか。初心に戻って、たとえばジェイムス・ブラウンとか、オーティス・レディングとか、サム・クックとか、アイザック・ヘイズとか、カーティス・メイフィールドとか、ボビー・ブランドとか、スタイリスティックスとか、タワー・オヴ・パワーとか…。ファンクからポップR&B、ゴスペル、サザン・ソウル、フィリー、ディスコ、スウィート・ソウルまで大好きなソウル音楽への愛情を炸裂させている感じ。

全10曲、すべてがミック・ハックネル作。プロデュースは盟友アンディ・ライト。ロンドンにあるマーク・ノップラーのブリティッシュ・グローブ・スタジオでほぼ一発録り形式で録音されたという。ミュージシャン・クレジットを眺めてみると、今や結成以来のメンバーはハックネルのみ。セカンド・アルバムから加わったサックスのイアン・カーカムがいちばんの古株で。あとはギターの鈴木賢司も含め、ほぼ全員1990年代末以降に途中加入した腕利きたちが的確にバックアップしている。

通常1CD版のほか、ボーナスCD付きデラックス2CD版とか、アナログLP(黒盤だけでなく、パープル・ヴァイナルも)とか、いろいろな仕様で出るみたいです。

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