グッバイ・ボーイズ〜60’sガールズ・ポップ蔵出し名曲選第二集/エリー・グリニッチ、ティナ・ロビン、ジェイニー・グラント、バーナデット・ピータース、トレイシーほか
この世でいちばん美しいティーンエイジ・ポップの形は何か。そう問われれば、ぼくは迷いなく1960年代の全米・全英ヒットチャートを大いに賑わしたガール・グループ/ガール・シンガー・ポップだと答える。
いいんだよなぁ、1960年代ガールズ・ポップ。ごきげん。当時シーンをにぎわしていた男性ポップ・シンガーたちの場合は、たとえ彼らがティーンエイジャーであれ、デビューした時点でどこか将来への展望のようなものを匂わせていた。ナイトクラブ・シンガーになりそうなやつもいれば、映画に転身しそうなやつもいた。当時の常識では男が先を見据えて長く稼がなければならない役回りだった。
それに対して、女の子たちはもっと無垢。今、この瞬間、この刹那にだけ輝いている、みたいな。
大きく状況が様変わりした今の時代にこんなこと軽々しく口にしたらあれこれ疑問を呈されてしまいそうだけれど、仕方ない。1960年代前半と言えば、今とはずいぶん違う。当時の女の子シンガーたちは、主義も思想も展望も実体もなく、今、自分がどんな男の子に恋しているか、彼はどんなに素敵なボーイか、と。そんなことをひたすら無邪気に、あくまでも“歌”に託してみせてくれる存在だった。そういう役回りとしては、あの時代、とりあえず女の子のほうが断然適任だったってことだ。
今年の春、竹内まりやのRCA時代のアルバム再発に関してあれこれ書かせてもらったときにも触れたことだけれど、往年のガールズ・ポップというのは基本プロデューサーズ・ミュージック。様式として存在するのは基本的には音楽的なスタイルだけだ。バックをかためるプロデューサーやソングライターたちが緻密に構築したその音楽スタイルにのっとりながら、時代時代の“旬”のコたちが入れ代わり立ち代わり、刹那を生きる少女ならではの切なく揺れる気持ちってやつを歌に託して届けてくれる。良くも悪くも、これが1960年代英米ガールズ・ポップの美学だった。
今回ご紹介する『グッバイ・ボーイズ〜60'sガールズ・ポップ蔵出し名曲選第二集』に満載された当時の女の子たちの歌声に接して、その辺の刹那な気分、改めて堪能しました。バカにマニアックなコンピレーションを編むことですっかりおなじみ、豪ティーンズヴィルの仕事。『ルッキン・フォー・ア・ボーイズ〜60'sガールズ・ポップ蔵出し名曲選』に続くレアもの60年代ガールズ・ポップ集第2弾だ。
エリー・グリニッチ、マージー・ミルズ、ティナ・ロビン、ジェイニー・グラント、バーナデット・ピータース、ダーリーン・テリー、リネット・ウェスト、トレイシーなど、その筋のマニアにはたまらないラインアップが顔をそろえたコンピレーションなのだけれど、とにかく本作の場合、恐ろしいのは有名曲がひとっつもないこと(笑)。激レアものばかり。未発表ものから、歌手不明(!)の音源まで。ジャック・ニッチ、ベン・ワイズマン、トニー・マコウリー、リチャード・ペリー、アンダース&ポンシア、アーノルド/マーティン/モロウなど1960年代英米ポップス・ファンにとって気になるスタッフ・クレジットも泣ける。ティーンズヴィルは、ほんと、すごい仕事します。
国内盤は明後日、10月25日発売だそうです。