Disc Review

I Don’t Know a Thing About Love: The Songs of Harlan Howard / Willie Nelson (Legacy Recordings/Sony)

アイ・ドント・ノウ・ア・シング・アバウト・ラヴ/ウィリー・ネルソン

平日更新を個人的ルールとして続けている本ブログ。いつもなら木曜日は、スロウバック・サーズデイ企画ってことで、ぼくがセレクトするプレイリストを載せたりしているのだけれど。もうすぐゴールデンウィークに突入しちゃうようで。ぼくも休んじゃう予定。とはいえ、いろいろ紹介したい興味深いニュー・リリースが積み残されちゃっていることもあって。今日は木曜ではありますが普通にニュー・リリース紹介させていただきますね。

1933年4月29日生まれなので、あさって、29日になんとめでたく90歳、卒寿を迎えるウィリー・ネルソン。彼の、もう何作目なんだかすら数えられない、70何作目かの新作です(笑)。89歳のときにレコーディングされたぴっかぴかの1枚。内容は1950年代からプロのソングライターとして4000作以上の名曲を紡ぎ上げてきたハーラン・ハワードの作品集だ。

ぼくがこのハーラン・ハワードという名前を知ったのは、1969年だったか1970年だったか、とにかく中学生のころで。そのころ聞いたジョー・サイモンの「チョーキン・カインド」って曲のソングライターとしてだった。R&Bシンガーのジョー・サイモンが歌っていたので、てっきりそっち系の人なんだろうと思っていたら、この曲もともとはカントリー畑のウェイロン・ジェニングスのヒットで、ジョー・サイモン版はカヴァーだと聞かされて、けっこう驚いたものだ。

個人的にはちょうど同じ時期にレイ・チャールズによるカントリー・カヴァーなどもいろいろ聞くようになっていたり、エルヴィス・プレスリーの当時の録音にカントリーの要素とソウル〜ブルースの要素とが渾然と渦巻いていることに気づいたりもし始めていて。白人のカントリーと黒人のソウル・ミュージック。全然別物と思い込んでいた両ジャンルが実は深いところで複雑に交錯していることを知った…というか、まあ、まだ洋楽初心者だった中学生のぼくには本当のところなどよくわかっていなかったものの、そのとば口へと導いてくれた恩人のひとりがハーラン・ハワードだったりするわけです。

そういえば、素晴らしいカントリー・ナンバーのことを“スリー・コーズ・アンド・ザ・トゥルース”、つまり“3つのコードと真実”とか形容したりするけれど。この形容をしたのもハーラン・ハワードらしい。この言葉、ブルースにも通じるわけで。そう思うと、やはり米国の大衆音楽ってのは深いな、と、改めて思い知る。

まあ、とにかくそんな名匠ハーラン・ハワード作の名曲を89歳のウィリー翁が歌いまくった1枚。必殺の企画だ。取り上げている曲は、ハワードがバック・オウエンスと共作した「タイガー・バイ・ザ・トレイル」と「エクスキューズ・ミー」、ウェイロン・ジェニングスがヒットさせた前述「ザ・チョーキン・カインド」、ジョージ・ジョーンズのヒットとしてもおなじみ、“リトル”ジミー・ディケンズの「ライフ・ターンド・ハー・ザット・ウェイ」、アルバム・タイトルにもなっているコンウェイ・トウィッティの「アイ・ドント・ノウ・ア・シング・アバウト・ラヴ(ザ・ムーン・ソング)」、グラム・パーソンズやリトル・ウィリーズのカヴァーでもおなじみ、ボビー・ベアの「ストリーツ・オヴ・ボルティモア」、ジョニー・キャッシュへの提供曲ながらレイ・チャールズの名唱でも知られる「バステッド」、ハーラン・ハワード自身のヴァージョンがオリジナルで、キャンディ・ステイトンのR&Bカヴァーもある「シー・コールド・ミー・ベイビー」、ブレンダ・リーでヒットした「トゥー・メニー・リヴァーズ」、そしてバール・アイヴスの「ビューティフル・アナベル・リー」。

プロデュースはいつものように盟友バディ・キャノン。ウィリー翁といえばこの音がないと…という感じのハーモニカ奏者、ミッキー・ラファエルももちろん参加しているし、ウィリーの愛器、“トリガー”の名で知られるマーティンN-20ナイロン弦ギターもいい音鳴らしているし。そして、もちろん90歳を目前にしていまだ瑞々しいウィリー翁の歌声! おてんばな女の子に振り回される様子を快活に歌う「タイガー・バイ・ザ・トレイル」とかはもちろん、別れの苦悩を切々と綴る「シー・コールド・ミー・ベイビー」とか「トゥー・メニー・リヴァーズ」とかも胸に響くし。

アルバムのまだ前半、「エクスキューズ・ミー」から「ライフ・ターンド・ハー・ザット・ウェイ」へと至るあたりでもう泣けてくる。“彼女のもとを多くの足跡が通り過ぎ、踏みつけてきた/認めたくはないけれど、最後の足跡は俺のものだ/初めて出会ったとき彼女は泣いていた/今はもっと大きな声で泣いている/だから彼女を責めないでくれ/人生が彼女をそんなふうにしてしまったんだ…”と歌われる後者とか、もう痛いくらい。でもって、“俺は愛のことなど何ひとつ知らない”と歌われる表題曲へ…。すごい流れです。

ラスト・ナンバーの「ビューティフル・アナベル・リー」では天国にいる愛する人と結ばれることを願うのだ。90歳のウィリー翁が。やばい。

身内のことほめるのも何ですが。国内盤(Amazon / Tower)には能地祐子がなかなか充実したライナーノーツを寄せています。グッジョブです。沼崎敦子さんによる訳詞もばっちり付いているので、ハーラン・ハワードの世界観とウィリー・ネルソンの歌心とをより深く、じっくり味わいたい方はこちらをゲットするのがよろしいか、と。ノージくんもインスタで軽く紹介していました。

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