Disc Review

Pieces of Treasure / Rickie Lee Jones (Modern Recordings)

ピーシズ・オヴ・トレジャー/リッキー・リー・ジョーンズ

今年に入ったばかりのころ、ちょっと驚きの、でもとてもうれしいニュースが届いた。リッキー・リー・ジョーンズが2019年の『キックス』以来となる新作アルバムを出す、内容的には、なんと全編“グレイト・アメリカン・ソングブック”と呼ばれるスタンダード・チューンのカヴァーものになる、と。で、先行シングルとしてディーン・マーティンでおなじみの「ジャスト・イン・タイム」のカヴァーが公開されて。

なんでもリッキー・リーは近ごろ、初期2作のプロデュースを手がけたラス・タイトルマンと電話したりランチ・ミーティングしたりする機会が多かったそうで。そんなとき、タイトルマンが「ジャズ・アルバムやろうぜ」とぐいぐい迫り続け、その圧に気圧されたか(笑)、リッキー・リーもやがてそれを承諾。ロブ・マウンジー(ピアノ)、ラッセル・マローン(ギター)、デヴィッド・ウォン(ベース)、マーク・マクリーン(ドラム)らとマンハッタンのミッドタウンにあるシアー・サウンド・スタジオに入って、5日間で本作を完成させたのだとか。

その後、フランク・シナトラの名唱で知られる「セプテンバー・ソング」と、ナット・キング・コールの「ネイチャー・ボーイ」が順次先行シングルとして公開されて。で、ようやくアルバム、出ました。昨夜、ストリーミングもスタート。それが本作『ピーシズ・オヴ・トレジャー』だ。前述メンバーのほか、曲によってマイク・マイニエリがヴィブラフォンで参加していたり、なんとウード奏者のアラ・ディンクジアンが加わっていたり、ふわーっと流麗なストリングス・アンサンブルが流れ込んできたり。タイトルマンが適材適所、いいミュージシャンを配し、いい仕事を聞かせている。

過去、リッキー・リーがこの手のグレイト・アメリカン・ソングブック系のスタンダード・ナンバーをカヴァーしたり、ジャズっぽいアプローチを聞かせる機会も少なくはなかったけれど。全編スタンダードを取り上げたアルバムとなると、本作が初だ。

取り上げられている曲自体はわりとひねりなし。けっこう直球。「ワン・フォー・マイ・ベイビー」「オール・ザ・ウェイ」「ある雨の日が(Here's That Rainy Day)」「セプテンバー・ソング」あたりはフランク・シナトラとかでおなじみのスタンダード・チューンで。その他、前述ディーン・マーティンの「ジャスト・イン・タイム」とナット・キング・コールの「ネイチャー・ボーイ」、チェット・ベイカーでおなじみの「ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー」、フレッド・アステアの「誰にも奪えぬこの想い(They Can't Take That Away from Me)」、ルイ・アームストロングというか『カムカムエヴリバディ』でまた知名度上げたかも(笑)の「明るい表通りで(On the Sunny Side of the Street)」、トミー・エドワーズの「恋のゲーム(It's All in the Game)」。有名どころ勢揃いだ。

が、それぞれの曲へのアプローチがなんともリッキー・リーらしく。どこかダウナーというか、オルタナというか、内省的というか…。その感触がとてつもない吸引力を放っている。一見流麗かつゴージャスな表層の向こう側、楽曲の奥底に眠る病んだ心情のようなものをぐいっと浮き彫りにしているようで。やばい。リッキー・リーの歌声というと特徴的な高音部の歌い回しを思い浮かべる方が多いかもしれない。ぼくもそうだったのだけれど。本作での彼女の歌声はけっこう低音域方面にぐっと落ち着いていて。いつも以上に豊かな深みが感じられる。彼女もいい意味で年輪を重ねたのだなぁ…と、しみじみ感じます。

そうそう。リッキー・リーが本作についてかっこいいこと言っていた。

「このアルバムは、人間であること、生き続けることを描いたものなの。それは老いることであり、そして執拗に愛し続けることであり。つまり、人生のすべてについて描いたアルバムよ。私たちは死ぬまで愛し続けるの。自分たちの人生を、自分たちの家族を、そして最終的には自分自身を、ね」

やはりジャジーなスタンダード・チューンをブルージーにカヴァーしまくったタジ・マハールのごきげんな新作『サヴォイ』(Amazon / Tower)ともども、ゴールデンウィーク、どこにも行かず、おうちでゆっくり過ごす方のBGMには絶好かも。そういえば、タジさんも「ワン・フォー・マイ・ベイビー」やってるな。しみる名曲だもんな。やっぱ、あの曲、サルーン・ソングの象徴的傑作なんだな。

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