Disc Review

Portrait / Mariya Takeuchi (ariola/Sony)

投稿日:2019.04.01 更新日:

Portrait

Portrait(デビュー40周年記念リマスター盤)/ 竹内まりや

まあ、今の時代、特に賛否分かれる話だとは思うのだけれど。ガール・グループとか、ガール・アイドルとか、60年代半ばに隆盛を極めたあの種のポップ・ミュージックのファンとしてはですね、フロントに立っているシンガーの、なんというか、こう、“やらされてる感”みたいなものが、実はけっこうポイントだったりするのだ。

60年代ガール・ポップというと、基本はプロデューサーズ・ミュージック。たとえばフィル・スペクターとか、ボブ・クルーとか、フェルドマン=ゴールドスタイン=ゴッテラーとか、ホーランド=ドジャー=ホーランドとか、そういう名うてのプロデューサー/ソングライターたちが、有能なアレンジャー、腕ききミュージシャンなどから成る一大制作チームを率いてとびきりドリーミーな楽曲を作り上げ、そうしたお膳立ての下、キュートな女の子シンガーに歌わせる、と。

表に立つパフォーマーは確かに一見主役のような形で存在しているのだけれど、結局はプロデューサーの世界観に貫かれた作品、というか。“誰が歌っているか”より“誰が作ったか”がポイントとなる作品が多かったりもする。シンガー本人がどんな歌を歌いたがっているのかなどおかまいなし。その辺の“やらされてる感”、ね。良い悪いは置いといて、この感触がティーンエイジ・ガール・ポップには欠かせない魅力のひとつだ。

とはいえ、それだけじゃなく。本当にすごいガール・ポップの場合、表の顔を担うシンガーが、さらにもう一発逆転をかますというか。プロデューサーを筆頭とするスタッフがある種独裁的にさまざま張り巡らした周到な戦略なり思惑なりを思わぬ出会いがしら的勢いで無意識のうちに凌駕してみせることがあって。この逆転劇がまた、さらなるドラマを楽曲にもたらし、名曲度をぐんと引き上げてくれたりするわけだ。

ロネッツとか、ダーリーン・ラヴとか、レズリー・ゴアとか、ゴーゴーズとか、往年の弘田三枝子とか、結構前までの松田聖子とか…。その辺の女の子たちはみんなプロデューサーの思惑以上の化学変化を楽曲にもたらしながら、たくさんの傑作ポップスを生み出してきた。そういう脈絡の中、けっして忘れてはならないのが78年のデビューから82年に結婚する前まで、RCAレコード在籍時の竹内まりやだったんじゃないかと思う。

この時期のまりやさんは、現在のような鉄壁の“シンガー・ソングライター”としてではなく、プロのソングライターたちが提供した楽曲を歌う“シンガー”としてのぼくたちの前に姿を現わした。RCA在籍後期にかけて自作曲も少しずつ増えていったとはいえ、基本的には加藤和彦、安井かずみ、林哲司、松本隆、山下達郎、杉真理、安部恭弘、大貫妙子、細野晴臣、告井延隆、浜田金吾、ピーター・アレン、ロジャー・ニコルスら、優れたソングライターたちの書き下ろし曲をシンガーとして表現するタイプのパフォーマーだった。

もちろん、本人の意向も反映したうえでのソングライターの人選/起用だったのだろうし、普通のガール・ポップのようなプロデューサーズ・ミュージック感はさほど強くないといえば強くない。が、いずれにせよ、与えられた環境の下、あくまでもシンガーという役割で個性を発揮するというのが当時の竹内まりやの在り方だった。ところが、アルバムを重ねていくにつれ、まりやさんは持ち前のボジティヴな個性と柔軟な感性で、そうしたスタッフワークを、徐々に、軽やかに凌駕していく。この感じが、ね。とても興味深いのだ。

去年の暮れから毎月1作ずつ、まりやさんの活動40周年に合わせて再発され続けてきたRCAイヤーズの諸作を聞き直しながら、そのあたりの魅力を改めて思い知った。達郎さんと結婚後に本格的に確立したシンガー・ソングライターとしての味とはまた違う、“やらされてる感”と“ここだけは譲れません感”との共存具合というか、“アイドル感”と“アーティスト感”との交錯具合というか、その辺のバランスが絶妙だ。結果オーライ的な絶妙さかもしれないけれど、それにしたって絶妙だ。今回、ていねいなリマスターをほどこされて出たアルバムは——

  1. BEGINNING』(1978年)
  2. UNIVERSITY STREET』(1979年)
  3. LOVE SONGS』(1980年)
  4. Miss M』(1980年)
  5. Portrait』(1981年)

これらのアルバムがリリースされた78〜81年というと、ざっくり、ぼくが大好きだった大滝詠一師匠の活動がなかった時期というか。第一期ナイアガラのラストを飾った『レッツ・オンド・アゲン』と、第二期のスタート『ロンバケ』とに挟まれた、ナイアガラ冬の時代。個人的な話でしかないのだが、ちょうどぼくが大学を卒業して某出版社でサラリーマン編集者をしていた時期にも重なり、テクノにもディスコにもパンクにも今いち反応できなかった中途半端な音楽ファンとしてどこに向かえばいいのか微妙だったというか。日本の音楽で、何聞いたらいいのか大いに迷っていたというか。

そんな時期に、まりやさんが果たしてくれた役割というのは本当に大きかったのだ。ぶっちゃけ個人的には、この頃のまりや作品への思い入れのほうが、以降の諸作よりも強いかも。発売間もないウォークマンにこれらのアルバムを録音したカセットぶちこんで、日々、通勤してました。懐かしい。

今回の再発、ライヴ・ヴァージョンを中心にボーナス・トラックも多数。ここでは40周年リマスター・シリーズ“完結”の1枚として『Portrait』を載せてますが、全作名盤です。まりやさんへのインタビューも交えたライナーノーツを能地祐子が各盤に寄せていて。身内が言うのもナンですが(笑)、いろいろ当時の事情を思い出したり新たに発見したりするうえで、とても役に立ちましたです。

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