Disc Review

Epistrophy / Bill Frisell & Thomas Morgan (ECM)

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エピストロフィー/ビル・フリゼール&トーマス・モーガン

今週末からブルーノート東京公演がスタートするビル・フリゼール(ギター)。ということで、海外では4月、国内盤として5月に出た今のところの最新作を——。

2016年、ニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードで収録されたトーマス・モーガン(ベース)とのデュオ・ライヴ盤。2017年に出た『スモール・タウン』と同趣向の続編ということになる。『スモール・タウン』同様、フリゼールとモーガンは、ジャズ、フォーク、R&B、ポップ、映画音楽など幅広い“素材”にアプローチし、まるで会話するかのように音を交わし合いユニークな音世界を構築してゆく。

選曲的には、ぼくは今回のほうがぐっと来た。オープニングからして渋い。「オール・ザ・シングス・ユー・アー」という超名曲を生んだことでも知られる、ジェローム・カーン/オスカー・ハマースタインⅡ作のミュージカル『ヴェリー・ウォーム・フォー・メイ』から、「オール・ザ・シングス…」ではなく「オール・イン・ファン」が演奏されている。フリゼール独特のまろやかなトーンで綴られる、まるで歌うようなギターを受けて、モーガンが的確なグルーヴとスウィング感を提供。美しい旋律に対してフリゼールが自在に積んでゆくハーモニーは、時に甘く、やさしく、穏やかで、しかし時にとてつもなくスリリング。もう、夢見心地だ。

続くカーター・ファミリーの「ワイルドウッド・フラワー」は『スモール・タウン』のほうにも収録されていたが、カーター・ファミリー・ピッキングの軽快なグルーヴを受け継ぎつつ、チェット・アトキンスすら想起させるアレンジで演奏されていたそちらのヴァージョンとはがらりと変わり、こちらでは旋律そのものに集中したようなリリカルなパフォーマンス。そのニュアンスを引き継ぎながら、ドリフターズの「ラスト・ダンスは私に」へと雪崩れ込む。こちらも、ほのかにラテンの躍動をたたえつつ、しかしどこか切ない…という原曲の世界観を見事に表現しきった二人のプレイが素晴らしい。

師匠筋にあたるポール・モチアン作の「マンボ・ジャンボ」でもフリゼールとモーガンは実に興味深いハーモニー上のやりとりを交わし、やがてジョン・バリー作、007映画の主題歌「007は二度死ぬ」へ。『スモール・タウン』では「ゴールドフィンガー」をやっていたけれど、そのシリーズの別パターンということか。物憂げなアプローチの下、しかし同じくジョン・バリー作の映画音楽『真夜中のカウボーイ』の一節を引用してみせるなどポップなしゃれっ気もしっかり披露している。

ビリー・ストレイホーン作のジャズ・スタンダード「ラッシュ・ライフ」、セロニアス・モンク作のアルバム・タイトル・チューンと「パノニカ」あたりでは多彩で巧みなジャズ解釈をたっぷり楽しませてくれる。特にタイトル・チューンでの、二人がそれぞれランダムに投げ放った音ひとつひとつが徐々に旋律と和音へと凝縮しモンクの世界観へと発展してゆくさまとか、たまらない。

以前、フリゼールがゲイリー・ピーコックとの共演盤でも演奏していた「レッド・リヴァー・ヴァリー」で聞かせる抗いようのない郷愁には、フリゼールならではのアメリカーナ感覚のようなものが溢れている。そしてラスト、フランク・シナトラの名唱で知られる「イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ・オヴ・ザ・モーニング」で締め。透徹した表現に胸が震える。

今週末からの来日公演はフリゼール、モーガンにルディ・ロイストン(ドラム)が加わったトリオ編成でのライヴ。このアルバムでのフリゼール+モーガンの触発し合いをさらに一歩奥まで進めた音の交歓を楽しめるんだろうなぁ…。楽しみ。

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