Illadelph Halflife / The Roots (Geffen)
アシッド・ジャズとか人気を博したころ。その流れでイギリスのほうでちょっとぬるめのフュージョンもどきを演奏している連中がたくさんシーンを賑わしたことがあった。感触は悪くないんだけど。でも、どこかひ弱なところが感じられて、こんなのひとっつもジャズじゃねーじゃんよ、とか思ったり。ジャズっぽいかもしんないけど、ジャズじゃないだろ、と。よきころのジャズが持っていた高揚感とか、いかがわしさとか、そんなもろもろがまったく感じられなかったから。
だったら、こいつのほうがずっとジャズだ、と思ったものだ。1994年にデビュー……だったかな。サンプリングを使わずに、生演奏をバックに強力なラップを展開するザ・ルーツ。こいつらが持っている空気感のほうが、ずっと往年のジャズに近い。つーか、往年のジャズが果たしていた役割を90年代へと正当に受け継いでいるのは、こういう連中なんだろうなという実感があった。
そんなザ・ルーツのメジャーでのセカンド。相変わらず力強い仕上がりです。今回はけっこうサンプリングやらループやらも使い、骨太の生演奏とうまいこと絡ませている。トニー・トニー・トニーからラファエル、トライブのQティップ、レコーディング仲間のバハマディア、そしてディアンジェロなどが援軍となって、独特のやばい質感をともなったヒップホップを聞かせてくれる。
ばっちし!
Now I Got Worry / The Jon Spencer Blues Explosion (Mute)
すっげーよ。むちゃくちゃかっこいーっすよ。
なんと、ほんの数日だけだけど日本先行発売とあいなった2年ぶりの新作フル・アルバム。このぶっこわれ具合こそロックンロールだよなぁ。轟音ギターとディストーションかかりまくりのヴォーカルとシンプルなドラムとベース。それだけでファンキーに、ブルージーにごり押し。燃えます。
ザ・ルーツがヒップホップ感覚を全面展開しながら現在進行形のジャズを体現しているとすれば、こいつらはやはりヒップホップ感覚を全面に押し立てつつ現在進行形のブルース/ロックンロールを表現してくれているんだろうね。御大ルーファス・トーマスがゲスト・ヴォーカリストとして参加した「チキン・ドッグ」とか、伝統的なR&Bに敬意をきっちり払いつつ現在を表現した傑作だぜっ。その他、ビースティ人脈からマニー・マークことマーク・ニシタがキーボードで何曲か参加している。
ちなみに、ぼくは輸入盤を買っちゃったんだけど、日本盤のほうにはビースティ・ボーイズのアド・ロックとマニー・マークが参加したボーナス・トラックも入ってるんだとか。しまった……。
Susanna Hoffs / Susanna Hoffs (London)
元バングルスのスザンナ・ホフスちゃん。当時からけっこう好きでした。すげー昔、ぼくが光岡ディオンとMTVジャパンのVJをやってたころ、バンドを解散してソロ・デビュー。プロモーションのために来日して番組にもゲストでやってきた。そしたら、まあ、本人はやっぱしちっちゃくてかわいかったんだけど、なんかすんげえステージ・ママがくっついててさぁ(笑)。
なるほどねー、けっこう芸能してるコだったのか……と思ったものです。芸能としての女の子ロック・バンドだったのかって感じ。だから悪いとか、そういうことじゃなくて。とにかく、なるほど、と。思ったわけです。
で、そんなスザンナちゃん、実に久々のソロ作が登場。これがね、またまた、あのジェイソン・フォークナーが深々と絡んだ一枚だったのですよ。大半の曲で、ギター、キーボード、ベース、パーカッション、コーラスなどに加わっている。けっこう、ジェイソン君、時代のキー・パーソンになりつつあるのかもしれない。
その他にも、プレーヤーの顔ぶれはなかなか興味深い。ドラムにジム・ケルトナーやミック・フリートウッドが参加していたり、パーカッションがレニー・カストロだったり、マシュー・スウィートの名前もあったり。で、音のほうは、ソロのファーストと同じくフォーク・ロック基調のポップなもの。ジェイソン君のせいなのかどうか、わからないけど、ちょっとジェリーフィッシュっぽい屈折のニュアンスもはらんでいて。なかなかに充実した仕上がりだ。
ちょっぴりハスキーな声も今なお魅力的。ママは今も健在かなぁ。健在だったとしても、こんな素敵なアルバムを作ってくれたんだから、いいや。
ジャケットにクレジットされてない2曲のカヴァー・ヴァージョンがとってもいい仕上がり。
Sheryl Crow / Sheryl Crow (A&M)
今、よくMTVとかでクリップがかかっている新曲は、なんか、すんげえ濃いメークしちゃったりして(それは関係ないか)、顔をしかめてシャウトしたりして、ちょっと、こう、アラニス・モリセットとか、その辺の新勢力への目配りも感じられたりするんだけど。
どうなんだろうね。この人の持ち味って、例の大ヒットした「オール・アイ・ウォナ・ドゥ」とかみたいな、なーんか唇の端っこを軽く持ち上げたみたいな感じで、しれーっといなす傾向の曲のほうが向いていると思うな、絶対。
とゆーわけで、シングル以外のタイプの曲のほうが出来がいい新作アルバムです。ちょっとカントリー混じりのアメリカン・ロックというか、アメリカン・ポップというか、やっぱりそういうのがぴったりくる個性なのでしょうねぇ。オルタナ系のアプローチは、んー、意欲は買うけど、うまくいってないみたい。
なんて、文句言ってますが。アルバム全体としてはわりかし気に入ってる。なんたっていい曲が多いもん。今回は本人がプロデュース。ミックスをミッチェル・フルーム&チャド・ブレイクが担当。ニール・フィン、スティーヴ・バーリン、ピート・トーマスらがゲスト参加している。
ちなみに、全然関係ないんですけど、この人の無名時代のヌード写真、こないだネットサーフィンしてたら出くわしちゃいましたよ(笑)。どんなところをサーフィンしてるんだ、俺はよぉ。
ATLiens / Outkast (LaFace)
アトランタ・ミュージック・シーンで気を吐くオーガナイズド・ノイズとのコンピネーションも相変わらずごきげん。サンプルの突飛さとか、ひたすらドープなバックトラックの音圧とかでおどかすわけでもなく、曲としての完成度を高めたような作品が多く収録されていて。伝統的なR&Bの在り方とヒップホップのエッジ感をうまい具合に融合した仕上がりって感じだ。
グッディー・モブのメンバーが参加した「メインストリーム」って曲とか、タイトルが深い「グロウイング・オールド」って曲とかは、オケのメロウさとラップの熱さがいい感じに絡み合っていて、何度聞いてもぐっとくる。クールなんだかホットなんだかよくわからない二人組ですわ。
From The Muddy Banks Of The Wishkah / Nirvana (Geffen)
インディーズ時代からラスト・ツアーまで、膨大なライヴ音源の中からセレクトされた強力な一枚。故カート・コベイン以外の二人のメンバーによって選曲されたものだとか。今やフー・ファイターズでずいぶんとポップに活動しているデイヴ君も、このころは、まじ、キース・ムーンみたいだったんだなぁ。
とにかく、ロックンロールを愛するがゆえにロックンロール・ビジネスに苦しみ続けたカート・コベインのシャウトが痛いほど詰まった劇的なアルバムだ。例のアンプラグド・アルバムも感動的だったけれど、やはりあれはアザー・サイド。こっちのほうが真っ正面からニルヴァーナ本来の魅力を鷲掴みにしている。すごいバンドだったねー、やっぱ。
でもって、このアルバムも売れまくるわけですよ。カート・コベインはどう思うんだろうね。ロックンロールってやつは、本当にやっかいなパラドックスを抱え込んだ表現なんだなぁと改めて思い知る。もちろん、そんなパラドックスゆえにロックンロールが光り輝いているのも事実なんだけどさ。