
ジ・アンサング・アドヴェンチャーズ・オヴ・パンチ・ブラザーズ/パンチ・ブラザーズ
出たのは7月なのだけれど。聞けば聞くほど、深いというか。やばいというか。パンチ・ブラザーズ、久々の新作『ジ・アンサング・アドヴェンチャーズ・オヴ・パンチ・ブラザーズ』。お散歩のお伴としてひと月くらいじっくり味わい続けているうちに、じわじわ沁みてきて。やっぱ、この人たちの底力すげえや、と。改めて感服するばかり。
てことで、遅ればせながらのご紹介です。
タイトルに“アンサング”とある通り、今回、7作目にして初のインストゥルメンタル・アルバム。それゆえの“アンサング”ではあるのだろうけど、いわゆる“アンサング・ヒーロー”などと言うときの、“語られざる”“称えられざる”みたいな含みもあるようなタイトルで。まあ、これはぼくの勝手な深読みに過ぎないのだけれど。そう思うと、“パンチ兄弟の語られざる冒険譚”みたいな意味合いにもとれて。なんだかわくわくする。
2023年にオリジナル・メンバーのひとり、フィドル/ヴァイオリンのゲイブ・ウィッチャーが脱退。その穴を埋める形で、元クルキッド・スティル〜ホークテイルのブリタニー・ハースが加入。とはいえ、ブリタニーさん、ベースのポール・コワートとはホークテイル時代からのコンビネーションだし、マンドリンのクリス・シーリーとも例のごきげんなパブリック・ラジオ番組『ライヴ・フロム・ヒア』などで共演を繰り返してきたし。そのステージにはポールくんもギターのクリス・エルドリッジも参加していたし。アンサンブルに隙なし。鉄壁。
冒頭の「ニュー・バイク」からして、もう後半、ブリタニーのフィドルが“静”から“動”へ、全体のグルーヴをダイナミックに引っぱっていくあたりの高揚感は、そのなじみの良さの賜物だろう。
オリジナル8曲にトラディショナル3曲。オリジナル曲の切れ味とかグルーヴの強力さはとてつもないし、3曲のトラディショナル、ノルウェーの伝承歌「ソルヴェ・クヌート」、英マン島の伝説を下敷きにしたケルティック「ソング・オヴ・ザ・ウォーター・ケルピー」、そしてアパラチアのオールドタイム・フィドル・チューン「ジューン・アップル」も聞きどころ満点。フィドル曲の「ジューン・アップル」をほとんどフィドル以外の楽器でプログレッシヴに再構築しているのをはじめ、もちろんどの曲も解釈が斬新。半端ない。
さらにトラディショナル曲それぞれに“untied”“unsung”“poisoned”と副題が付けられているのも興味深い。その真意はよくわかっていないけど。そのあたり、9月23日のCRTでいろいろ検証できたらうれしいな。
プロデュースはバンド自身、エンジニアはジョセフ・ロージ。録音は2025年の秋から冬、ヴァーモント州ギルフォード・サウンド・スタジオにて。クリス・シーリーの最強に躍動的なプレイは言うまでもなく、ノーム・ピケルニーのバンジョーは相変わらず超絶だし、クリス・エルドリッジのギターもぐんぐん成長してもはや完璧だし、ポール・コワートのベースも変幻自在。そこに柔軟でウルテクなブリタニーが加わって。弦楽器5挺、10本の手だけで、この極致…。
歌がないからこそ、さらに広がりながら炸裂する歌心。
先日、ブルーノート東京で見たメアリー・ハルヴァーソンのライヴでも思い知ったことだけれど。言葉を手放したからこその饒舌。音楽が提供してくれるイマジネーションって、すごいっすね。

