Disc Review

41 Original Hits from the Soundtrack of American Graffiti (2024 Japanese Reissue) / Various Artists (Universal Music Japan)

アメリカン・グラフィティ オリジナル・サウンドトラック/ヴァリアス・アーティスト

映画のサウンドトラック・アルバム。サントラ盤。昔はものすごく重宝したものです。

まだ家庭用のビデオ機器など皆無だった時代。われわれ一般のユーザーは映像を個人所有することなどできなかったため、仕方ないから劇中に流れる美しい音楽やセリフなどを収めたサントラ盤を買い求めて、それ聞きながら自宅で映画を追体験した。今思い返すとけっこう涙ぐましかった。

音楽映画とかでも、たとえば『ウッドストック』とか『バングラデシュのコンサート』とか『フィルモア最後の日』とか、有楽町のスバル座に朝イチで出かけて、そのまま夜の最終上映までずっと居座って、1回の入場料で何回も何回も繰り返し見た。当時は自由席の入れ替えとかなかったから。で、何回も見て、でもアタマ振ったらその映像が記憶からこぼれちゃいそうな気がして(笑)、なるべくアタマ振らないようにそーっと帰宅して、サントラがあれば家でそれ聞きながら映像を反芻する、みたいな。

ビデオクリップとかもない時代だから、仕方なかった。いじましくも懐かしい。

と、そんなふうに音楽ファンにとっても映画のサントラ盤というのはとても大切なものだったわけですが。このほど日本のユニバーサルミュージックが“サントラ・キャンペーン2024”と銘打って、新旧サントラの名盤71作をまとめて廉価で再発してくれた。まあ、定期的に企画される再発シリーズではありますが。今回は1枚ものが税込1,320円、2枚組が税込1,980円でのラインアップ。うれしいじゃないですか。

もちろん『ゴッドファーザー』とか、一連の“007”ものとか、『ロミオとジュリエット』とか、『明日に向って撃て!』とか、『真夜中のカーボーイ』とか、真っ向からのサントラ盤も多く含まれているけれど、『フラッシュダンス』とか、『ストリート・オブ・ファイヤー』とか、『プリティ・イン・ピンク』とか、『ビギナーズ』とか、『ドゥ・ザ・ライト・シング』とか、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか、『パルプ・フィクション』とか、MTV時代以降、映画そのものをビデオクリップ的に利用したようなポップ・コンピレーション系のサントラもたくさん。

T・ボーン・バーネットのプロデュースの下、映画の舞台である1930年代の米南部を彩るブルース、カントリー、フォーク、ゴスペルなどをフェアフィールド・フォー、ラルフ・スタンレー、ギリアン・ウェルチ、アリソン・クラウス、エミルー・ハリスらが渋く真摯に再演した音源中心に構成された名盤『オー・ブラザー!』とかも入っているし。エリック・クラプトンとかボブ・マーリーとかのわりと最新のドキュメンタリー映画のベスト盤的サントラとかもあるし。まだ盤を持ってない人は、この機会にゲットするのがよろしいのではないか、と。

で、ぼくがイチオシしたいのは、またまたこれで恐縮ですが。『アメリカン・グラフィティ』。1973年夏に全米公開されたジョージ・ルーカス監督の出世作。日本公開は翌74年暮れ。ぼくが初めて見たのは、これも確か有楽町のスバル座でのロードショーだったと思う。

時は1962年、夏休み最後の夜。舞台はカリフォルニア州北部に位置する小さな町、モデスト。そこに暮らすカート、スティーヴ、テリー、ジョンという4人の若者が主人公で。ある者はハイスクールを卒業後、東部の大学へ進むために翌日旅立とうとしている。ある者は卒業後、進学を予定しているものの町にとどまるべきかどうか悩んでいる。ある者は町いちばんの走り屋を自認しながらも、時の流れの中、自らのモチベーションを保ちづらくなってきたことを無意識のうちにも感知している。ある者はひたすら見栄を張りながらもドジってばかり…。

そんな4人が揃って故郷の町で過ごせる最後の一夜。そこに、不敵なドラッグレースを仕掛けてくる敵役や、しょうもない悪さを夜な夜な繰り返すギャング団などが絡みつつ物語は展開するわけですが。

その物語のバックに流れる音楽の素晴らしさに、ぼくはやられたのでした。町のメイン・ストリートをクルージングする無数の車のカー・ラジオからは、映画の間じゅう、常に伝説のディスクジョッキー、ウルフマン・ジャックのシャウトとごきげんなオールディーズ・ロックンロールが流れ続けていた。ぼくにとっては初めて耳にする曲も多かったけれど、そのすべてがごきげんだった。でもって、ぼくはオールディーズの深い沼に本格的にハマってしまったのでありました。

実際、映画に描かれている当時のアメリカのティーンエイジャーにとって、ロックンロールは日常を彩るサウンドトラックだったのだろうなと思う。そういう意味でもこの『アメリカン・グラフィティ』というサントラ盤の存在は、地理的にも時代的にも大きく隔たったこの日本に暮らすぼくにとって、とても大きなものだった。

この映画があまりにも好きなもんで、2016年、ぼくは『アメリカン・グラフィティから始まった』という本を書いてしまったくらい。その前書きに、ぼくはこんなことを記した。

画面から流れ出してくるレアなオールディーズの雨アラレ。めくるめく思いとはこのことだ。なにせそのころ、70年代前半の日本ではまともなオールディーズの再発などほぼ皆無だったのだから。古き良きアメリカン・ポップスが好きで好きで仕方なかったぼくは、いろいろな資料本を手に入れて、名曲のタイトルやアーティスト名を覚えて、でも、それが実際どんな曲なのか、どんな声で歌われているのか、皆目わからないまま右往左往。そんなぼくにとって、『アメグラ』はまさに救世主だった。

日本でも2枚組サントラ盤の存在に注目が集まり大ヒット。それを機に日本でもようやくオールディーズの再発盤が次々リリースされるようになった。そのきっかけを作ってくれたというだけでも、『アメグラ』にはいくら感謝してもしきれない。

“アメグラ”も日本公開から50周年ですよ。遠い目になっちゃうなぁ…。

ちなみに、ちょっとどうでもいい業務連絡ですが。明日は定期的な検診の日で朝早くから病院に行かなくちゃならないので、ブログの更新はちょっとお休みしますね。

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