Disc Review

The Other Side / T Bone Burnett (Electro Magnetic/Verve Forecast)

ジ・アザー・サイド/T・ボーン・バーネット

「T・ボーン・バーネットの新しいやつ聞いた? すっごいよかったよ」とノージくんが盛り上がっていたもんで。さっそく聞いてみました。ほんとだった。すっごいよかった。

最近のT・ボーンというと、なんだかサイバーっぽいというか、SFっぽいというか、エレクトロニックっぽいというか、そういう感じの“ジ・インヴィジブル・ライト”シリーズのリリースを続けていて。従来のルーツ・ロック/アメリカーナ的な路線からちょっとアプローチを変えた感じもあったのだけれど。

なんでも、最近ほしかったギター(1949年製のギブソン・サザン・ジャンボ、1959年製エピフォン・テキサン、そして1932年製のギブソンL5)を購入したとかで。それに触発されて再びルーツ・ロック方面へと立ち返り、ぐっと集中して神の啓示を受けたような3週間を過ごす中、この新作が生まれたらしい。

T・ボーン絡みのグレッグ・オールマン、リアノン・ギデンス、ダイアナ・クラールらのアルバムでも重要な役割を果たしていたギタリスト/ソングライター/プロデューサー、コリン・リンデンと、アリソン・クラウス&ロバート・プラントの『レイジング・サンド』をはじめとするT・ボーンのプロデュース作でよくタッグを組んでいるエンジニア/プロデューサーのマイク・ピアサンテが共同プロデュース。

デニス・クラウチ(ベース)、スチュアート・ダンカン(フィドル、マンドリン)、ジェイ・ベルローズ(ドラム)、ロリー・ホフマン(ギター)、キーファス・カンシア(キーボード)らがバックアップ。ロザンヌ・キャッシュや、ローリング・サンダー・レヴュー〜アルファ・バンド仲間のスティーヴン・ソールズといったベテラン勢から、ワイズ・ブラッド、ルシャスといった教え子的な若手まで、多彩なゲストを迎えた1枚だ。

全12曲。“ジ・アザー・サイド”へと旅立ったカップルのゆるいラヴ・ストーリーみたいな? なんでも、T・ボーンは今回“you”という言葉にこだわったそうで。アーティストが自分の曲の中に“you”という語を入れることの意義みたいなものを考える中で生み出されたアルバムなのだとか。んー、どういうことだろう? ぼくにはさっぱり理解できていないので、ものすごくあやふやですが(笑)。

ただ、この人の場合、1980年にリリースされたT・ボーン・バーネット名義での初アルバム『トゥルース・ディケイ』のころからずっと、現代社会に対するシニカルかつシュールな疑念のようなものを提示してきていて。その辺の手触りは今回も変わらず背後に流れているようではあります。

ゲイリー・ニコルソンとT・ボーンが共作した「エヴリシング・アンド・ナッシング」とか、もう達観した感触というか、日本語にしづらいのだけれど、“never”ほど長いものはない/すべて燃えると冷たくなる/誰もが永遠に生きたいと望む/でも、誰も年は取りたがらない…とか、歌っていて。禅問答みたい。

いずれにしても、ものすごく近い距離感の下、スタジオに揃った音楽仲間たちが、時に親密に、時にシニカルに、時に妖しく、時にいたずらっぽく、曲を書き、音を交わし合っている感じ。特に5曲で多彩なハーモニーを提供しているルシャスの存在が大きい。女性コーラスをいつも効果的に配していたレナード・コーエンを想起させる。

旧友スティーヴン・ソールズとのタッグも興味深い。1970年代にT・ボーン、スティーヴンにボブ・ニューワースを加えた顔ぶれで書いたという「ハワイアン・ブルー・ソング」もいいし、もうひとつの共作曲「ザ・ファースト・ライト・オヴ・デイ」も沁みる。ブルージーな「サムタイムズ・アイ・ワンダー」にさりげなくハーモニーを提供するワイズ・ブラッドの奥ゆかしさも素敵。

さらには、さすがかつてジョニー・キャッシュの生涯を描いた映画『ウォーク・ザ・ライン』のサントラを手がけたT・ボーン、ジョニー・キャッシュ的なステディな2ビートで展開する「(アイム・ゴナ・ゲット・オーヴァー・ジス)サム・デイ」にロザンヌ・キャッシュをデュエット・パートナーとして迎える趣向も憎い。

今年76歳になったT・ボーン・バーネットの新作。噛めば噛むほど…系の1枚かも。

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