山高帽の男:2CDエクスパンデッド・エディション+エクストラヴァガンザ(幻想狂詩曲):2CDエクスパンデッド・エディション/スタックリッジ
先月のアタマ、のちにコーギスを結成することになるジェイムス・ウォーレンとアンディ・デイヴィスらが結成していた英国ポップ・バンド、スタックリッジの初期オリジナル・アルバム2作(1971年の『スタックリッジ』と1972年の『フレンドリネス(友情)』)の拡張エディション再発を喜んだばかりですが。続編、出ました!
9月に出ると予告されていたけれど、ちょっとだけ前倒しで8月25日に出たみたい。今回は1974年、かのジョージ・マーティンをプロデューサーに迎えて制作された『山高帽の男(The Man in the Bowler Hat)』と、メンバーチェンジを経て1975年、エルトン・ジョンのロケット・レーベルへと移籍して放った『エクストラヴァガンザ(幻想狂詩曲)』。前回出た2作目『フレンドリネス』同様、CD2枚組へと拡張されての再発だ。うれしい。
個人的にはとにかく『フレンドリネス』がいちばん好きなのだけれど、客観的な視点で振り返れば、やはりジョージ・マーティンのプロデュースの下、ロンドンのエア・スタジオで録音された『山高帽の男』こそがスタックリッジにとっての代表作ということになる。非ロック的というか、ロックンロール以前というか、そういうノスタルジックな音楽性も積極的に取り込みつつ、英国流の風刺も盛り込みながら巧みに構築されたウィットに富んだ世界観。
ブリッジ部のおいしいコード進行とテンション・ノートが気持ちいいオープニング・チューン「ファンダメンタリー・ユアーズ」とか、ノスタルジックなワルツ「ピナフォア・デイズ」、中期ビートルズ系からプログレ系へと発展していく流れの萌芽もなんとなく嗅ぎ取れる「ザ・ラスト・プリムゾール」とか「ザ・ギャロッピング・ガウチョ」とか、ストリングスに包まれた浮遊感たっぷりの「トゥ・ザ・サン・アンド・ザ・ムーン」とか、トロピカルな「ザ・ロード・トゥ・ヴェネズエラ」とか、初期10CCみたいなシングル曲「デンジャラス・ベーコン」とか、マイク・エヴァンスのヴァイオリンとマイク“ムター”スレイターのフルートが自在に舞う「ゴッド・スピード・ザ・プロウ」とか、聞きもの満載。
今回の2枚組拡張エディションは、CD1がオリジナル・アルバムの最新リマスター音源、そしてCD2が1973年1月のBBCラジオ・ワン『イン・コンサート』と1973年2月の『ボブ・ハリス・ショー』のために録音された10曲を詰め込んだボーナス・ディスク。メンバーへのインタビューやマイク・バーンズによるライナー掲載のブックレットが付いてます。
で、この『山高帽の男』を制作直後、アンディ・デイヴィスの意向でスタックリッジは大幅にメンバー・チェンジ。ロッド・ボウケットなども加入した新たな顔ぶれでロケット・レコードに移籍し、またもやエア・スタジオへ。今度はトニー・アシュトンのプロデュースの下、新作のレコーディングに取りかかった。そうやって完成したのが『エクストラヴァガンザ』。
「ザ・ヴォランティアー」とか「ハッピー・イン・ザ・ロード」とか、以前からの持ち味を引き継いだような曲も交えつつ、アルバム後半では主に、こう、なんというか、フランク・ザッパっぽい方向性というか、そういうアプローチにも挑み、ぐっとジャズ・ロック風味も表面に押し立てた仕上がり。ゴードン・ハスケル作の「ノー・ワンズ・モア・インポータント・ザン・ザ・アースウォーム」とか、プログレ・ファンの間ではそれなりに高く評価されているみたい。
こちらも2枚組に拡張されていて、CD1がオリジナル・アルバムの最新リマスター盤。CD2が1975年1月に録音されたBBCラジオ・ワンの『イン・コンサート』での収録された音源によるボーナス・ディスクだ。もちろん『山高帽の男』同様のブックレット付き。まあ、微妙な時期に制作された微妙な仕上がりの盤だけになかなかかっちりした評価を獲得できずじまいに終わっている感もあり。今回の再発でしかるべきスジからの再評価が確立するとよいかも。
というわけで、オリジナル・スタックリッジにとって最後の1枚とも言うべき傑作『山高帽の男』と、再出発第1弾『エクストラヴァガンザ』ときて、来月末にはいよいよ伝説の問題作『ミスター・ミック』の2枚組エクスパンデッド・エディションが出るみたいですよ。楽しみー。