ガズムス/スモーキー・ロビンソン
まあ、当たり前のことだけど。ぼくもすっかりトシを重ねて。真っ向から高齢者として日々暮らしているわけですが。でも、この春、日本にやってきてくれたたくさんのベテラン洋楽ミュージシャンさんとか見ていると、いやー、60代半ばのぼくなどまだまだだな、と。まじ、思い知るわけです。
ボブ・ディラン81歳、エリック・クラプトン78歳、ジャクソン・ブラウン74歳、ドゥービー・ブラザーズのトム・ジョンソンもパトリック・シモンズも74歳、マイケル・マクドナルドは71歳。
来日組ではないものの、先日オリジナル・アルバムとしては73作目(!)にあたる新作をリリースしたウィリー・ネルソンに至っては、その新作をレコーディングした時点で89歳。フランキー・ヴァリも現在89歳ながら米国では今なお元気にツアーしまくっているし。ポール・マッカートニーも現在80歳で今年また新たなツアーの噂が盛り上がっているみたいだし。今年84歳になったニール・セダカも、以前ほど頻繁にではないとはいえ、コロナ禍のロックダウン以降、SNSを通じて1日3曲ずつのピアノ弾き語りを聞かせ続けてくれているし…。
健康状態は人それぞれとはいえ、今の高齢者は昔と同じような意味でのお年寄りじゃないよなぁ…と実感するばかり。みんな元気だし、勢いあるし。
で、またここにもう一人。83歳を迎えてなお元気。スモーキー・ロビンソンがぴかぴかの新作アルバム『ガズムス』をリリースしてくれましたー! 2017年にAmazon限定でクリスマス・アルバムを出したことがあったけれど、季節ものでないアルバムとしては2014年の『スモーキー&フレンズ』以来、9年ぶり。
いや、『スモーキー&フレンズ』も曲ごとにゲストを招いて往年のレパートリーをカヴァーした企画ものだったなぁ。となると、2010年の『ナウ・アンド・ゼン』以来13年ぶり? あ、でも、考えてみたらあれもアルバム・タイトル通り、半分新曲、半分過去作の再演というアルバムだったっけ。
ということは、大半をスモーキー作の新曲で構成したアルバムとしては2009年の『タイム・フライズ・ホエン・ユーアー・ハヴィング・ファン』以来ってことになる。あのアルバムにも4曲くらいカヴァーが入っていたけど、まあ、おまけしてそれ以来14年ぶりってことにしておこうか。
今回は全9曲、すべてがスモーキー作の新曲。出来もいいです。ミュージシャン・クレジットにドラマーのリッキー・ロウソンの名前があったりして。でも、彼は10年前に亡くなっているので、けっこう古い録音から最近のものまで、そのときどきにレコーディングされた音源の中から、“ガズムス”という、んー、どうやら“オーガズム”とか、その辺から発想されたという、これまたお元気な、ちょっときわどいテーマに則した曲をピックアップして構成した1枚ということなのだろう。
そういう意味では全体のテーマを象徴するのが冒頭のアルバム・タイトル・チューン。この曲からして、いきなりやばい。究極。王道。クワイエット・ストーム。アダルト・コンテンポラリー・ソウル。アーバンR&B。なんならシティ・ポップ。たまらない。確かに声は昔に比べればちょっと艶を失った気もするけれど。なんのなんの。80代になってもなおセクシュアルであることに躊躇なし、みたいな。音域が狭くなったところを、しかし年季の入った説得力で見事圧倒してみせる。
「アイ・ウォナ・ノウ・ユア・ボディ」なんて、ずばりのタイトルの佳曲もあって。スモーキー御大、叶わぬ恋への思いを色っぽくささやきまくっているし。2002年、62歳のときに結婚した現在の奥さまに捧げたという「アイ・キープ・コーリン・ユー」でも恋心に熱く身を焦がしているし。老若男女、多彩なカップルが次々、仲睦まじく登場するリリック・ビデオも印象的だった先行シングル「イフ・ウィー・ドント・ハヴ・イーチ・アザー」では豊潤でポップなメロウ・グルーヴに乗せて艶めかしさと洗練とが絶妙に交錯する持ち前の歌心を軽々と披露してみせるし。
そして、「ユー・フィル・ミー・アップ」で放たれる、静かだけれど深く熱いゴスペル・フィーリングや、「ロール・アラウンド」で炸裂するブルージーな味、「ビサイド・ユー」のメロウなドゥーワップ・スピリット…。
ワン・アンド・オンリーです。ほんと、新しいも古いもないね、音楽には。