Disc Review

Various Reviews: 3/7/1999 / Jim O'rouke, Jason Falkner, Chuck E. Weiss, Jimi Hendrix, Trio II, Eric Andersen, Grievous Angels

Eureka / Jim O'Rouke (P-Vine)

for Music Magazine

ポスト・クラシック/エクスペリメンタルの担い手と認識されることが多かったジム・オルークが、ロック系アーティストとの交流などを経て96年にリリースした傑作『バッド・タイミング』に続くソロ名義の新作。今回はなんと歌ものだ。ガスター・デル・ソル名義のアルバムで歌声を披露したこともあるが、ここまで本格的に挑んだのは初。まあ、彼はロイ・ハーパーに強く傾倒していると伝えられており、これもけっして意外な展開ではないのかもしれない。が、出来がすこぶる良くて。正直、うれしい驚きだ。オルークはハイ・ラマズ作品のリミックスを手がけたり、ブライアン・ウィルソンへのトリビュート盤『スマイリング・ペット』に参加したり、ヴァン・ダイク・パークスと二重写しになる活動も多く、本盤をかつてのヴァン・ダイクの名盤になぞらえ“90年代の『ソング・サイクル』”と賞賛する声もあがっているらしい。

確かに。ヴァン・ダイクとブライアンが幻の『スマイル』で目指した世界にも共通する、美しくもはかない実験的アプローチと、抗いようのないアメリカン・ノスタルジアが本盤全体を貫いている。短い歌詞を伴った変則7小節をえんえんと繰り返す1あたり代表例。牧歌的なフォークとクールなミニマル音楽との幸福な融合か。フォークとミニマル音楽の融合という点ではかつてネオアコ黎明期にチェリーレッドあたりから出ていた作品群にも同種のアプローチが聞き取れた覚えがあるが、オルークの場合はより地に足がついた感じ。この辺、アメリカの音楽家ならではの感触だろう。序奏に続き、まずギターの3フィンガーが心にしみるシンプルなテーマを奏で、オルークの淡々とした歌声が現われ、シンセが奥行きを演出し、生ピアノが入り、コースがカウンターラインを提示し、ドラムがマーチふうのリズムを刻みだし、何を使っているのか定かでないもののドブロのようなバンジョーのような音も隊列に加わり、弦楽カルテットふうのアンサンブルを経て収束していく。同じ旋律が果てしなくリピートする中、郷愁と刺激とをあわせもつダイナミックなドラマが展開されるわけだ。アルバム冒頭の数分間で、聞く者の心は一気にアメリカの近代音楽史の縦軸を否応なくさかのぼっていく。

他にも、バカラック作~60年代A&M調の5、生ギターをバックに訥々と諦観を綴ったのち、アナログ・シンセとホーン・セクションが牧歌性と不気味さとをあわせもつオルークならではの世界を現出させる7など、たとえばヴァン・ダイク、たとえばランディ・ニューマン、あるいは初期のニルソンなどにも通じるシニカルなノスタルジアが充満している。2、3、8あたりで聞かれる皮肉っぽい歌詞にも胸うたれる。

Can You Still Feel? / Jason Falkner (Elektra)

for What's In? Magazine (revised)

待望のセカンド・ソロ。ニュー・オリンズにあるダニエル・ラノワのキングズウェイ・スタジオで録音されたのちLAで最終仕上げが行なわれたようだ。前作は自らのプロデュース作品だったが、今回はレディオヘッドやベックとの仕事で注目を集めるナイジェル・ゴドリッチが共同プロデュースをつとめている。

ソングライターとしてのジェイソンは、特に時代とともにメロディ・ラインが変わるというタイプではなく、むしろ時代を超えるメロディを模索しているタイプ。そうした面での目新しさは当然ない。事実、ソロ・デビュー以前のザ・グレイズ時代の楽曲もあるし、前作のアルバム・タイトル曲になるはずだったものの当時は満足な仕上がりにできなかったため今回再挑戦した曲もある。もちろん去年のレコーディングに際して書き下ろされた楽曲もある。そして、それらがそれぞれ何の違和感もなく同居している。これがジェイソンの持ち味だ。そこに“時代性”を加味するためのナイジェルだったのだろう。おかげで、どの曲もけっして古くは聞こえない。いいコンビネーションだと思う。

ジェイソンがエリック・マシューズ、スザンナ・ホフス、ブレンダン・ベンソンらのアルバムで聞かせた幅広く柔軟なポップ・センスは健在。とともに、よりサイケデリックだったりハードだったりする新味も。ストーン・ローゼズふうだったりレディオヘッドっぽかったりする音も聞かれるのは、やっぱりナイジェルさんのせい?

Extremely Cool / Chuck E. Weiss (Slow River/Rykodisc)

for Music Magazine

トム・ウェイツやリッキー・リー・ジョーンズの作品に歌い込まれた存在として70年代から名前だけはよーく知ってるチャック・E・ワイスの新作だ。81年にドクター・ジョンらをバックに従えてリリースされたデビュー・アルバムは、ブルースを基調に、サックスを交えたピアノ・コンボで一発録りしたようなラフな仕上がりだったうえ、チャック・E自身、歌がうまい人というわけではなかったので、結局ぼくはあまり何度も聞き込まずじまい。が、少なくとも、歌詞の端々に託された感触、つまり私的な体験をブコウスキーやケルアック調のドラマティックな神話へと再構成するという、当時のトム・ウェイツやリッキー・リーに通じる味だけはしっかり覚えている。

あれから18年の歳月を経てリリースされた本盤は、歌詞面の手触りはそのまま、作曲面/サウンド面でも見違えるほど豊かに、深く、成熟した姿を披露する。歌もうまくなった。表現力5割増し。プロデュースを旧友トム・ウェイツが手がけているせいもあるのだろうか。ブルース、ジャズ、カントリー、R&B、ロックンロールなどを乱雑に煮込んだオリジナル曲を、絶え間ないクラブ・ギグで鍛えたダミ声で歌い綴っていくさまは、まさにアルバム・タイトル通り。とはいえ、やはりプロデューサー色がやったら強いので、とりあえずはそっち方面のファンに強くおすすめしときます。

Live At The Fillmore East / Jimi Hendrix (MCA)

for FM Fan (revised)

ジミがバディ・マイルス、ビリー・コックスと組んだ“バンド・オヴ・ジプシーズ”名義で、1969年の12月31日と70年1月1日にニューヨークのフィルモア・イーストで行なったニュー・イヤーズ・ライヴの模様を収めた2枚組だ。バンド・オヴ・ジプシーズは先鋭的な感覚を持つ黒人3人によるユニットとして、ロック、ジャズ、R&B、ファンク、ブルースなどをごった煮にした、まあ、今で言うところの“ミクスチャー・ロック”を演奏していたわけだが、その斬新なコンセプトのわりに残した音源は極端に少ない。公式には、二重契約解消のためにあわててリリースされたたった6曲入りのライヴ盤が出ていた程度だ。物足りなさを感じてきたファンも少なくないだろう。

が、ついに決定版の登場。CD2枚組に完全未発表音源13曲を含む全16曲を詰め込んだ本盤が、30年の歳月を経て、バンド・オヴ・ジプシーズの全貌をよみがえらせてくれた。既発表の3曲にしても、すでに廃盤となっているものばかりだし、音質的にも見違えるほどクリアにリマスターされている。タイトなグルーヴを誇るリズム隊を引き連れ、ジミが思う存分暴れまくっている様子がいきいきと伝わってくる。オリジナル・リリースされた『バンド・オヴ・ジプシーズ』と合わせれば完璧だ。様々な時期のジミ作品が取り上げられ、見事、バンド・オヴ・ジプシーズならではのライヴ・ヴァージョンへと変身していくさまを思う存分楽しめる。

Trio II / Emmylou Harris, Linda Ronstadt, Dolly Parton (Asylum)

87年に話題を呼んだスーパーレディ3人の共演が12年の歳月を経て再び実現した。

前回はテディ・ベアーズの「逢ったとたんに一目惚れ」をカヴァーしたりしていたけれど、今回はいきなりカーター・ファミリーものでスタート。ニール・ヤングの「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ」やランディ・ニューマンがボニー・レイットに書いた「フィールズ・ライク・ホーム」など、選曲もお見事です。だてにトシくってないっす。

しかし、それにしてもドリー・パートンの歌のうまさってのは図抜けているね。他の二人だってかなりの歌唱力/表現力を誇っている人たちだけれど、ドリーにはてんでかなわない。いい曲書くし。

ジョージ・マッセンバーグがプロデュース。ジム・ケルトナー、デイヴィッド・グリスマン、アリソン・クラウス、リー・スクラー、ディーン・パークス、ボビー・ブキャナン、デイヴィッド・キャンベルらがバックアップしてます。

Memory Of The Future / Eric Andersen (Appleseed)

単独名義では何年ぶりになるのかな。

日本では70年代シンガー・ソングライター・ブームを象徴する名盤のひとつとして大いに高く評価されている『ブルー・リヴァー』でおなじみ、エリック・アンダースンの最新ソロ・アルバムだ。往年のみずみずしさはそのまま、しかし歌声は年輪を重ねたぶんぐっと渋さを増して。たまらん。

もちろんガース・ハドソン、リック・ダンコ、リチャード・トンプソン、ベンモント・テンチらも参加。

Miles On The Rail / Grievous Angels (Bloodshot)

グラム・パーソンズ・ファンにはこたえられないバンド名を持つ5人組の、たぶんフル・アルバムとしてはこれが2作目だと思う。ミニ・アルバムが確かあと1枚あったような…。

テクニック的にずば抜けているわけでもなく、歌もバカうまいわけでなく、どっちかというとドタバタした印象も強いのだけれど、なんだか心意気でもっていかれる感じの連中だ。ホンキー・トンク調からロカビリー、R&B調まで。アメリカのB級ローカル・バー・バンドの持ち味が好きな人にはもってこいの1枚かも。

この人たち、「俺たちはカントリー・ロックじゃない。カントリー・ロックなんてクソくらえ。俺たちはカントリー&ロックだ」とか勇ましい発言してます。なんとなくわかるような気もします。

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