Disc Review

Raw Power: 50th Anniversary Legacy Edition / Iggy & The Stooges (Legacy Recordings/Sony)

ロー・パワー:50周年記念レガシー・エディション/イギー&ザ・ストゥージズ

最近こういうパターンも増えてきた。50周年記念エディションのデジタル・オンリー・リリース。

本ブログでも取り上げたものとしては、たとえばこのマーヴィン・ゲイのやつとか、ここに載せたジョニ・ミッチェルの『ブルー50』とか、ロバータ・フラックのこれとか、グレイトフル・デッドのこれとかこれとか。

そこにまたひとつ加わりましたよ。イギー&ザ・ストゥージズが1973年にリリースした傑作サード・アルバム『ロー・パワー』の50周年記念エディション。なんとデジタル・オンリーでのリリースだ。

ストゥージズはまず1969年、ジョン・ケイルのプロデュースの下、エレクトラ・レコードからデビュー・アルバム『イギー・ポップ&ストゥージズ』をぶちかまして。1970年にセカンド『ファン・ハウス』を出して。でも、その2枚であえなくエレクトラとの契約が切れ、もはやバンド解散かという瀬戸際に、デヴィッド・ボウイの勧めでロンドンでレコーディングされたのが『ロー・パワー』。その昔、“淫力魔人”なるとんでもない邦題でリリースされていた1枚ですが。

これ、収録曲自体はとんでもなくごきげんで、パンクの元祖とさえ言われているのに、ボウイ主導でクリーンにミックスされた音質のほうに対しては賛否両論。イギー・ポップすら疑念を呈していた。おかげで最終ミックス以前の仮ミックス・ヴァージョンがブート『ラフ・パワー』として出回ったり。ずいぶんと混乱していたっけ。アメリカで最初にCD化されたときもアナログ盤時代以上にひどい音質で。なんとも不運な1枚だった。

けど、1997年。ヘンリー・ロリンズの熱心な説得によってイギー・ポップ自らがリミックス/リマスターに着手。バンドの演奏によりこだわる形でぐっとバランスのとれた太めの音へと生まれ変わらせたことがあった。で、これに対しても賛否が割れた。一長一短というか…。

ぼくもイギー・ポップによる新ミックスを最初のうちは喜んで聞いていた。でも、しばらく聞いているうちに、だんだんイギーのヴォーカルが鋭く際立って聞こえてくるオリジナルのボウイ・ミックスのほうが愛おしく思えてきた。ビーチ・ボーイズやビートルズのニュー・ステレオ・リミックスあたりと同様で。最初は“おおっ!”と新鮮に感じはするものの、やはりオリジナル・リリースド・ヴァージョンというものには何物にも代え難い、絶対的な力があるんだなぁ、と。当事者が不本意だったかどうかは別問題。そんな事実を改めて確認させられたりしたものだ。

ちなみに2010年、CD2枚組のレガシー・エディションが編まれたとき、そこに収録されたのはオリジナルのボウイ・ミックスのほうだった。リマスタリングでむりくり低域を持ち上げて迫力を出そうとしているきらいもあり、微妙にオリジナル通りとも言えない仕上がりではあったけれど。でも、こっちのほうが落ち着いたのは事実。まあ、ストゥージズ聞いて落ち着くってのもどうかとも思いますが(笑)。で、2012年のレコード・ストア・デイにはボウイ・ミックス、イギー・ミックス、両者を抱き合わせにした2枚組LPも出たりして。結局、落とし所はそこか、みたいな…。

と、まあ、かつてのそうした紆余曲折を活かしたか、今回のデジタル限定50周年記念レガシー・エディションは全部乗せだ。大盤振る舞い。デジタル・リリースのくせして4枚組仕様になっていて、ディスク1がオリジナル・アルバムのボウイ・ミックスにマーク・ワイルダーがリマスタリングをほどこした2023年最新版、ディスク2が97年イギー・ミックスのワイルダー2023年リマスター版、ディスク3が2010年レガシー・エディションにも収録されていた1973年10月のアトランタ公演のライヴ盤『ジョージア・ピーチズ』、ディスク4が2018年のレコード・ストア・デイに限定アナログ盤として出た『レア・パワー』をそのままデジタル化したレア・トラック集。そんな全34トラックだ。

50年たってもやばい。熱い。

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