Disc Review

The Beginning / Tony Joe White (New West Records)

ザ・ビギニング/トニー・ジョー・ホワイト

本ブログでも何度か取り上げたことがあるこの人、トニー・ジョー・ホワイト。取り上げるたび繰り返し説明している通り、“ザ・スワンプ・フォックス”などと呼ばれることもある南部スワンプ・ロックンロールの担い手で。

2018年に75歳で亡くなったときは、本当に悲しかったなぁ。エルヴィス・プレスリーがカヴァーしたことでも知られる「ポーク・サラダ・アニー」のようなファンキーでブルージーなナンバーから、ブルック・ベントンが大ヒットさせた「レイニー・ナイト・イン・ジョージア」のような男の哀愁漂うメロウでセンチメンタルなバラードまで、ルイジアナ生まれの彼が生粋の南部人感覚を全開にしながら遺した音楽たちはどれも永遠だ。

で、来日公演とかでご覧になった方ならばご存じと思うけれど、この人、バンドを伴わないソロ・ライヴを披露することもあって。そういうときは、ギターとハーモニカと足踏み、あるいは足下に板を立ててそれをドラムのキック・ペダルで叩いたりしながら、まさにワン・マン・バンド的な実にファンキーでかっこいい弾き語りパフォーマンスを繰り広げてくれていた。

そんなトニー・ジョーのソロ・パフォーマンスのかっこよさを改めて味わえる1枚が再発されましたよ。それが本日ピックアップする『ザ・ビギニング』。

1967年にモニュメント・レコードと契約してシングル「ジョージア・パインズ」でデビュー。1980年代に数年間、半引退状態で新作リリースが途切れた時期もあったけれど、2018年、他界する直前まで、本当にたくさん、数え切れないくらいのレコードを発表してきたトニー・ジョーながら。ガチガチの弾き語りスタジオ・アルバムというのは2001年にリリースした本作までなかったのでした。

といっても、2001年に出たのはいいのだけれど。あまり注目されることもなく、売れることもなく、いつしか廃盤状態に。でも、それはもったいないと思ったか、2020年になってニュー・ウェスト・レコードが限定カラー・ヴァイナルで初アナログ化。その際、1曲省いて曲順を入れ替え、リマスタリングを施し、アルバム・ジャケットも差し替えられて。で、今回、その新たなフォーマットの下でCD化およびストリーミングが実現した、と。そういう流れです。アナログも新たに再プレスされたみたい。

「フー・ユー・ゴナ・フードゥー・ナウ」「アイス・クリーム・マン」「ドリフター」「リベリオン」「リッチ・ウーマン・ブルース」など、全10曲中半分はのちにバンド入りで再録音されることになる楽曲。そういう意味ではきっちりしたアコースティック・デモ・ヴァージョン集みたいな捉え方もできそうな1枚だけれど。「ダウン・バイ・ザ・ボーダー」のようにかつてバンド入りで録音した曲の再演なども含まれており、油断はできません。

2001年オリジナル盤の情報をいろいろ確認しようと思って All Music のサイトをチェックしていたら、トム・ジュレックがかっこいいこと書いていた。

“これは夜のサウンドだ。そこには、ウシガエル、ヘビ、飢えたワニ、夢破れた者たち、亡霊のようなならず者たち、孤独な旅人たち、そして言い表わしようがないくらい荒々しい目つきで何かを捜し求める者たちがこぞって集い、この一人の男の音楽的な夢の中で語り合っている”

みたいな。まさにスワンプ。そんな1枚ですよ。最小限のダビングのみで綴られた、ダーティで、ファンキーで、暑苦しくて、でも、どこか切なくて、孤独な、湿地帯のブルース。堪能します。

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