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Disc Review

A’s and B’s / Harry Nilsson (BGO Records)

シングル・コレクション/ハリー・ニルソン

ずいぶん前から出る出るとインフォメーションだけはあったものの、発売予定日がどんどん延びて、なかなか現物が市場に顔を出さずじまいだったハリー・ニルソンの『シングル・コレクション(A’s And B’s)』。

ようやく英米のAmazonとかで“in stock”になって。国内流通盤(Amazon / Tower)もいちおう9月14日には出るとアナウンスされたので。晴れて紹介させていただきます。表題通り、ニルソンがRCAレコード在籍時、1967〜77年に発表した全シングル盤のAB両面を総ざらいした3枚組アンソロジー。英米でカップリング曲が異なっていたり、別曲をB面に入れて再発されたことがあったり、そのあたりも含めUS・UKのディスコグラフィを統合する形で編まれたなかなかマニアックな選曲になっている。

まあ、いろいろなところで、よく書いたり発言したりしてきたことの繰り返しになるのだけれど。ニルソンという人は何者なのか。彼をどうとらえるか。なかなか一筋縄ではいかなくて。

シンガー・ソングライターの文脈で語るのがいちばん自然なのかもしれない。が、真っ向からシンガー・ソングライター的な人なのかというと、これがそうでもない。確かに「1941」「カドリー・トイ」「子犬の歌(The Puppy Song)」「ワン」など、自ら素晴らしい楽曲をたくさん書き、歌い、様々なシンガーたちがそれをカヴァーしてヒットさせたりしているわけですが。

しかし、それじゃニルソンの代表曲は何か、という問いに対して、多くの人が挙げるのはダスティン・ホフマンとジョン・ヴォイトの主演映画『真夜中のカーボーイ(Midnight Cowboy)』のテーマ曲として1969年に全米6位まで上昇した「うわさの男(Everybody's Talkin')」、あるいは1971年から72年にかけて全米ナンバーワン・ヒットを記録した「ウィズアウト・ユー」で。確かにどちらもグラミーにまで輝いた大当たり曲ではあって。

が、ご存じの通り、「うわさの男」は60年代半ば、グリニッチ・ヴィレッジのフォーク・シーンで異彩を放ったシンガー・ソングライター、フレッド・ニール作。「ウィズアウト・ユー」のほうはパワー・ポップ・バンド、バッドフィンガーの中心メンバーだったピート・ハム&トム・エヴァンス作。どちらも他人のペンによる作品であり、グラミーにおいても“シンガー”としてのみ賞を与えられている、と。ソングライターとしてもひときわ優れた才能を持ち合わせていたニルソンにとって少々皮肉な事実なわけだ。

そういう人だけに、ニルソンの歩みをシングル盤の音源でたどるというのは、果たして適切なのかどうか。この辺にもファンそれぞれ、様々な思いがあるはずだろう。わりと場当たり的にB面を入れ替えて再リリースされていたり、深い意図もなくピックアップされた曲がセレクトされている部分もなきにしもあらずだけれど。

でも、これもまたひとつのニルソン・ヒストリー。ペリー・ボトキン・ジュニアやジョージ・ティプトンと組んでロックンロール以前のオールド・タイミーな音楽性へのアプローチを聞かせていた初期、リチャード・ペリーのプロデュースの下でロック色を強めた中期、ヴァン・ダイク・パークスやジョン・レノンとタッグを組んでより一層やさぐれ気味の混沌へと身を投じた後期。それらを一気に駆け抜ける全63曲だ。1972年に「ココナッツ」のB面として、さらに1974年に「デイブレイク」のB面としてカットされた「ダウン」は、オリジナル・ヴァージョンに加えてデモ・ヴァージョンもボーナス収録されていたり、ちょっとしたサービスもあり。

どの時代の歌声も、背後にはニルソンならではの強烈な屈折とブラックなユーモア感覚が横たわっている。この人、やっぱりかけがえがない。

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