Disc Review

Comet / Firefall (Sunset Blvd Records)

コメット/ファイアフォール

輸入盤は去年の暮れに出ていたのね。気づかなかった。なんと、ファイアフォールの新作アルバム。途中、新旧メンバーが顔を揃えたリユニオン・ライヴ盤が出たり、ビートルズへのトリビュート・アルバムが出たりはしていたけれど、オリジナル・スタジオ・アルバムとしては1994年の『メッセンジャー』以来、26年ぶりの1枚だ。今年になって国内盤(Amazon / Tower)も出たのでご紹介します。

ご存じのこととは思いますが、ファイアフォールというのは、元フライング・ブリトー・ブラザーズのリック・ロバーツと、トミー・ボーリンの後釜としてゼファーに加入したりグラム・パーソンズのバッキングをしたりしていたジョック・バートリーとが言い出しっぺとなって、元バーズ~ブリトーズのマイケル・クラーク、元スピリット~ジョ・ジョ・ガンのマーク・アンデスらとともに、1975年、コロラドで結成したカントリー・ロック/アダルト・コンテンポラリー・バンド。

適度なハードさとメロウさを併せ持つサウンドと、イーグルス~ポコ以降のカントリー・ロック特有のハイ・ピッチなコーラス・ハーモニーとを絶妙に組み合わせた音作りで大いに人気を博した。

1976年のデビュー・アルバム『ファイアフォール』、1977年の『ルナ・シー』、1978年の『イーラン』などはすべてゴールド~プラチナ・アルバムを記録。「ユー・アー・ザ・ウーマン」「シンデレラ」「ジャスト・リメンバー・アイ・ラヴ・ユー」「ストレンジ・ウェイ」などヒット曲も連発。1970年代後半のアメリカを代表するバンドのひとつへと成長した。ビーチ・ボーイズやハートとともに、1979年、江ノ島で催されたジャパン・ジャムにやってきたこともあった。懐かしい。

が、1982年に中心メンバー、リック・ロバーツが脱退。以降はジョック・バートリーを中心に、細かくメンバー・チェンジなども繰り返しつつ、新生ファイアフォールとしてライヴを中心に活動を継続。現在のラインアップは、結成以来ずっと在籍しているジョック・バートリー(ギター)のほか、いったん脱退した後、2014年に再加入したマーク・アンデス(ベース)、何度も出たり入ったりを繰り返しているデヴィッド・ミューズ(キーボード、フルート、サックス)、1984年以降ずっと在籍しているサンディ・フィッカ(ドラム)、そして2014年に新加入したゲイリー・ジョーンズ(ギター、キーボード)。

で、まあ、そんなファイアフォール。リック・ロバーツがいなくちゃなぁ…とか、顔を背ける自称辛口リスナーの方も少なくない気はするけれど、いやいや、これはこれでけっこうファイアフォールでした。

まあ、冒頭、バートリー作の「ウェイ・バック・ホエン」って振り返り曲でスタートして。いきなりビートルズ、ストーンズ、バーズ、ヴァン・モリソン、プロコル・パルム、アレサ、ラスカルズ、スペンサー・デイヴィス・グループ、マーヴィン・ゲイ、ディラン、ザ・バンド、CCR、ジェイムス・テイラー、CSN、レッド・ツェッペリンあたりの名前とか曲名を歌詞に織り込みつつ、1965年、67年、69年の音楽シーンに思いを馳せちゃったりしているもんで。懐メロじゃん、と、意識のお高いうるさ方から半笑いでボコられること必至ではありますが。

これ、ファイフォールの面々にしてみれば、自分たちがバンドとして成功をつかむ以前の、むしろ自らのルーツに言及したような曲なわけで。そう思って聞けばそれなりに興味深い。確かに、すべてを新しく感じた、すべてがイージーだったあのころにはもう戻れない…的な郷愁追想ものではあるので、言い訳のしようもないっちゃない。アルバム全編をそういう感触が貫いているのも確かだ。

でも、懐メロ全肯定のぼくにしてみれば、特に何の問題もないし、いや、むしろ、もしこういう音楽をやる若者バンドが今デビューしてきたとしたら大歓迎しちゃいそうな感じだし。思いきり楽しませてもらいました。

現メンバーたちのオリジナル曲に加えて、ゲイリー・バー作品、トニー・ジョー・ホワイト作品などもあり。個人的にはマーク・アンデスがかつて在籍していたスピリットの「ネイチャーズ・ウェイ」を歌っているのに盛り上がった。この曲にはティモシー・B・シュミットやジョン・マクフィーもゲスト参加。いやー、おじさん、より一層盛り上がっちゃいましたよ。

アルバムのラストを飾る「ニュー・メキシコ」ってバートリー作品は、もちろん、ファイアフォール往年の名曲、リック・ロバーツ作の「メキシコ」の続編的な1曲で。ここにマーク・トリッペンシーという、バートリーのコロラド音楽仲間が参加してリード・ヴォーカルを担当しているのだけれど。このトリッペンシーさん、イーグルスのトリビュート・バンド“ザ・ロング・ラン”でドン・ヘンリー役をつとめている人なんだとか。またまた自称辛口ロック・ファンさんたちからこっぴどく誹られちゃいそうな…(笑)。

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