Disc Review

The Bootleg Series Vol. 17: Fragments - The Time Out Of Mind Sessions (1996-1997) / Bob Dylan (Sony Legacy)

断章〜タイム・アウト・オブ・マインド・セッションズ:ブートレッグ・シリーズ第17集(1996〜1997)/ボブ・ディラン

ボブ・ディランのブートレッグ・シリーズ。1作ごとにテーマを立て、それに沿う形で過去の未発表音源をコンパイルする恒例のシリーズだけれど。それまでは違法な海賊盤などでしか聞けなかったレア音源を公式盤としてリリースしてくれるのだから。これはもうファンにとってはたまらないわけで。

初めて出たのは1991年。『ブートレッグ・シリーズ第1~3集』って3枚組だった。以降、『ロイヤル・アルバート・ホール:ブートレッグ・シリーズ第4集』(1998年)、『ローリング・サンダー・レヴュー:ブートレッグ・シリーズ第5集』(2002年)、『アット・フィルハーモニック・ホール:ブートレッグ・シリーズ第6集』(2004年)、『ノー・ディレクション・ホーム:ザ・サウンドトラック(ブートレッグ・シリーズ第7集)』(2005年)、『テル・テイル・サインズ:ブートレッグ・シリーズ第8集』(2008年)、『ザ・ブートレッグ・シリーズ第9集:ザ・ウィットマーク・デモ』(2010年)、『アナザー・セルフ・ポートレイト(ブートレッグ・シリーズ第10集)』(2013年)、『ザ・ベースメント・テープス・コンプリート:ブートレッグ・シリーズ第11集』(2014年)、『ザ・カッティング・エッジ1965-1966:ザ・ブートレッグ・シリーズ第12集』(2015年)、『トラブル・ノー・モア(ブートレッグ・シリーズ第13集)1979 - 1981』(2017年)、『モア・ブラッド、モア・トラックス(ブートレッグ第14集)』(2018年)、『トラヴェリン・スルー(ブートレッグ・シリーズ第15集)』(2019年)、『スプリングタイム・イン・ニューヨーク:ブートレッグ・シリーズ第16集(1980-1985)』(2021年)…と、徐々にペースアップしながら充実したリリースが続いて。

過去のものとはいえ初出音源だらけ。これら公式ブートレッグ音源たちは、改めて往年のディランの本当の凄みをぼくたちに力強く再認識させてくれた。もしかしたらそれはディラン自身にとっても同じだったのかも。ぼくたち聞き手同様、ディラン自身、自分が1960年代や70年代に放っていた永遠の輝きをこうした発掘音源を通し冷静に受け止めることができるようになったのではないか、と。近年の精力的なライヴ活動や新作の充実ぶりを思うにつけ、そんな気がしてならないわけですが。

そんなブートレッグ・シリーズの最新作、出ました。第17弾!

今回のテーマは1997年リリースの名盤『タイム・アウト・オブ・マインド』の時代だ。CD2枚組スタンダード・エディション(Amazon / Tower)と5枚組デラックス・エディション(Amazon / Tower)の2種のフォーマットでリリースされた。5枚組のほうで話を進めると――。

ディスク1が1997年リリースの『タイム・アウト・オブ・マインド』オリジナル収録曲11曲の最新リミックス版。ディスク2と3が“アウトテイク&オルタネイト”と題された初期ヴァージョン、別ヴァージョン、未発表アウトテイク集。ディスク4が1998〜2001年に収録されたオリジナル・アルバム収録曲のライヴ音源集。そしてボーナス・ディスク扱いのディスク5がブートレッグ・シリーズ第8集に当たる『テル・テイル・サインズ』で既発の別ヴァージョンおよびアウトテイク集。

いつもながらディランのブートレッグ・シリーズの蔵出し音源たちに接すると、これまでもう何度聞いてきたかわからないオリジナル・アルバムがまた違う輝きをもって聞こえるようになるから不思議だ。

リズムがハネてシャッフルになっている「ラヴ・シック」初期テイクとか、リリース版からは省かれてしまった強烈なブレイクが盛り込まれた「ダート・ロード・ブルース」とか、歌詞違いの「スタンディング・イン・ザ・ドアウェイ」とか、テイクを重ねるたび、あるいはライヴにかけられるたびに、キーやコード進行が変わる「トライン・トゥ・ゲット・トゥ・ヘヴン」や「ノット・ダーク・イェット」や「キャント・ウェイト」とか、初蔵出しとなった「ウォーター・イズ・ワイド」のカヴァーとか、なぜお蔵入りしたかわからない傑作アウトテイク「レッド・リヴァー・ショア」や「ミシシッピ」とか、どれもがやばい。

けど、今回の目玉はそうした未発表テイク群ではなく、むしろオリジナル・アルバム収録曲の最新リミックス・ヴァージョン群のほうだったりもする。

なんでも本作のレコーディングに際し、ディランはプロデュースを手がけたダニエル・ラノワに対し、自分が日々愛聴しているチャーリー・パットンやハウリン・ウルフ、リトル・ウォルターのような古いカントリーやブルースのアナログ盤から聞こえてくるような太く豊かな音像を要求したのだとか。そこでラノワは、すでにデジタル・レコーディングが主流となっていた時代の動きに逆行するように、24チャンネルのアナログ・マルチ・テープレコーダーを手配し、古き良きリボン・マイクを使い、レコーディングを進めた。

当時、ディランがベックの『メロウ・ゴールド』とか『オディレイ』に興味を持っていたこともあって、ラノワは当初サンプリングとかループを使ったり、曲の断片を再編集したりする方法論も模索したらしい。が、ディランがそうした作業で生じる待ち時間をいやがったため、それは却下。

結局、トニー・ガーニエ(ベース)、バッキー・バクスター(ペダル・スティール、アコースティック・ギター)らネヴァー・エンディング・ツアー・バンドのメンバーをはじめ、オーギー・メイヤーズ(オルガン、アコーディオン)、ジム・ディッキンソン(キーボード)、ジム・ケルトナー(ドラム)、シンディ・キャッシュダラー(ペダル・スティール)、デューク・ロビラード(ギター)ら多数のミュージシャンをスタジオに召集し、ディランに合わせてほぼ一発録り形式で生演奏。その音質をベックっぽいローファイ方向へ後処理する形でアルバムを完成させた。

そんなふうにラノワが構築した音像に関しては、当時わりと評判もよかった記憶があるけれど。あくまで個人的な感想として言わせてもらうと、正直、ぼくは今ひとつなじめなかった。ぼくが個人的にラノワの思わせぶりな音作りを少々苦手としているせいもある。が、これはディランが望んだ古いブルースのレコードとは真逆の音作りだとぼくは感じていた。

その点、今回のリミックスは、ラノワが施した、ちょっとやりすぎ気味のローファイな音響処理をできるだけ廃し、よりナチュラルな音像に仕上げられている。リミックスを手がけたのはマイケル・H・ブラウアー。21世紀に入ってからディラン本人がプロデュースするようになった諸作に通じる太い質感が素晴らしい。こっちでしょ、やっぱり。こっちのほうが絶対当時のディランの真意に近いはずだ。そういう意味でも、今回のブートレッグ・シリーズ17集、またまた聞き逃せない仕上がりだ、と。そう思う。

ここはやっぱり黙って全部入りの5枚組をゲットしたいところだけれど、新ミックスだけを楽しむのであれば、もちろん2枚組通常盤のほうで問題なしです。2枚組のほうはディスク1が5枚組同様の最新リミックス版。ディスク2が5枚組のディスク2と3から抜粋/再構成されたアウトテイク&オルタネイト集です。2枚組仕様のストリーミングもあり。

ちなみに、本作の日本版ライナーノーツというか、曲目解説というかを、光栄なことにまたまた書かせていただいたもんで。実はみなさんに先駆け、去年の夏ごろからこの音源に接することができていたのだけれど。今なお、えんえん、新ミックスにどっぷりハマり続け中。かっこいい。もちろんそんな思いをライナーにも綴らせていただいておりますので。機会があったらひとつ、読んでやってくださいねー。

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