Disc Review

At Newport / Joni Mitchell (Rhino Records/WMG)

アット・ニューポート/ジョニ・ミッチェル

待ちに待った1枚の登場です。

去年の7月24日、ニューポート・フォーク・フェスティヴァルにサプライズで登場し、見事全13曲のフル・セット・パフォーマンスを見せたジョニ・ミッチェル。21世紀に入ったころから難病に侵され、かつてのように音楽活動をできなくなっていたジョニにとって、これが2000年以来、初のフル・ステージ。ニューポート・フォーク・フェスへの出演としては1969年以来のことになる。そんな感動的な復活ステージの模様を収めたライヴ・アルバムの登場。いよいよオフィシャルでその“ほぼ”全貌を楽しめるようになった。うれしい。

このライヴに関しては、本ブログでもこことかこことかで大騒ぎさせていただいてきたし、朝日新聞のほうにも有料記事ながらコラムを寄せさせていただいたりもしているので、詳しいことはそちらをぜひご参照いただきたいのだけれど。

なんでも、ジョニさんは友人たちをローレル・キャニオンの自宅のリヴィングルームに迎えて“ジョニ・ジャム”と呼ばれるプライベートなセッションを2017年ごろから続けてきていたのだとか。きっかけを作ったのはエリック・アンダースン。徐々に参加者も増え、ドリー・パートンやチャカ・カーン、ハリー・スタイルズ、エレン・デジェネレス、ハービー・ハンコックらがリヴィングルームにやってきた。ポール・マッカートニーが顔を出したこともあったらしい。もちろん我らがブランディ・カーライルもその中にいて。そうした流れも受けつつ、翌2018年、ブランディはジョニさんの生誕75年を祝うトリビュート・コンサートでクリス・クリストオファソンをお世話しながら「ア・ケイス・オヴ・ユー」をデュエットしたり、ソロで「ダウン・トゥ・ユー」を感動的にカヴァーしたり…。

さらにその翌年、2019年にジョニさん、ブランディと彼女のパートナーであるキャサリン・シェパードらと夕食を共にした際、ジョニ・ジャムへのさらなる参加メンバーのセレクションをブランディに依頼したらしい。それに応えてブランディはていねいに、慎重に人選を続けジャムを継続。ついに去年の7月24日のニューポートのステージに椅子を並べ、そのリヴィングルームの様子を再現し、世の中に向け広くその成果を披露したのでありました。

こうしてブランディの他、アリソン・ラッセル、セリース・ヘンダーソン、ワイノナ・ジャッド、カイリーン・キング、ブレイク・ミルズ、ドーズのテイラー・ゴールドスミス、シューター・ジェニングス、マーカス・マムフォード、ベン・ラッシャー、フィル&ティムのハンセロス兄弟、ジョシュ・ニューマン、ルシャスのジェス・ウルフとホリー・レシグ、シスタストリングスらが勢揃い。ジョニのリヴィングルームでスタートしたクローズドなジャム・セッションが、その5年後、ニューポートのフェスへと舞台を移して、ぐっと壮大な規模で世にお披露目されたわけだ。

以前も書いた通り、当初は出演者未定の“コヨーテ・ジャム”として告知されていた謎のセット。それが当日、“ジョニ・ジャム”へと呼び名が変更されて。豪華な顔ぶれがステージに現われて。冒頭、まずブランディがMC。“友達と一緒にジョニ・ジャムを再現するためにやってきました。みなさんをリヴィングルームに招待します。目を閉じて、南カリフォルニアにいる気持ちになってください…”みたいな前説に続いて、仲間のミュージシャンたちをブランディが紹介。最後に予告なし、サプライズでジョニさん本人を呼び込んで。観客は誰もが驚愕。驚喜。大歓声の中、コンサートがスタートする。

曲順が入れ替えられていたり、カヴァー曲が2曲ほどカットされていたり、ちょこっと録り直しっぽい個所がうかがえたり、1曲ごとに歓声部分でフェイドイン〜フェイドアウトしていたり、実際のコンサートの様子とは違うっちゃ違う。後輩に全面的にパフォーマンスをまかせちゃってる曲もある。けど、それでもこの日の感動はしっかり、きっちり伝わってくる。曲と曲の合間のMCでジョニさんが好きなアルバムのこととか、かつて曲を書いたときのエピソードとかをブランディ相手におしゃべりしていたり。むちゃくちゃ興味深い。

ブランディとマーカス・マムフォードのサポートを受けながら歌われる「ア・ケイス・オヴ・ユー」で、“私は今も自分の足で立っている”という部分をジョニさんがたったひとりで毅然と歌って聞かせる瞬間とか、往年の透明な高音ヴォーカルとはまるで違う深く低い歌声で綴られる「青春の光と影(Both Sides Now)」で“私は本当に人生のことなんか何ひとつわからない…”と厳かに歌いきる瞬間とか、ラスト、出演者全員のコーラスを従えて歌われる「ザ・サークル・ゲーム」の“季節は巡り巡って回り続ける”というリフレインとか。同じ曲なのに、歌が聞き手にかつてとはまったく違うドラマを伝えてくれる局面が多くて。まじ、胸が熱くなる。最後、ブランディの“ジョニ・ミッチェルが帰ってきました!”というMCに対し、うれしそうに口にする“So proud”というひとことも泣けた。

3曲あったカヴァーのうち、「ホワイ・ドゥ・フルーズ・フォール・イン・ラヴ」と「ラヴ・ポーション・ナンバー・ナイン」はカットされて、「サマータイム」だけ収録。この「サマータイム」のブルージーな歌唱も本作のちょっとしたハイライトかも。

今年80歳を迎えるジョニさんだけれど、その“これから”に本気で期待してしまう。そんなライヴの記録。勇気、もらいました。ありがとう。8月4日発売のアナログ盤、予約しているので到着待ち。それまではとりあえず昨深夜にスタートしたサブスクのストリーミングで満喫します。あ、もちろんニール・ヤング同様、 Spotify では聞けませんよ(笑)。ハイレゾはもう売ってるから、こっちもゲットしちゃおかな。

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