Disc Review

Oh to Be That Free / Michaela Anne (Yep Roc)

オー・トゥ・ビー・ザット・フリー/ミカエラ・アン

3年近く前、本ブログでもYep Rocレコードへの移籍第一弾アルバム『デザート・ダヴ』を取り上げたことがあるミカエラ・アン。それ以来、3年近くぶりとなる新作が出ました。つーか、輸入盤は6月上旬に出ていたのだけれど。6月いろいろあってブログ休んでたので紹介しそびれていて。と思ったら、7月末にめでたく国内盤が登場(Amazon / Tower)。ということでこのタイミングでのご紹介です。

彼女のざっくりしたキャリアなどは、その『デザート・ダヴ』の紹介エントリーをご参照ください。あの移籍第一弾アルバム、けっこう評価も高くて、そのままの勢いでツアーしたり次作の制作に突入したりできていれば面白いことになっていたのかもしれないけど。

結果、ちょっと長めのインターバルとなってしまったのは、ひとつには新型コロナのパンデミックがあって、孤立を余儀なくされた中、アルコールに依存した時期があったようで、その後、第一子の妊娠があって、でも、その5カ月後、彼女の母親が脳卒中に見舞われて…。なんだかいろいろなことが重なったせいらしい。

そんな激動の日々を乗り越え、夫のアーロン・シェイファー・ハイスのプロデュースの下、心機一転。音楽仲間たちと作り上げた新作だ。それだけに、これまでの諸作以上に、ミカエラさんがどうしようもない欠点まで含めた自分自身にまっすぐ対峙し、内省を見つめ直そうとしているような。そんな1枚に仕上がっている。

妊娠後期を母親の介護に費やしたミカエラさんは、それら喜びと痛みの狭間で、お母さんにも、おなかの中にいる子供にも、そして何よりもひどく落ち込んでいる自分自身に、何度も何度も歌いかけることができるような、癒やしを感じることができるような、そんな楽曲たちを作り上げようとがんばったのだとか。

音楽的には、前作以上に従来のカントリー・テイストから大きく巣立った感じ。オールド・カントリーの魅力にハマる以前はジャズなどに親しんでいたという自身の幅広い音楽性が活かされているのかも。ぐっと率直にソングライティングして、それを独特の艶やかな歌声で静謐に綴ってみせている。淡々としている分、ここ数年、彼女の心に去来したさまざまな思いが聞く者にもくっきりと届いてくるような。

タイトル・チューンにあたる「オー・トゥ・ビー・ザット・フリー・アゲイン」って曲でミカエラさんは“けっして振り返らない/先のことも見ない/それが自由になる唯一の方法”とか歌っていて。禅で言うところの“前後際断”ってやつね。過去はどうあがいても変えられない、未来がどうなるか恐れていても仕方ない、今にこそ最善を尽くせ、と。真理は洋の東西を問わず…ってことですな。

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